君と僕の1週間

@akakoshika

君と僕の1週間

「大好きだったよ。拓実くん」

僕は2度と忘れないだろう。

彼女のあの時の顔を、声を、姿を。


*******

僕は、小鳥遊拓実。クラスではあまり目立つ方ではなく、数人の友達と教室の端で話す程度だ。


「よっす、今日は早いな拓実」


「まぁな。少し早めに目が覚めてね智樹」


ほら噂をすればってやつだ。こいつは高一、高二と同じクラスの高橋智樹。タカナシとタカハシで番号順何ほぼ前後になるため、いつも大体グループ分けとか一緒になる。


「くぅー、今日も桜様は可愛いなぁ」


「またそれかよ。確かに可愛いけどさ」


「だろー!マジで可愛いよな。俺もあんな可愛い彼女欲しいぃぃ」


そう、うちのクラスにはアイドル的存在がいる。

それが白詰桜だ。彼女は成績が良く、そしてモデル顔負けのルックスを持っていて、その上でとても人当たりがいい、いわゆる完璧人間ってやつだ。

確かに俺も可愛いと思うけど、なんか圧倒的に別次元の存在みたいな感じで、あまり好きとかそう言うことにはならない。

学校も終わりいつも通り途中まで智樹とたわいの無い話をして一緒に帰る。


「あぁーもうすぐ高二も終わりだな。来年は受験かと思うと気が滅入るな、まぁ勉強なんてあんましないけどな」


「僕は、前から勉強して先生にも相談してたから、そこら辺の公立の推薦ほとんど確定だから気持ちはわから無いよ」


「おのれ、推薦組ィ!!」


そう、今は3月に入っていて春休みまではあと少しだ。

普段は待ち遠しい長期休みも受験生という三年生が待ち受けていると思うと楽しみではなくなる。

そんなどこにでもあるような今日の帰り道。ピロン♪っとスマホが鳴る。


【今日は仕事が忙しくて、お父さんのお見舞い行けなさそうだから拓実が行ってあげてちょうだい】


「悪い、智樹ちょっと寄り道してくことになったからじゃあな」


「おう、じゃあな‼︎」


そんだけ言って智樹と別れて、病院に向かう。

病院に行き、父の部屋に行く。

父は僕が幼い頃に交通事故に遭い、それ以来ずっと植物状態だ。


「父さん、僕来月には高校三年生だよ」「今年もバレンタインはチョコが貰えなかったよ」「智樹は受験生になるから嫌そうにしているよ」


そんな近況報告をしてお見舞いを終わり、帰ろうと思い、歩いていると突然話しかけられた。


「ねぇねぇ、同じクラスの拓実君だよね?なんで病院にいるの?」


話しかけてきたのはクラスのアイドル白詰さんだった。なんでこんなところにいるんだろう?

「僕は、お父さんのお見舞いだよ。お母さんに頼まれてね。逆に白詰さんは?」


「えっ私はねぇ、内緒!」


いや内緒ってなんだよ。やっぱ白詰さんは可愛いけど不思議な人だな。


「ねぇ、拓実君。私がもし君のこと好きだって言ったら信じる?」


えっ、何この展開急すぎて全然話がつかめない。

どうゆうこと?これ今どうゆう状況なんだ?


「えっと、どう言うこと?」


「だからぁ、私は君のことを好きだって言う話だよ」


そうやって頬を膨らませて白詰さんが言う。その姿はとても可愛くて、白詰さんのことを好きなわけではない僕でもドキッとしてしまった。

そんな僕に、さらに追い討ちをかけるかのように上目遣いで「私と付き合ってくれない?1週間だけでもいいから」と懇願してくる。

流石にこんな可愛い人にそんなこと言われたら断れないのが男というものである。


「分かったよ、そこまで言うなら付き合わせてもらうけど、ほんとに僕でいいんだね」


「本当に?ありがとう!じゃあLINE交換しようよ」


本当になんでこうなったか分からないけどここから僕と白詰さんの恋人生活が始まった。


翌日、教室に早めに着き机に突っ伏して早く学校終わって家でゆっくりしたいと思っていたら、


「拓実君おっはよ〜!元気ー?」


朝から僕に挨拶する女子なんて心当たりはないのできっと勘違いだろう。


「もう、拓実君無視しないでよぉ!」


そろそろ返事をしないとヤバそうだな


「あぁ、おはよう白詰さん」


「ねぇ、なんで付き合ってるはずなのに苗字でさん呼びなの?おかしくない?桜って呼んでよ!」


桜様は苗字呼びにご立腹なようだ。本当になんで僕なのかが分からないけど、彼氏になった以上期待に応えなくては!


「分かったよ、桜。これでいい?」


「うむ、いったんはそんなものでいいよ」


「そうだ、今日の放課後は空けといてね!デートするから!じゃあ」

「え!」

デートだと。僕は生まれてこの方デートなんてしたこともないしいきなりデートって言われてもどうしようも、、、


「おいどうゆうことだよ拓実ぃィ?お前いつから俺らの桜様と付き合ってたんだよ!行ってみろやゴラァ!」 


って智樹や他の桜のファンからめちゃくちゃに絡まれてそれを抑える頃には、学校はもう終わりそうなくらいだった。

終礼が終わるとすぐに桜に連れられて学校の近くの映画館に来ていた。

そこには、去年からとても人気の恋愛映画を見にきたらしく、2人で一緒に映画を見た。

映画本編の内容は全く頭に入って来ずずっと隣で感情豊かに映画を見る桜の横顔に見入ってしまっていた。


「拓実ぐん、ずごく感動しちゃったよー!ずっごく面白がったね。ヒロインの人も可愛かったよね」


「うーん、僕は今の桜の方がずっと可愛いと思うけどね」


そうやって泣きながら言う、桜も可愛いなぁって思いつい口から漏れてしまう。

桜の顔が赤くなっていき、それで自分が何をしたか理解した僕も顔が赤くなっていった。話を逸らすために違うことを言おう。


「なんか、だいぶ遅くなったね、もう7時だね」


そんな他愛のないことを言うと。桜がにこりと笑って


「そうだね、せっかくだからホテルにでも行っちゃう?拓実君?」


は?ホテル?マジで言ってんのこの人?え、いやめちゃくちゃ行きたいけど俺たち会ったばっかだし。行けないよな。


「僕はもちろん行きたくはあるけど、そういうのは付き合ってまだ1日しか経ってないのにすることじゃないだろ。」


そう僕がいうと、桜はいきなり笑い出した。


「あー、面白い。行きたくはあるんだぁー?いいことを聞いたよう。そうだね今日はまだ少し早いかもね」


そう言って桜は突然顔を僕の顔に近づけて、僕にキスをした。


「ん!」


「あはは、今日はこのくらいにしておくね♪」


そう言って、桜は先に帰って行った。ヤバいな、今のはめちゃくちゃドキドキした。危うく意識を失うところだったぜ。本当に彼女は何を考えているんだろう。

その日の夜はその感触と彼女のことが頭から離れず一睡もできなかった。



そしてその翌日も、その次の日もボーリングに行ったりカラオケに行ったりした。


「やったー!ストライクだよ!拓実君!」って言って無邪気に笑って抱きついてくる桜や、とても綺麗な声で歌っている美しい桜、そしてたまにエッチな冗談で僕のことをドギマギさせてくる桜のことをいつの間にか僕は好きになっていた。


そして、付き合い始めて4日目の金曜日。今日もデートに誘われて連れられるがままにされ、ついた場所はラブホだった。え、なんでここ?どうゆう状況?


「ねぇ、桜なんでここ?」


「うーん、それはねぇ、私がね拓実君とそういうことをしたいって思ってるからだよ、もう付き合い始めて4日だし、キスだってしたんだしいいでしょ拓実君?」


そう言う桜にはいつものような元気はあまり無いように見えた、だからいつもだったらドキドキしただろうセリフに何も感じられなかった。


「なあ、どうしたんだよ?なんでそんなに生き急いでるかのように行動するの?まだ僕たち高二なんだからゆっくりしっかり関係を築いていけばいいだろ」


「いやぁ、別にそういうわけではないんだけどね」


と何か歯切れの悪そうな様子で答え何かを考えているようだった。

彼女はそうだねそろそろ言っとかないとねっと覚悟を決めた顔をして言う。


       「私、余命3日なの」


嘘だろ?全然そんな様子今まで見せなかったじゃないか。俺はいつもみたいに桜が冗談だよって笑い飛ばしてくれることを待った。

でも、次に彼女の口から出た言葉は違った。


「私ね、実は『身体塵散病』って言うとても、珍しい病気なの。感染してから10年経つと体が塵になって消えていくんだって。」


「なぁ、いつもみたいに冗談なんだろ?そう言ってくれよ桜」


「ううん冗談じゃないんだよ。感染しても、あまり体調には影響しないから分からないんだけど、髪の毛とかを切るとその切り離された髪の毛が塵になって消えていくの。それで変だなと思った親が私を病院に連れて行ってくれて、検査したらね」


「それからは、この10年を優等生みたいに生きて両親が私が死んだ後も自慢できるような娘になろうとして生きてきたんだけど、君と病院で会った日に余命1週間って言われた時に最後くらいは好き勝手に行きたいと思ってさ」


ソレってつまり、僕と付き合おうとしたのは誰でも良かったから言うことを聞いてくれそうな僕を選んだだけってことなのかよ。

なんだよ、桜が僕のこと好きなのかと勘違いしちゃったじゃん。


「何だよそれ!ようは俺じゃなくてもよかったってことかよ!」


俺は、もうすぐ死んでしまうって言う桜に何てこと言ってんだろう。でも、やっぱり止められない。


「もういいよ、他のそこら辺の男とでもやってろよ尻軽女!」


そう言うと彼女はとても傷ついた顔をしてそれでも必死に言う。


「違うよ、拓実君じゃないとダメだったの!」


僕はもう、そんなこと言われても信じられなかった。

だから、桜をその場に置いて帰ってしまった。


その日の夜は何も考えたくなくてとにかく叫んで泣いていた。そして、朝になってピロン♪とスマホがなる。


【拓実君に、話したいことがあるから、最初に会った病院に来て。】


それだけの内容だった。昨日の事が頭から離れなかった僕は、予定もないし行くことにした。急いでその病院に行く。そこには、彼女の姿があった。


「おはよう、拓実君」


桜はいつもみたいに僕に挨拶をする。とても明日死ぬようには見えない綺麗な笑顔で。


「おはよう、白詰さん」


僕の口からは何故かとても冷たい言葉が飛び出た。彼女はとても傷ついただろう、それでも気を取り直して僕に言う。


「取り敢えず、私についてきてね。」


僕はうなずき桜についていく。そして連れてこられた場所はよく見覚えのある父の病室だった。


「何で、君がここを?それに、何でここに連れてきたの?」


彼女はゆっくりと話し出す。


「私はね、昔に交通事故に遭いそうになった事があるの。その時にね、男の人がね私のことを身を張って助けてくれたんだ。

だから私はその人にお礼を言おうとしたの、そしたら救急車が来ていてその後男の人は運ばれて行ったの。

そして、その後に植物状態になったことを知って。

それ以来何回かお見舞いにもきてたんだ。

その時に私のせいでお父さんが植物状態になったことを知ったあなたは、私のことを責めずによかったねって言ってくれたんだよ」


小さかった頃だからあまり覚えていないがそんなこともあった気がする。


「それでね、その時にすごく優しい君に幼いながら恋をしてたんだと思う。でも、それから2年くらいかな経った時に私が後10年で死んでしまうことを知って。死んでしまう私と仲良くすると私が死ぬ時に拓実君に迷惑をかけるって思って拓実君への想いを封印してずっと過ごしてたんだ」


僕はこの話を聞いて嬉しくなっていく心もあったが、それ以上に昨日の自分の言った事がどれだけ彼女を傷つけていたのかを想像して胸が痛んだ。


「それでもね、拓実君と同じ高校になって同じクラスでいるうちに拓実君の真面目な姿や、友達といるときはよく見せる笑顔を見てるうちにもっと好きになっちゃったんだ」


困ったように笑って言う桜の顔を見てとても複雑な気持ちになる。気づいたら瞳から涙が溢れていた。


「そして、余命1週間って言われた日に、拓実君に会っちゃって最後の1週間は自由に生きてやろうって思いが溢れてきて、告白しちゃったんだ」


そんな風に生きてきたなんて思えなかった。今すぐ昨日のことを謝りたかった。

僕もいろんな想いが溢れそうだった。


「ごめん、そんな想いで僕に付き合ってくれてるなんて思ってなくて。昨日はすごくひどいことを言っちゃって」


僕がそう言うと彼女はいつもの笑顔で


「そんなことないよ、私が何も伝えなかったし後3日しかないからって動揺してて、変な行動しちゃったのは確かだからね。好きでもない女の子からあんなこと言われても嫌だよね?」


と僕のことを慰めてくれた。その彼女の優しさが僕はとても愛おしく思えた。違うよ桜、僕はもうとっくに君のことが、、、好きなんだ。愛してるんだよ。


「桜!僕は君のことが大好きだぁ‼︎」


そっからの記憶は曖昧だ。まず病院を出てその後は2人で話しながら歩いて、いつのまにか昨日のホテルまで来ていた。

そこで僕と、彼女は激しく愛し合ったお互いが野生に戻ったかのように、限られた時間を無駄にしてたまるかと言うように。

その時の彼女はとても美しく妖艶だったことだけは今でも覚えている。


そして朝、彼女に僕は聞く。


「死ぬ瞬間に何をしていたい?」


「私は拓実君と一緒に桜を見たいなぁ。どうせ散るなら桜と一緒に散りたいじゃん?名前も桜なんだしさ」


「分かったよ。じゃあ今から桜を見に行こう今年は東京が開花トップだったから今が見時だって。ちょうどいいね」


そう言って僕と彼女は、花見に行った。

もちろん彼女には死んでほしくないし、いつまでも一緒にいたい。それでも彼女には最期は幸せでいて欲しいから、笑顔でいてほしいから、僕も笑顔で彼女を送り出すのだ。

そう昨日決めたのである。


公園に着くとベンチが空いていたので2人で並んで手を繋いで座った。今日は風が強く桜の花びらが舞っていてとても綺麗だ。


「拓実君、私が死んでも忘れちゃダメだよ」


「もちろんだよ。忘れられるわけないよ」


そんな風に話しながら数分が経つと彼女の身体が塵になり始めていた。

そんな彼女を見ているととても心が辛くなり泣きたくなる。それでも笑顔で送るために泣かないようにする。


「ねぇ、拓実君。この1週間すごく色々あったけど楽しかったね。もうすぐそれも終わりと思うと悲しいけど、拓実君と最期を迎えられるから幸せだよ。天国で待ってるから拓実君はゆっくり来てね」


そう言われて、この1週間の出来事が頭の中を駆け巡る。映画を見る彼女の横顔、ストライクで喜んでる彼女の無邪気さ、歌う時の彼女の声、僕をからかって楽しむ彼女。感情が溢れてきた。もう耐えられなくて涙が零れる。


「もう!泣かずに見送ってくれる約束でしょ!こっちまで泣いちゃうじゃん」


「ごめんね、でも我慢できなくて。また、天国で」


その間にも、彼女の体はどんどん散っていく。そして彼女は今までで1番いい笑顔で言った。


「大好きだったよ。拓実君」


そして最期は桜の花びらの中美しくキラキラ輝く光になって完全に散ってしまった。その姿はとても綺麗で彼女の生き様を表しているようだった。

もう彼女には届かないかもしれない。だけど僕は言う。


「僕も大好きだったよ。桜」

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