母からのプレゼント

私はずっと隠してきたことがある。

この秘密を今日、親友に打ち明けようと決めた。

とても怖いけど、大切な親友に嘘を吐き続けるほうがもっと辛いから。



親友に初めて出会ったのは去年の夏。

その日は花火大会があって、少しだけ見ようと外に出た。

河原には数えきれないほどの人が溢れていて、人混みが苦手な私は人混みから離れた高架下に避難した。


避難しているうちに花火が打ち上がる時間になってしまって小走りで向かう途中、君に出会った。

花火が打ち上がる大きな爆発音と共に私の心も撃ち抜かれたみたい。


君の瞳は花火よりもきらきら光を帯びて、髪の毛は夜空よりも深い黒髪。

花火を背景にした横顔は彫刻のようで…


私が見惚れて足を止めていた時、君がこちらを見た。

目が合った。

見つめていたことがばれてしまっただろうか、不安になってその場から逃げ出した。

全速力で、後ろも振り返らず。


次の日、再び私の前に君が現れた。

「君、昨日の花火大会にいたよね?」


終わった。

ずっと見知らぬ人物から見られて、さぞ不快だっただろう。

私のことを怒っているに違いない。

謝らないと。


「ご、ごめんなさい…」

「なんで謝るの?」

「…ずっと見られて、嫌…だったでしょう?」

「もしかして、ずっと僕のこと見ていたの?」

「…はい…」

「それは光栄だなあ。君みたいに整った顔の人にそう言ってもらえるなんて〜」


嫌じゃなかった…?

じゃあなんでここに?


「僕、君と仲良くなりたくて。君のこと探すの大変だったんだよ。いろんな人に話してさ〜」


仲良く…?

私なんかと仲良くしてくれるの?


「それ…本当…?」

「うん」



これが初めての出会い。

私からは絶対に話しかけられなかった。

まさか君の方から話しかけてくれるなんて、奇跡としか言いようがない。

きっとあの時に運を全て使い切ってしまったんだ。


なのにまだ、君に親友以上を望むなんて。

傲慢だよね。

これが最後のわがままだから。

結ばれなくたっていい。

ただ、この気持ちに区切りをつけてしまいたいだけだから。


絶対に結ばれるはずもない。



「お母さん、私、どうしたらいい…?やっぱり相手を困らせてしまうかな?」



その時、仏壇横の本棚から一枚の紙がひらりと落ちてきた。



「クッキーのレシピ?」


お母さんの字だ…

バレンタインは、これを作ろうかな。

クッキーの意味は、「友人でいたい」だから心配ないだろうし。


でも…、このレシピ材料がちょっと変じゃない…?

材料にどうして渡す人との写真がいるの?

気持ちを込める的なことかな…


「とにかく作ってみよう。お母さんのレシピだもん、何か理由があるはず。」


小麦粉、卵、砂糖、溶かしバター…


「バターは渡す相手への気持ちで溶かす?お母さん、面白いこと書くなあ…。渡す相手への気持ちを使ったら蒸発しちゃうくらい強い想いもあるのに。」


渡す人との写真を見ながら、その人との思い出を頭に浮かべつつ、材料を混ぜていく。

そして、最後に伝えたい想いを込めて型を抜き、焼く。


「私の伝えたい想い…」



「…ん?なんで机にクッキーが?さっきまでなかったのに。」


『屋上に来てください。話したいことがあります。』


「この字って…」



「来たよ。話したいことって?」

「来てくれてありがとう。」

「当たり前だよ、僕たち親友じゃないか。」

「…うん、そのことなんだ、話したいこと。」

「そのこと?」

「実はさ…、


僕、今まで友人のように振る舞っていたけど、ずっと友人だなんて思っていなかったんだ。

ごめん、今まで黙ってて。言えなかったんだ。君が親友だって仲良くしてくれているのに、なんだか…、裏切るみたいで。」


「………そんな。

今までの思い出は全部偽りだったの?」


「それは違う。でもね、もう僕はこの関係を続けられない。」

「そんな、どうして…?」

「君のことが好きなんだよ、恋愛的な意味で。君にとっては不快なことだってわかってる。」


今までだってそうだった。

僕の気持ちは、他の人に受け入れてもらえない。

こんな不毛な恋は、もう今日で終わらせるんだ。

学校だってもうすぐ卒業なんだから。

今日で全部おしまいにする。


「なんで…、なんでそんなふうに決めつけるの?僕がいつ君のこと、君の気持ちを不快だと言った?そんなこと思っていないよ。今だってほら…。」


どくんどくん…


「こんなに心が躍っているんだ。」


「そ、そんなわけ…、どうして…?」


「僕も君と同じ気持ちだから。

好きなんだ、君のことが。ひと目見たあの日から。


人混みの中、花火を見ている君の姿が輝いて見えた。運命なんだって確信した。勇気がなかったせいで、友達としてしか接することはできなかったけど。


これからは別の形で君と一緒にいたい。

…恋人として。」


「…そんな…ありえない…」


世界が歪む。

地面も、君の顔もぐにゃぐにゃと。

今までの経験も、気持ちも、全部が歪む、崩れていく。


「返事を聞かせてよ、恋人になってくれますか?」


お母さん、あのレシピ、本当だったんだね。

僕は幸せになってもいいんだ。

誰かを好きになってもいいんだ。


「はい。」



『母の手作りクッキー(みんな幸せになっちゃう☺︎)

材料—小麦粉、溶かしバター(たっぷりの相手への愛で溶かす)、卵、砂糖、相手との写真(混ぜるときに思い出も一緒に詰め込もう☆)』

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2月14日、私の願いごと。 紫倉野 ハルリ @a_85

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