魔王イドには関係ない!

しゃぺ

第1話 TS転生とドラゴン

 死んだ……らしい。


 自分で言うのにはおかしな表現だけど"らしい"


 というのも、死ぬ前後の記憶がほとんどない。


 というかそれ以外、家族とか恋人とかの名前や顔すらも。


 覚えてることといえば、すごいイケメンが邪神と名乗り、一方的に自分に語りかけてきた。気がする。すごくこの記憶もあやふやだ。


 さらに言うと、自分の名前だけは忘れていなかった。


 宇井土真緒


 そして、それ以外にも記憶があるんだけど、それは自分の記憶じゃなくてよく分からん地理と魔法陣みたいなのと一般的な日本の常識と知識だけで自分のことについて不思議なくらい覚えてなかった。


 そしてそんな事が一瞬で考えられるこの体って異常じゃねって思いながら魔法陣みたいなのを思い浮かべてみようとした瞬間、周りの圧倒的な情報量によって頭の中がショートした。




――――――――――




 ポタ……ポタ……


 水滴の音がする。どうやら気絶してたみたい。


 起き上がって辺りを見渡すと、ほのかに光る土の壁と何かおかしいものが見える。


 ゆらゆらしている気流みたいな何かが見える。


 まるで暑い時に空けた冷凍庫から出てくる白い空気みたい。


 それを直感的にも視覚的にも感じられるのに触れない。


 これは一体なんだろう?多分あの魔法陣を頭の中にイメージしたのが原因かな?今まで見えていなかったし。


 もう1回思い出してみたけど今度は気絶することはなかった。


 どうやらあれは最初だけらしい。


 魔法陣をイメージしていると気流が体の中に吸い込まれていく。


 吸い込み始めると少し体がポカポカする。


 これは一体なんなんだろう……。


 気流をよくよく観察してみるとある所から流れてきていくつかの場所に吸われてる。


 吸われてる場所をよく見ると小さい透明な結晶があった。


 これも私と同じように気流を吸ってるみたい。


 ふと、集中が途切れて、吸収が止まる。


 依然として体はポカポカするままだけど、少し体を動かすと調子がいい気がする。


 そんな事を考えていたらあることに気がついた。


 目では何も光を感じられないのに、周りが見えるのだ。


 周り真っ暗のはずなのにこの気流のおかげで辺りの状況が立体的に分かるんだけど、これってシックスセンスってやつ?


 あと、色々周りがおかしな状況にやっているのを差し置いて1番気になるのが……








 私、男になってる!?!?




――――――――――




 しばらく体をまさぐってみたが本当に男になっている。


 鏡で今の顔を見ていないからちゃんと分からないけど明らかに体つきが違うし身長も今まで145cmだった私と比べてかなりすらっとなってる。多分180は硬い。


 そして何だか高そうな皮でできたコートとブーツにすごく滑らかな繊維の肌着と服を着ている。


 こんな服来たことないから多分、あの邪神が用意して着せたのだろう。たぶん。


 あと胸が無くなってる……。


 私のB……。


 なけなしの胸……。




――――――――――




 しばらくショックで立ち直れなかったけど気持ちを切り替えて今は周りの探索中です。


 ここは洞窟みたい。


 私は今、謎の気流みたいなものが出てくる場所を探して当てずっぽうに歩いてるんだけど、だんだん気流が濃くなってきてるのでこっちの方向で間違いないはず。


 今まであっても小さい結晶くらいだった吸収石(勝手に名付けた)が今ではチラホラ私の身長より大きいものが生えていたりする。


 さらに歩くと光る苔がある場所があり、床から大きな、それこそ博物館で見るよりも大きい柱みたいな吸収石があった。


 そこに私の姿が反射する。


 白銀の長髪


 少し高い鼻


 キリッとした黒色の眼


 整った西洋人の顔


 黒い皮のコートやブーツ、ベルト、白い絹みたいに滑らかな服を身につけたイケメンが間抜け面を晒して呆然としていた。




――――――――――




 しばらく呆然とした後、私はまた歩き出した。


 ここで足を止めていても無駄だと思ったからだ。


 1時間ぐらい歩いた。


 小腹が空いてきた。


 そういえば食料がない。


 食べられそうなものと言ったらそこらにちょっとずつ生えている光る苔だけど、さすがにそれを食べるのは最終手段にしたい。


 普段だったらこれだけ歩くとそれなりに疲れるはずなんだけど、この体は全然疲れない。


 ほんの少し疲れたような気がしても魔法陣をイメージすると気流を吸い取って直ぐ回復する。ついでに空いていた小腹も回復した。


 やったね、食料問題解決だよ。


 それにしても、歩幅も大きいしどんどん進んでいて身長が高いっていいね……胸ないけど。


 代わりにこの体は細マッチョってやつでギュッと引き締まった胸筋がくっついていた。


 また、さらに1時間ほど歩くと濃密って言う表現がぴったりなくらい密度が濃い気流になってきた。


 ここまで来ると全部床も吸収石で出来ていてとても神秘的な場所っぽくなっている。


 ふと目を凝らすと洞窟の終わりが見えた。走って行くとパッと視界が開けた。


 どうやらかなり広い空間に出たみたい。


 大きさで言うと多分東京ドーム10個分ぐらい。


 そしてその空間の真ん中にはとても大きな湖がある。これが地底湖ってやつなのかな?


 地底湖の周りは全部歩けるようになっていて1周歩き回ってみたんだけど、特に目新しいものはなかった。


 そして今1番気になるのはこの地底湖の真ん中にある巨大な孤島とその上にある大きな龍?ドラゴン?の骨なんだよね。


 地底湖を見た感じ浅そうだし孤島に行ってみようかな。




――――――――――




 パシャパシャ


 水を進む音。結構冷たいかなって思ったけどそんなことなくて心地いいくらいの水温。


 深くても30cmぐらいしかないから結構余裕で進める。


 5分くらい歩くと孤島と湖の端の間くらいの距離になるんだけど改めて見るとなかなか大きい骨で多分30メートルは超えてるんじゃないかな。


 そして、その骨を取り囲む鳥籠のように細い色とりどりの細い結晶で囲まれていることに気がついた。


 もしこのドラゴン(仮)が生きていたらどんだけでかかったんだろう。多分高層マンションとかより大きいよね。


 RPGとかだとこういう所にお宝とかあったりするけどもしかしてそういうのあるかな。あったらいいな、お宝。




――――――――――




 やっと孤島に着いた。遠くから見てもあんなに大きかったのに近くで見るとめちゃくちゃでかい。


 ちょっと語彙力が崩壊するレベルで迫力がある。


 それとどうやら気流みたいなのはこのドラゴンから出ているみたい。


 見たことない光景でとても神秘的に見える。


 あと、ドラゴンを閉じ込める鳥籠のように地面から生えている結晶は、今まで見てた無色の結晶に似ている。


 この細い結晶は合計で7色あってこのドラゴンの骨を取り囲むように49本配置されてる。


 それがこのドラゴンの水晶から出た気流の大部分を吸い取っているみたいでこの鳥籠の中に入ると気流の密度が段違いだ。


 しかもそれぞれ赤、橙、黄、緑、青、藍、紫色になっていて薄ら光っているのも神秘的だ。


 日本にいた頃のだったら多分怖がって近寄らなかったかもしれないけど今の身体になった影響なのか冒険しているみたいですごいワクワクする。


 まるで子供の頃に戻ったみたいだ。




――――――――――




 孤島の周囲を気流みたいなのを手がかりに探索していくとちょうどドラゴンの頭側に出た。


 その頭の真ん中に大きな丸い真っ黒な水晶が嵌めてある。


 見た感じ謎の気流の発生源みたい。


 とても不思議。


 触ってみたいと1度思うとなかなか目が離れない。


 この魔の魅力にさからえず、私はこれに触ってみることにした。


 しかし、背伸びして触ろうとしても、黒い水晶の嵌っている所はそれなりに高いところにあるのでので届かない。


 なので、ドラゴンの骨を登って触ってみることにした。


 この骨はとても硬いみたいで革靴で歩くとまるで鉄板の上を歩いているみたいだった。


 登りきって直径50センチぐらいの黒い水晶に触ると気づいたら真っ黒な空間にいた。


 ふよふよと浮かんでいると不意に


『立ち去れ、人族よ』


 と、とてもおごそかな雰囲気の声がした。


 びっくりして声がした方向へ振り返るとそこにはとても大きなドラゴンがいた。


 ちょうど見覚えのあるサイズ感であの骨の持ち主が生きていたらこんな感じかな?


『聞いているのか、立ち去れと言っておるのだぞ……


ここは人が来て良い場所ではない』


 再び声を荒らげる。しかし私は喋ることが出来なかった。


 何故かわからないが全く喋れない。


 私は出来ないという意志を込めて手でバツを作ろうとしたがその肝心な手がというか、体がなかった。


『ん?そなたもしや喋れないのか?奴らかと思ったが違うのか……


ふむ……


見たところマナは普通の人族より多いが勇者や英雄、賢者達ほどでは無いな……


しかし、とても奇妙なマナを持っておるな……


我のマナも混ざっている……


だからそれだけのマナしかないのにここへ入れたのか……


して、人よ、どうやってそれを取り込んだ?と聞いても喋れんか……


力を使ってしまうが仕方ない』


 そう言って目の前のドラゴンが


ガァァァ


 と雄叫びを上げると1点に集中している時に急に集中が途切れた時みたいに周りの景色が戻ってきた。


 どうやら元の場所に戻ったらしい。


 すると


ゴゴゴゴゴ……


 鈍い音を立てて目の前のドラゴンの骨が動き出した!


 私は骨の上から転がり落ちはしたものの体が勝手に動き、パッと受身をとってそのままヒョイっと立ち上がった。


 前の私なら考えられないくらい俊敏な動きに自分でしておいてすごく驚いた。


 ドラゴンは伏せていたからだを持ち上げ頭がこちらへ向いた。


 すごい迫力だ。目とか皮膚のとかがないのがその凄みを高めている。


『人族よ、再び問おう……


どうやってここへ来た……?


なぜ、我々のマナを持っている』


 なぜと言われても……。でも言わないと襲われそう。


「分かりません、私が気がついた時にはここに繋がる洞窟にいました。あとマナってなんですか?」


『ふむ、知らぬのか、奇妙な人族よ……


我にはそなたたちが嘘をついているかどうかが分かるが嘘をついているようにも感じられぬ……


マナとは魂が精製する純粋なエネルギーだ……


そんな当たり前のことを知らないのか……?


やはり時代が経ち過ぎたか……


して、お主は一体何者だ……?


数千もの時が過ぎているはずだが我はこれまでにお主以外の人族と会っておらぬ……


ゆえに、お主はただならぬものであるだろう……


話せ……』


「あの実は…………




――――――――――




…………という訳なんです」


『なるほど……


つまりお主は邪神に男に変えられて、ここに連れてこられ、探索し我を見つけ、好奇心で我の魔石に触れたという事だな……?』


「はいそうです」


『そうか……


先程も言った通り、その話はお主の主観・・では正しいのだろうな……


それが真実なら滅多にないことであろう……


しかし、それだけでは我のマナが混じっている理由がわからぬ……


途中で言っていた魔法陣とやらをここで使ってくれぬか……?


我にはそれが原因だと思うのだが』


「わかりました」


 頭の中に例の魔法陣をイメージする。


 すると一気に体がポカポカしてくる。


『もう良いぞ』


 そう言われたので、慌てて魔法陣のイメージをやめる。


 どうやらここは気流の密度が濃いから一気に吸収したみたいで少し気持ち悪い。


「ど、どうでした?」


『我の推測の通り、その魔法陣が周りのマナを吸収し、取り込んでいる……


よく観察させてもらったがその魔法陣はおおよそ人の手に余るものだ……


我にとっても難解でしばらく解析しなければその全貌がハッキリしないほどの代物だ……


やはり、かなり高位の神が関わっているな』


 そう言って考え事をしている雰囲気のままドラゴンは沈黙する。


 しばらくたって埒が明かないと思い、疑問に思ったことを聞いてみる。


「あ、あの質問なんですけど」


『なんだ』


「私って元の姿に戻れますか?」


『それはお主を連れてきた神次第だな』


「え、じゃあ、私一生このままの姿で生きることになるんですか!?」


『何もしなければそのままであろう……


しかし、お主を変えた邪神にかけあえば元に戻れるかもしれぬ。


そして我はその邪神に心当たりがある』


「ほんとですか!?」


『ああ、そういうことをしそうなイケメンな神を女神様から聞いた事がある……


名をロキというらしい』


「じゃあ、そのロキっていう神様に頼めば元の姿に戻れますか?」


『その可能性は高いだろう……


聞いたところによると己の姿を変えてイタズラをするというので評判らしいから、他人の姿変えられるであろうし、間違いないだろう』


「なんだか安心しました」


『それは良かった』

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