第59話 切り替えが大事

「あーあ、クレアやっちゃったわね」

「ドゥルガさぁん…」


 龍、それも古くから生きる絶大な力を持った龍。

 それは人間にとって脅威以外の何物でもない、そんな龍を。


「まさか、契約獣にするとは…凄まじいな」

「あ、あのクレアさん? 顔色が…」


 ネビルスの言う通り、クレアの顔色は良くない。


「当たり前ニャ、あの黒龍の責任者がクレアになったからニャ」


 そうなのである。

 契約獣との契約は雇用に似ている、相手の望む物を差し出す代わりに言うことを聞いてもらう契約だ。

 それは魔力だったり食べ物だったり色々あるが、今回の黒龍の望む物は無く(実際にはバティンが作ると言っている巣が望みなのかもしれないが)無償での奉仕。

 しかし、雇用主はクレアであることには変わりがない。よって、従業員の不始末は雇用主が責任を負う。


 人類で古龍と契約を結んだのはクレアが初めてである。

 そもそも人が扱える獣では無い。そんな化け物との契約、気付いたら既に主従関係が構築されるという事実に最早クレアの思考は停止し、ただただプレッシャーがのしかかっている。


「案ずるな娘よ。気楽に構えておけば良い。なに、万一何かあるようなら我が手助けをしよう」

「バティンさん本当ですか? ならちょっと安心しました。ありがとうございます!」


 クレアは感謝した。

 実際、この悪魔は出来ないことなどないのではないか?と思うくらい万能だ。

 そんな超絶な悪魔が手を貸してくれるのであれば問題はないだろう。

 少し心が軽くなってスッキリしたクレアにはバティンが神様のように見えた。


 しかし、そもそもの原因はこの悪魔である事をクレアは混乱で頭からすっぽり抜けている。

 またバティンへの依存度が上昇した。


「クレア、アンタねぇ…そもそもバティンのせいじゃないの。何感謝してんのよ」

「あ! そうでした! バティンさん、酷いですよ!! せめて説明してから実行してくださいよ」

「羽虫め、余計な事を」


 そんな状況下でシャムが発言する。


「とりあえず、ウチの村の問題は解決したニャ? なんかよくわからない事になったけど感謝ニャ!」

「あー…まぁそうね。解決で良いんじゃないかしら」


 ドゥルガは若干歯切れ悪く言う。

 自分で原因を作って自分で解決するというマッチポンプな事件にあまり胸を張れない。


「なに、感謝される程の事ではない。これも聖騎士の勤めの内だ」


 レミエルは何故か胸を張って言った。


 村の再興には時間がかかる事だろう。しかし、もう脅威は去ったのだ。獣人達がまた森で暮らせる日も近い。

 これで一件落着であった。


『あの…そろそろ名付けして頂けないでしょうか…?』


 ーーー


「うわぁ、凄いですねぇ!」


 現在バティン一行は空にいた。

 それだけであれば珍しくないのだが、違っているのはクレアが抱えられていない点。

 龍の背中に乗って獣人の暮らす洞窟へと向かっていた。


「龍の背中に乗ることになるとは…中々得難い経験だな」

「まぁ、アタシ達は飛べるしね。あんまり需要が無いからアレだったけど、悪くないわね」

「た、高いニャ…落ちたら死ぬニャ…」


 あまり高い所が好きではない、というより苦手なシャムはそこまで楽しめていないようだが、いつもとは違う移動にクレア達は概ね楽しんでいた。


「ふむ、中々の速度である。防風の魔術を解いたら皆吹き飛ぶであろうな」

「いや師匠…それは思っても口に出したらダメですよ…」


 高速で移動する龍の背中に乗っている為、バティンは風除けの魔術を施している。

 確かにバティンの言う通り、魔術を解いたら吹き飛ぶのであろうが、バティンなら興味本位でやりかねないと思ったネビルスは不安であった。


「あの辺かな? あそこで降ろして下さいエイシェトさん」

『承知しました』


 黒龍はエイシェトと名付けされ、完全にクレアと契約が繋がった。

 もうクレアは深く考えるのをやめ、まぁいっかの精神に達していた。

 バティンと行動するのに普通の神経ではやってられないのだ。


 恐らく人間界での最古の龍を新たに仲間にしたバティン一行の現在は

 悪魔、女神、聖騎士、魔術師見習い、一般人、黒龍(new)である。

 普通の人間であれば「そんなパーティいるわけねーだろ、寝惚けてんのか?」と言われる事間違いなし。

 客観的に見て、間違いなく異常。それも歴史上最初で最後の異常なパーティだろう。

 そんな異常パーティが獣人の避難場所へ降り立つ。


「黒龍だぁ!! 皆、逃げろぉ!!」

「クソっ! あの悪魔はダメだったのか!?」

「シャムはどうした!?」

「うわぁあん! ママー!!」

「早くっ! こっちに逃げるのよ!!」


 どこか、最初の方の村で見たような光景。


「ふむ、久しい感じである」

「忘れてましたね、どうしましょう…」

「みんな、落ち着くニャ! 大丈夫ニャ!」


 シャムが必死に宥めるが誰も彼も聞いていない。


「バティン殿、どうする?」

「ふむ、我に任せよ。こういう状況は経験豊富なのでな」

「アレをやるんですね…」

「ちょっと、何すんのよアンタ」


 そして、獣人は精神を一時的に破壊された。


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見たい知りたい学びたい〜暇を持て余した悪魔の冒険〜 冷凍みたらし @hamitarosan

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