第4話(初稿)

 結局、私と航平は一週間の入院となった。

 その間、ロバートさんの奥さんという人が面倒を見てくれた。

 まあ、そうだろうね。

 着替えやら何やらを見ず知らずの男性に準備させるのも、させられるのもお互いに気まずいものがあるわけで。

 空いた時間にロバートさんとクリスさんに諭されるままに書類にサインをした。

 税金やら事務手続き等に必要な雑務は、弁護士さんと税理士さんに丸投げした。


 最終的に、財産として50億円相当のお金と毎月の遺族年金約240万円程が振込まれることになった。

 生活的には全く困らないのだが、別のことで困ったことが起きた。

 そう、知らない男性に声を掛けられることが多くなった。

 声を掛けられるだけならまだいい。

 航平を誘拐しようとしたリ、親戚の振りをして近づいてきたり、最悪なケースだと私自身が誘拐されそうになったりしたのだ。

 たまたま護衛についてくれていた諜報部の人達に何回も助けられる羽目になった。

 本当に「たまたま」なのかは疑問に思うけど、本人たちがそう言っているのでそうなのだろう。

 今ではすっかり顔馴染みさんだ。

 そんな状況を心配したロバートさんの奥さん(キャサリンさんというそうだ。)が私を養女として航平共々家族に迎え入れてくれることとなった。

 それからの生活は、ロバートさん・キャサリンさんご夫婦のもと、のんびりとしたものになった。

 ロバートさんは、国連宇宙開発機構の木星開発局の責任者を解任された。

国連軍宇宙軍では中将という役職で、地上勤務に左遷された。

本人は、奥さんといる時間が増えたと喜んでいたけど。

 国連軍宇宙軍は、大きな岩塊が発見された当時、今から約20年以上前になるらしいけど、国連宇宙開発機構は国連軍宇宙軍に改変されていて、宇宙開発と地球の安全を守る監視と驚異の排除が任務になっていたそうだ。

だから、国連宇宙開発機構に所属することは、国連軍宇宙軍に所属することと同義なのだとか。

 第4航宙飛行中隊の人達のことも聞いた。

 一人一人が、私や翔ちゃんと同じような境遇だった。

 でも、そんなことはおくびにも出さず、明るく仲の良い中隊だったそうだ。

 ロバートさんは、話の中でそんな彼らが命を掛けて任務を全うしたのは、君という存在があったからこそだといった。

 私としては、そんな凄い人間ではないとおもっていたが。

 まあ、夢の中で妹だとか、娘だとか、アイドルとまで言われていたことを思い出すと、ロバートさんの言ったことがなんというか、大袈裟だなと思う。


 あれから40年という月日が経ち、ロバートさんもキャサリンさんも鬼籍に入ってかなりの時間がたった。

 二人には、結婚を何回も薦められたが、結局私は結婚しなかった。

 まだ、心のどこかで翔ちゃんが生きているような気がして、いつ帰ってきてもいいようにベットを整え、部屋を掃除し続けた。

 そうでもしないとおかしくなりそうだった。

 航平は、翔ちゃんの後ろ姿を追うように国連宇宙開発機構(国連軍宇宙軍)に入った。

 今は、冥王星基地で勤務し、奥さんと男の子と女の子の二人の子供に恵まれて、幸せな家庭を営んでいる。


翔ちゃんと私、あと第4航宙飛行中隊の人達が写った合成写真を見ていた。

 確かに翔ちゃんたちが残してくれたものは、航平だったり、お金だったり、未来だったりしたけれど、翔ちゃんのいない人生はやっぱり寂しくて悲しい。

 私は、翔ちゃんと二人で人生を歩んでいきたかったよ。

 喜びも悲しみも、幸せも不幸も二人で分かち合いたかったよ。

 私と翔ちゃん、二人の結婚式にはもちろん、第4航宙飛行中隊の人達がいて、ロバートさんやキャサリンさん、クリスさん、その他諜報部の顔馴染みさんたち皆でわいわい騒ぎながらお祝いしてもらって……。

 ダメだね、この歳になっても翔ちゃんたちが残してくれたものがこんな寂しさや悲しみだけだなんて思ってちゃ……。

 明日からは気持ちを入れ替えるから、今日だけは寂しさと悲しみに浸らせてほしいな。

 だって今日は、翔ちゃんと第4航宙飛行中隊の命日、12月24日なんだもの……。


END



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残されたのは……。(改稿第三版・最終稿) 龍淳 燐 @rinnryuujyunn

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