魔王様は何も知らない

単三スイ

1話


「ねえ君、ボクと一緒に来ない?」


 冬の街。その日は辺り一面、どこかしこもが雪化粧をしていた。


裏路地の一角で、一人が一人に話しかける。少女は寒さで思うように動かない首を懸命に持ち上げて、声の主を見上げた。


直後、少女は思わず固まってしまった。声の主が着ている外套から、一対の角がちらりと覗く。


人の世界で生きる者からすれば、それはたいそう歪で、不気味なものだったに違いない。


しかし、少女が固まった理由ワケは別にあった。声の主は、それはそれは未目麗しい女性だったのだ。






「イザベラ様、駄目です食べてください。」


「嫌だ。ボク前にもブロッコリーはどうしても無理って言ったよね!!」


差し出されるフォークに対して、女はぷいと顔を背ける。

しかし少女もそれに負けじと言い返す。


「あれ、昨日は人参でしたよね?」


「ぐっ...ま、毎日嫌いなものが変わるんだよ。いいだろう?ここではボクが法なんだからさ!」


女は口をイーっとさせながら、遂には開き直り始めてしまった。


 彼女の名前はイザベラ。イザベラ・アステリア、と言って大陸でまずその名を知らぬ者はいない。


というのも、彼女は魔族領を治めている元締め、所謂魔王であるからだ。彼女の持つ艶やかな黒髪はショートボブに切りそろえられており、端正な顔立ちが惜しげも無く晒されている。それ故か、容姿的にも非常に有名だった。そんな天下の魔王様が子供のように駄々をこねて拗ねている現在の様子には、威厳も何もあったものではない。


「はぁ、職権乱用ですよそれ。ほら、食べさせてあげますから。はい、あーん。」


「あ、あーん。」


イザベラは渋々といった風にブロッコリーを咀嚼する。


「よく出来ましたね。」


その様子を見て、少女は満足げに微笑む。


少女の名前はモノ。家名はない。六年前、当時十歳のモノはイザベラに路地裏で拾われた。彼女の翡翠色の髪は左右の中央で二つに団子状にまとめられており、非常に印象的だ。加えて肉付きも良いときた。十人すれ違えば十人が振り返るような、と比喩してもなんら違和感がない。そんな容姿をしていた。今の彼女を見て、以前のボロボロでやせ細った彼女の姿を想像する者はまず居ないだろう。


「よくできましたねってボクは子供じゃないんだよ!馬鹿にしちゃって...。」


「え、なんて?まだブロッコリーありますよ。」


愚痴愚痴と文句を言うイザベラの頬に追加のブロッコリーがぐりぐりと押し付けられる。


「わ、分かった!分かったから!!そんなに押し付けないでよお!!」


イザベラが涙目で懇願したところでようやくブロッコリーが離される。


「食べるんですね?」


「ぐすっ、だからそう言ってるでsy」「文句を言わずに、食べるんですよね?」


「は、はい。食べます。食べさせてください。」


イザベラがぴしりと姿勢をただしあーんの体制に入ると、どこからか出ていたモノのどす黒いオーラが嘘のように消える。


後に残るのは、魔王が小鳥のように餌付けをされるという、微笑ましくも異様な光景だけであった。


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食後のモノの様子

「はぁ、はぁ、あの涙目上目遣いは危なかったですね...」


ぼたぼたと鼻血を垂らすモノであった。

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作者の勝手なキャラクターイメージ

イザベラ⟵fgo アストルフォ

モノ←弱キャラ友崎君 七海みなみ




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魔王様は何も知らない 単三スイ @hirahirataipipi0120

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