5-9 初夜の夜明け

「……」


 寝台で俺にしがみついたまま、裸のニュムが涙を流していた。透き通るようにきれいな肌には、俺に着けられたマーキングの痕が、ところどころに残っている。


「そんなに痛かったか」


 ちょっとやりすぎたかな。四人相手に、いつもの調子で激しく交わった。でも考えてみればレミリア以外の三人は処女だ。もっと優しくしたほうが良かったのかも。


 それにエルフはどうやら小さい。四人ともそうだった。痛かっただろう。特に初めてだと。


 以前レミリアに聞いたところによると、産まれてくる子供自体、人間なんかより随分小柄だという。だから産道も狭い。エルフの男自体それに対応して進化していて、アレは小さいらしい。獣人たるアヴァロンのように筋肉で締めてくるのではなく、物理的にキツい。だから動くだけで、とてつもない快感がある。


「……」


 黙ったまま、ニュムは首を振った。


「幸せなんだ。僕のような半端者でも、女の子になれるんだって。……夢のようだ」


 いじらしい。なんたってニュム、男として育てられて、女子としてのレゾンデートルを、自分でも抑圧してきたからな。かわいそうに……。


「お前はかわいい女子だよ」


 抱き寄せてやった。


「本当?」

「本当さ」


 中指で胸の先を転がしてやると、喘ぎ声が漏れた。


「ほら、女子だ」

「モーブは意地悪だ」


 後ろを向いてしまった。


「モーブ様……」


 後ろから、カイムに抱かれた。


「私にも……」

「よしよし」


 手を取ると、指を口に入れてあげた。おずおずと、カイムの指が俺の舌を撫でる。


「……んっ」


 体を震わせている。レミリア以外は発情しているから、もう明け方というのにまだまだ感じるようだ。


「モーブ」


 カイムごと、シルフィーが俺の体に手を回してくる。


「おいで」


 ふたり抱き寄せてやる。


「あたしのこと、忘れちゃイヤだよ。この中では最初のお嫁さんだからねっ」


 腰の上に、レミリアが跨ってきた。そのまま体を倒すと、俺の胸に唇を着ける。


「忘れちゃいないさ」


 猫のように動く頭を撫でてやった。


「……また、大きくなってきた」

「お前がそんなことするからだろ」

「ごめんね。……じゃああたしが責任取るから」

「あっ……」

「ずるい、レミリアさん」

「全くだ」

「……」


 シルフィーとカイム、ニュムは仲良く、俺の体に唇を這わせている。


「……もう朝だ」


 婚姻の部屋の窓。分厚い緞帳どんちょうの隙間から、明るくなりつつある森が見えている。


「そろそろ起きよう。腹が減った」

「あれだけ動けば……ねえ」


 カイムはくすくす笑っている。


「モーブに激しく求められ、あたしも疲れ果てた。……やはり痛かったし」


 シルフィーが同意する。


「あたしでさえそうなのに、モーブは四倍だからな」

「少しは眠ったほうがいいんじゃないかな」


 ニュムは俺の腕に頭を乗せた。


「一睡もしてないし、僕も」

「なに、後で馬車で昼寝でもするさ。……ほら、レミリア」


 腰を掴むと、そっとどける。


「あっ、ずるいよ、モーブ」

「なにがずるいんだよ」


 初体験の三人と違い、レミリアは開発済みだ。ちゃんと最後までいけるからな。


「もう何度もしただろ。一晩中」


 俺が体を起こすと、カイムがもう一度抱き着いてきた。ぶつぶつ言いながらもレミリアは、昨晩俺が放り投げた下着を拾った。脚を通している。


「飯にして、ファントッセン国王に礼を言おう。今日一日、馬車の荷整理だ。旅立ちの準備をする。そのとき昼寝すればいいさ」

「モーブ様は眠れないのでは」くすくす

「どういう意味だ、カイム」

「この木には、ランさんやマルグレーテさん、それに皆さんの部屋があります。モーブ様が来るかも……と、どきどきされていたのでは」

「でもモーブはあたしらだけと一晩過ごした」

「仕方ないだろ。なんたって新妻三人+レミリアとの初夜だったんだから。そっちのが大事だ」

「皆、もやもやしていることであろう」


 シルフィーはうんうん頷いている。


「さすがにモテるね、モーブは」


 名残惜しそうに、ニュムはまだ俺の胸を撫でている。


「きっと馬車でも、みんなが寝かしてくれないよ」

「どうかなあ……それは」


 ないだろと思うが、もしかしたらあるかも。


「まあそのときは諦めるよ。今晩寝ればいいし。なあシルフィー、あと一泊くらいは許してくれるだろ、ファントッセン国王も」

「ひと晩と言わず、ひと月でも一年でも大丈夫だ。あたしが保証する」


 頷いている。


「ファントッセン様は、お前の力を認めている。あたしがお前の嫁になることを、許可してくれたろ。それはあたしが自然発情したためもあるが、お前とダークエルフの間に縁戚関係を築きたかったからだ。滞在が延びるなら大歓迎。なんなら棲んでもらいたいとすら思っているはず」

「それはハイエルフ側も同じでしょう」

「アールヴも」

「モーブったら、王様にモテるね。もちろん森エルフも同じだと思うよ」


 そいつは助かる。今どうこうじゃなくとも、エルフ各部族の後ろ盾があるだけで、今後なにかにつけ役立つだろう。


「今晩泊まって、ゆっくりみんなと考えたいんだ。エルフの里を出て、これからどこに向かうのか」

「そうだね」


 すっかり身支度を終えたレミリアが、俺の服も拾ってきてくれた。


「モーブになにか案はあるの」

「しばらくはのんびりしつつ、新たなパーティーでの戦闘フォーメーションとかを詰めておきたい。広いフィールドもそうだし、狭い小径や地下ダンジョンでの」

「狭ければ全員は展開できない場合も増えるだろうしな」

「そういうこと。アールヴ禁忌地帯で嫌でも経験したが、もっと安全な場所で、訓練を積んでおきたい」

「具体的にはどこに行くんだ」

「やはりポルト・プレイザーかな」


 海岸歓楽都市だからな。新たな嫁も含め、みんなで休暇するのにぴったりだ。いつものリゾートならなんでも無料だし。それに例の「迷いの森」が近い。あそこなら戦闘訓練にぴったりだ。おまけに最奥部まで進めば、三種の神植物が手に入る。いやつまり「長寿草」「若返りの実」「絶倫茸」が。


 またあれを入手して、全員のコンディションを向上させたい。若返りの実は嫁みんなに配布すればいいし、キノコはまあ……俺だ。男しか使えないし実際、嫁も増えたから。


 長寿草はいつもどおり俺やラン、マルグレーテやリーナ先生……つまり寿命の短いヒューマンの底上げに使いたい。ヴェーヌスが産む俺の子、育てたいしな。そのためには人間寿命を延ばさないと。……あと、馬もな。いかづち丸やいなづま丸、あかつき号やスレイプニールだって、俺の仲間だ。あいつらの寿命もどんどん延ばしておきたい。


「いいね」


 ポルト・プレイザーに滞在する利点を説明すると皆、同意してくれた。特にビーチ遊びとリゾートのうまい飯、それに三種の植物が気に入ったみたいだ。なんだかんだ言って、女の子だもんな。若返りとか上質なケーキとかには弱いわ。


 嫁を引き連れまたあのビーチカヴァーンや居室で、いちゃいちゃできる。それを考えると俺もわくわくしてきた。


「なら飯だ」


 身支度を終えたシルフィーに手を引かれた。


「とっとと用事を済ませて、リゾートを目指そう。あたしとモーブの新婚旅行だ……あっ!」


 思わず口にしてから、顔が赤くなった。


「いや……その」

「恥ずかしがるな、シルフィー。間違っちゃいないさ。そうだろ、カイム」

「モーブ様と私たち三人エルフの新婚旅行です。……もちろん、他の嫁御の方々も」

「モーブ……」


 抱き着いてくると、ニュムが俺を見上げた。


「僕、モーブの連れ合いになれてよかったよ。……だからもう一度」


 背伸びすると、瞳を閉じた。


「よしよし」


 キスを与えた。順番に。緞帳を引くと、ダークエルフの森に、黄色の小鳥が舞っていた。



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