5-8 婚姻の樹木と四人の嫁

「こんなことになるとは……な」


 ダークエルフの里、新月の夜。婚姻の樹木。新婚初夜にだけ造られるという特別な巣だ。急ごしらえとは思えないほど整った居室で、俺はまだ現実についていけずにいた。


 なんたって俺の前には、四人のエルフが揃っている。シルフィーにカイム、ニュム、それにレミリアも。


 新月はエルフの恋の夜。ハイエルフのカイムとアールヴのニュムは、国王の促進魔法によって俺への恋心が加速され、発情を迎えている。シルフィーは、カイムの予言通り自然発情し、俺を見つめる瞳は熱く濡れている。


 シルフィーはダークエルフの婚姻衣装を身に纏っている。民族衣装風の凝った作りだから脱がせ方がよくわからんが、まあなんとかなるだろう。カイムとニュムは普段の夜着姿だが、発情を迎えたからか知らんが、妙に色っぽく見える。中性的で少年のようなニュムでさえそうだ。


「こんなことって、なにさ」


 レミリアはくすくす笑っている。


「エルフと人間は生きるタイムスパンが違う。レミリアと恋に落ちたのも奇跡だってのに、新たに三人同時とか」


 マジ、信じられない思いだ。


「あらモーブ様、私が気に入りませんか」うふふ


 寝台の隣に腰を下ろしたカイムが、俺にしなだれかかってきた。俺の腕をそっと撫でる。手が柔らかいから、羽毛で撫でられたようだ。撫で方が……なんというか……扇情的だ。ぞくぞくする。いつものカイムでは考えられない。


「そういう意味じゃない」

「……僕なんか、モーブに釣り合わないよね」


 俺の腕を胸に抱くと、ニュムが見上げてきた。小さな胸の感触がかわいらしい。


「そういう意味じゃない」

「同じこと言ってる」


 レミリアにからかわれた。


「ならどういう意味だ」


 立ち上がったシルフィーが、俺の膝に跨ってきた。もう我慢できないとでも言いたげに。


「モーブ……」


 俺の首に腕を回してくる。


「……あたしが男を好きになるなんて」


 顔を近づけてくると、瞳を閉じた。


「……ん」

「……」

「ん……ん」


 キスを終えると、俺の首筋に唇を着ける。


「ああ……いい男だ。あたしの婿は……」


 背中に腕を回してくる。


「モーブの匂い……男らしい。はあ……」


 吐息が熱い。


「ほら……」


 俺の手を掴むと、そっと胸に当てた。複雑な飾り紐を解くと、服の中に手を誘導する。裸の胸は熱く、先はもうすっかり硬く立っている。


「馬車でうらやましかった」

「な……なにが」

「モーブ様は、レミリアさんの服に手を差し入れていたではありませんか。膝に抱いて」


 カイムに笑われた。


「ああ。あれ……。その……御者席は三人掛けだ。シルフィーとカイムを横に乗せたら、レミリアは膝に抱くしかなかったからな」

「にしても別に、胸まさぐる必要ないよね」


 レミリアにあっさり論破されたわ。恥オブ恥。


「モーブったら胸、大好きなんだから。あたしのも、みんなのも」


 そうは言うものの、まんざらでもない口調だ。


「いずれにしろ、レミリアさんがうらやましかったのは、私も……同じです」


 もう片方の手を取ったカイムが、服の中に俺の手を導く。


「……あっ」


 カイムの胸の先はまだ柔らかかった。俺の指が触れた瞬間、体を震わせて喘ぐ。


「モーブ……」


 横からニュムがキスしてきた。ぎこちなく。まあ……こいつは特に、男女関係のこと知らないからな。男扱いで育てられたし。


「こ……これでいいか、キスって」

「……」


 黙って、頭を撫でてやったよ。


「もう……ダメだ……」


 飾り紐を下まですべて解くと、シルフィーは服の前を完全に開いた。下まで。ダークエルフのきれいな体が、魔導ランプに全て晒される。


「あたしの裸を見た男は、お前が最初だ」


 愛おしげに囁く。


「そして……お前で最後だ」

「モーブ様……」

「モーブ……」


 気がつくと、誰にとかもなく、俺は寝台に倒されていた。いつの間にか裸になっていて、三人のエルフが俺に抱き着いている。


「その……だ、誰から」


 自分でも間抜けな質問だったと思う。


「我らはエルフ四部族統合の象徴……」


 シルフィーがまたキスしてきた。三人とも裸になっている。


「だ、だから」

「モーブ様、三人一緒ですよ」くすくす


 ちゅっと音を立てて、カイムが俺の胸に唇を着けた。


「男みたいな僕が嫌じゃなかったら……僕も一緒に……」


 恥ずかしそうに、ニュムは自分の胸を手で隠している。


「嫌なもんか。お前はかわいい女だよ、ニュム」


 胸を覆う手をそっと外してやると、口を着けた。小さな先が、なんだかいじらしい。


「んあっ」


 ニュムが体を震わせた。発情しているため、三人ともかなり敏感になっている。


「モーブったら、あたしも忘れちゃやだよ」


 三人に抱き着かれた俺を、レミリアが見下ろした。


「そりゃあたしは発情してないけど、モーブのお嫁さんだもん。だから……」


 寝台に潜り込んできた。


「だから、あたしも一緒に……」


 俺の下半身に、手を伸ばしてきた。


「ほらモーブ。戸惑ってるみたいな顔してるけど、もう凄いじゃん」

「はしたないぞ、レミリア」

「あたし、モーブのお嫁さんだもーん」


 何を今さら……といった顔だ。


「モーブの体、おしりの中までぜえーんぶ知ってるし」

「まあ、そりゃそうだけど」

「モーブだってあたしの体、隅々まで開発してるよね」

「あんまり恥ずかしいこと言うな。三人の前だぞ」

「ほら、カイム……」


 カイムの手を引っ張って、俺の下半身に触れさせる。


「どう」


 びくっと手を引こうとするのを、レミリアは無理に握らせた。諦めたかのように、カイムは俺の下半身に手を置いたままだ。


「これが……モーブ様。熱くて硬くて……たくましい」

「そうだよ。これからモーブがみんなを幸せにしてくれるからね。今晩だけじゃなく、これから一生。たくましいお婿さんだからね、モーブは」


 さらに付け加える。


「エッチな意味じゃないよ。男としてみんなを守ってくれるって意味だから」

「わかっていますよ、レミリアさん」


 カイムは、ゆっくり俺を撫で始めた。


「ああ……私、幸せ」

「あたしもだ」

「僕……も」

「ほらモーブ、エルフ統合の象徴になって。あたしや三人をお嫁さんにすることで」

「よし」


 体を起こすと、四人を寝台に押し倒した。初めて男の体を見た三人が、息を飲む。


「こ……こんな形なのか」

「思ってたより……その……大きい」

「大丈夫かな、僕……」

「もう止まらないからな。みんな、俺の嫁になってくれ」

「はい」

「うん」

「……うん」


 三人とも、真剣な瞳になった。


「モーブ様、これから一生、よろしくお願い致します」

「あたしも一生、モーブを守る」

「僕も、モーブを支えるよ。精一杯」

「あたしもだよ」


 レミリアにキスされて。


「だからあたしも……改めて……お嫁さんにして……」

「よし」


 体を倒して、四人の体を撫でてかわいがった。あちこちにキスを与えながら。狭い婚姻部屋に、喘ぎ声と熱が満ちるまで。


 それから愛し合った。明け方の気配を告げる夜の鳥が、囁き始めるまで。





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