5-3 ハイエルフ、ティアナ女王の贈り物
「戻ったか……」
玉座に腰を下ろしたまま、ハイエルフのティアナ女王は、俺達を見やった。ハイエルフの里の王宮。前回謁見と同様、女王の左には、巫女ベデリアが控えている。俺の嫁たる巫女アヴァロンと、マナ掘削巫女勝負をした奴な。ふたりの背後には、ハイエルフの重鎮が並んでいる。
「我が君」
俺の隣に立つカイムが、女王に礼の形を作った。
「アールヴの里にて、モーブ様は見事にその任を果たしました。地下に巣食う、謎のモンスターを討滅して」
「ふむ……」
女王が横を見た。
「マナの流れが復活したのは、我らも感じ取った。……のう、ベデリア」
「力強い脈動にて、我が君」
ベデリアだけでなく、背後の連中もうんうん頷いている。初見のときはハイエルフこぞって塩対応だったが、アヴァロンがマナ
「エルフの森の危機も、なんとか去ったということでしょうな」
「勝手に去ったのではないわい、ベデリア。モーブ殿が解決したのじゃ」
「我が君……」
畏まるベデリアを尻目に女王は、俺に視線を移した。
「大噴出の件といい、地下の異常解決といい、ほんにモーブ殿は、我が里の救世主じゃ」
「いえティアナ様。俺じゃなくて、エルフ四人が力を合わせたからです」
「我らエルフ四人だけでなく……」
カイムが引き取った。
「神狐様の魂を受け継ぐ、マルグレーテさんの功績でもあります」
「わたくしやエルフだけじゃないわ。アヴァロンもヴェーヌスも、ランちゃんやリーナ先生だって、命懸けで事に当たった。そして……」
俺の腕を、そっと胸に抱く。
「全てをまとめたのはモーブです」
俺の仲間が全員頷くのを見て取ったのか、女王は楽しげに瞳を細めた。そのまましばらく、なぜか黙っている。
「不思議な力じゃのう、モーブよ……」
ぼそっと呟く。
「ヒューマンだけではなく獣人や魔族、さらにはいがみ合うエルフ各部族の女すらまとめ上げてしまうとは」
「みんなモーブが大好きなんだよ」
よせばいいのに、ランが口を挟んできた。
「だって全員、モーブのお嫁さんなんだもん」
「ほう」
「……あっ、今のはエルフさんたち以外の話ね」
付け加えたランには答えず、ティアナ女王は、エルフ四人をじっと見つめている。やがて、ニュムに視線を向けた。
「それにしても……籠城しておる要塞を、アールヴが自ら出て来るとはのう……」
「我が君、アールヴの里は要塞ではありません」
カイムが進み出た。
「わかっておる。だがアールヴは自らの魂を、里に封じ込めておる。魂の要塞……いや、魂の牢獄であろう」
「返す返すも、ティアナ様のお言葉、胸に染みます」
ニュムは頭を下げた。
里を出たニュムには、ビキニアーマーの上から、レミリアの予備服を着せている。アーマーじゃ寒いだろうし、これから他のエルフの里を巡るのに、好戦的に見えたら困るからな。それに……ニュムは中性的で幼い感じだ。レミリアの体型に近いしさ。
「ですが僕たちアールヴも、大本を辿れば皆様と同じ、水精霊ルサールカの末裔。同じ祖を持つエルフです。今後も闇雲に孤立を続けるとは限りません」
「我らハイエルフも、外の出来事にはあまり関心がない。なのにさらに孤独を好むアールヴにこのように言われると、立つ瀬が無いのう……」
「いえ、決して諫言では……」
「わかっておるわい」
楽しそうに笑っている。
「我が君……」
ベデリアが進み出た。
「このニュム殿は、悪しき伝統から抜け出そうともがく、アールヴの象徴となり得ます。……おそらくニュム殿は、巫女の一族かと」
「おお……」
居並ぶハイエルフ重鎮から、どよめきが巻き起こった。
「アールヴの巫女など、最も伝統に固執する立場ではないか」
「なのに里を出たとか……」
「しかも巫女服ではなく、森エルフの普段着などしれっと着ておる」
「それはその……」
恥ずかしそうに、ニュムが俺の手を握ってきた。
「まあ勘弁してくれよ」
割って入ったよ。晒し者にはしたくないからな。
「巫女筋とはいえ、ニュムはちょっと特殊に育ってな」
男装させられてたとか、そのへんはかわいそうだから、適当にごまかす。
「これまでは家のため、アールヴのために生きてきた。でもこれから、自分の意志で生きると決めたんだ」
「なるほどのう……」
「僕はもはや巫女ではありません。……というか故ありて、巫女の修行はしておりません。僕は……戦士になります」
「うむ」
ティアナ女王は、力強く頷いた。
「その決意、このティアナの魂まで届いたぞ。どうも……モーブの側におると強くなるようじゃのう……」
笑っている。
「ならば我が里より、ニュム殿に贈物を与えよう」
「あ……ありがとうございます」
ニュムは畏まっている。
今回の問題解決には、全員が力を合わせたと、ティアナ女王は知っている。なのに敢えてニュムにだけ特別な報奨を与えるのだ。そこには狙いがあるだろう。おそらくは……今後、アールヴとの和解を探りたいという。なんたってアールヴの里に場所的に一番近いのは、ハイエルフ連中だからな。揉め事の種は潰したいのだろう。なんたってハイエルフは、良かれ悪しかれ賢いからな。
「イェルプフの指輪をここに」
ハイエルフからさざめきが広がった。三種の……とか、祖霊の魂を……とか、興奮したような声も交じっている。
「我が君……」
巫女ベデリアが、遠慮がちに声を発した。
「しかしあれは……」
「構わぬ。王たる我の決断じゃ。祖霊に訊いてみい」
「は……はい」
目を閉じて、ベデリアはしばらく口の中でなにか呟いていた。ややあって、顔を起こす。無表情だ。
「ティアナ様……祖霊は……」
「うむ」
「祖霊は……賛同しております。皆、ティアナ様とニュム殿、それにモーブ殿を祝福しております」
またしてもどよめきが巻き起こった。これまでにないほど、大きな。
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