4-15 アドミニストレータ「イドの怪物」
「俺達は敵の正体を知らない」
俺は切り出した。九人の仲間に向かい。
「多分、アドミニストレータの『イドの怪物』じゃないかと推測しているだけで。アドミニストレータについては、以前説明したよな」
エルフ三人が頷いた。
「相手がどのような存在にせよ、倒せばエルフの森地下深くに起因する異変が無くなる。エルフ四部族の、近年の小競り合いの原因がな」
「そうだ」
ダークエルフのシルフィーが肯定した。
「四部族が旗頭を揃えて協力し、倒したことになる。モーブという余所者の力を借りたにせよだ。その意味はとてつもなく大きい」
「四部族和解の契機となるでしょう」
「それに――」
ハイエルフのカイムの言葉に、ニュムが言葉を重ねる。
「それにモーブはレミリアの婿だ。余所者とはいえ、エルフの関係者ではある。我がふたご国王も、重く見てくれるはず」
「なんとしてもここで倒さないと……ってわけね」
マルグレーテが腕を組んだ。
「問題は、どう戦うか……。つまり相手の属性から考えないとね」
「相手はこっちのゴーストを使役してるんでしょ。魔道士系だと思うわよ、モーブくん」
リーナ先生に見つめられた。アドミニストレータ本体は、魔道士と言っていいかは微妙だ。だがあのときの攻撃は遠隔系だった。肉体系か魔導系かと分類するなら、そちらよりだろう。
「この紋様もそうだけど、全体に魔導の力を感じるもの」
「そこよな、ポイントは」
ヴェーヌスは扉を睨みつけている。
「ボス戦ともなれば、こちらのゴーストを何体か従えておるだろう」
「本体が魔道士系なら当然、前衛系のゴーストになるでしょう、モーブ様」
アヴァロンは、ほっと息を吐いた。
「まずヴェーヌスゴーストは確実。手数多く耐久力も段違い。一番使い勝手がいい。守備的前衛として、私やモーブ様のゴーストがいるかもしれません」
「いくらニセモノとはいえ、モーブと戦うなんて嫌だな……」
ランが顔をしかめた。
「気にするなラン。本物がお前の隣にいるだろ」
「そうだね。忘れてた」
「おいおい」
みんな笑った。これで緊張もほぐれたはず。いい兆候だ。
「エルフ三人が加わってくれたおかげで、こちらの布陣は分厚い。俺達の戦術はこうだ――」
俺は説明した。
ヴェーヌスと俺がツートップの前衛。その後ろにエルフ四人。前衛も中衛も、さらに魔導士としても活躍してもらう。弓矢と攻撃魔法中心なので距離を取ってもらうが、敵の手数が多いようなら、前衛として剣を使い、盾役に加わる。
守備的中衛として、アヴァロン。もっぱら後衛守護に努める。アジリティーの高いアヴァロンなら、後衛三人の守護もこなせるだろう。それにアヴァロンには戦闘開始時に地形効果を付与してもらう。こちらに有利な。
後衛はラン、マルグレーテ、リーナ先生。もっぱら回復や攻撃、補助などの魔導攻撃を行う。特にマルグレーテ。攻撃魔道士としてトップクラスの実力を持つ上に、従属の首輪装備によって魔法の輻輳効果を持っている。全体攻撃×二回攻撃だ。敵を一気に殲滅できる。
「とにかく、まずは敵の全貌を確認することだ。俺達はもう長年の戦友。敵の構成によってどう各人が動くべきか、大体はわかるはず。細かな指示は俺が下す」
「それにみんな、モーブのお嫁さんだもんね」
レミリアに腕を抱かれた。
「一心同体。心は通い合ってるよ。……寝台でだって」
「余計なこと言うな」
婚姻が最後になったためか、他の嫁と同じと言いたいのかもな。少し……コンプレックスというかさ。
「エルフ三人は、あたしの動きを見て判断してね」
「ヘンなマウント取るな、レミリア。みんな戦闘経験は豊富だ。ちゃんとわかってるって」
「わかってるよ、んもう。少しくらいあたしにもいいカッコさせてよ」ぷくーっ
「わかったわかった」
頭を撫でてやった。
「戦略は以上だ」
「腕が鳴るのう……」
ぼきぼきと、ヴェーヌスが指の関節を開放した。
「ボス戦はいつでも心躍るわい。それも……大好きな婿殿と一緒ならば」
「へえ……ヴェーヌス、あなただいぶ素直になったじゃない」
「まあ……あたしも調教されたということだ、モーブに」
豪快に笑ってやがる。
「別に調教とかしてないだろ。エルフに勘違いされる。俺は別にサドじゃないぞ」
「まあいいではないですか、モーブ様」
カイムにとりなされた。
「それよりそろそろ始めましょう。こちらの食料は尽きている。体力の残っているうちに決着を着けたほうがいい」
「よし」
全員の準備を確認すると、俺は扉に触れた。なにか一瞬、痺れるような感覚があり、すっと扉が開いた。音もなく。
「やはり来たか……モーブよ」
広い部屋。中央に男が立っていた。スーツ姿……といっても泥人形の表面に絵の具でペイントした形。間違いない。アドミニストレータだ。……ただ、上司や経営陣を象徴していた、例の三つの頭がない。ただひとつの頭が、普通に首の上に乗っている。
つまりこいつはアドミニストレータの「イドの怪物」確定だ。
「お前は私を見くびっているな、モーブ。ニセモノのアドミニストレータなど恐れるに足りずと。だが、無意識の存在として私が誕生したとき、私を抑圧していた三つの頭部は消えた」
描き物の口が笑いの形になった。
「すがすがしい気分だ。……存分に戦える。抑圧頭部が消えたからな。しかも……」
その先は聞くまでもなかった。アドミニストレータは従僕を引き連れていた。想定どおり、こちらのゴーストを。
だが、予想をはるかに超えていた。アドミニストレータの背後に、七体も立っていたからだ。全てゴースト。ランにマルグレーテ、リーナ先生にレミリア、アヴァロンとヴェーヌス。それに、俺自身まで揃って……。
「さて、私の本体を倒した罪、ここで償ってもらおうか……」
――ぼっ――
周囲に炎の壁が立ち上った。虹色の炎。こいつは……裏ボス戦演出だ。あのとき……本来の主人公ブレイズと戦ったときと同じく。
同時に、ゴーストが攻撃態勢に入った。ヴェーヌスゴーストと俺のゴーストが、瞬時にアドミニストレータの脇を駆け抜ける。俺にまっすぐ向かって。
まずボスたる俺を潰すつもりだろう。俺のゴーストは、嫌なことに俺と同じ、煙を噴く長剣を振りかざしている。ブレイズの形見、敵存在の抹消スキル持ちの無名剣を。
もちろん、背後の魔道士系ゴーストは詠唱に入っているはず。レミリアゴーストからは早くも矢が何本も射られ、こちらに一直線に飛んできつつある。
「全員攻撃開始っ!」
戦闘フィールドの壁に当たり、俺の大声がこだまを曳いた。
●公開遅れてすみません
退職&確定申告準備とかで超絶ドタバタ中
リアル中ボス戦といったところですw
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