14-2 マーカーライトの魔法陣
「はあーあっ、よく寝た」
馬車のブランケット。俺の腕の中で、レミリアは体を伸ばした。
「いい朝ですね、モーブ様」
裸のアヴァロンが、後ろから俺を抱いてくれた。
「おはよう、アヴァロン」
夜、三人で潜り込んだからな。アヴァロンと俺はもちろん服を脱いで。レミリアは夜着を着ている。試しに誘ったら、初めてレミリアが俺のブランケットで眠ってくれたんだわ。
といっても、関係はなしな。本当にただ、抱き合って眠っただけだよ。嫁でないレミリアが一緒だったからもちろん、アヴァロンともそういう行為には及んでいない。
「モーブ様……お慕い申し上げております」
耳元で囁くと、首筋にキスしてくる。
「あーもう。そういうの、あたしが起きてからにしてよ、もう」
ぶつぶつ言いながら、レミリアがブランケットから這い出した。あいつの夜着は薄くて透けるからな。夜着の裾短いし、エルフの風習だかわからんが寝るときは下着も穿かない。だからもう、胸から下半身から丸見えも同然。
一緒に旅を始めて半年は経ってるからさ。もう俺の脳内には、レミリア裸身モデリングが完成してる。まだ造形が終わってないのは、脚の間の微妙な部分くらいさ。それは……いずれ嫁にしたらわかることだし、未完成を気にしてはいない。
「いいだろ、お前にキスしたわけじゃなし」
後ろ手でアヴァロンの耳を撫でてやると、こらえきれずに喘いでいる。
「それはそうだけど、すぐ近くでヘンな声を聞かせられるとあたし、無意味に発情しちゃいそう」
「発情すればいいだろ。責任は取ってやる」
「まだ発情期じゃないもん」
睨まれた。
「次に寝るときは、あんまりもぞもそしないでよね。想像しちゃうからさ。今モーブはアヴァロンの胸を触ってるのかな、とか」
「わかったわかった、そうするよ」
はあ、とりあえずまた誘ってもいいみたいだな。一緒に寝ようって。これは恋愛フラグ、微妙に一本立ったのかも……。
「これからどうする、モーブ」
マルグレーテはもう夜着から着替え終わっている。自分とヴェーヌスが眠ったブランケットを、畳んでいるところだ。
「今日もここで遊ぶの」
馬車の窓から、巨大な赤色光を覗き見た。例のマーカーライトを。もう本当に、馬車のすぐ脇に
「もう一週間くらい休んでいるけれど」
「そうだなあ……」
俺は馬車を見回した。リーナ先生とランは、荷物から朝食の食材をあれこれ選んでいる。ヴェーヌスはいつもどおり、片足を頭まで上げてストレッチしている。
「そろそろ、野郎のところに踏み込むか」
俺の言葉に、全員振り返った。
「婿殿、いよいよか」
「あたし、退屈だったよ」
「休んでいる間に、アドミニストレータに対する怒りも余計に溜まったしね」
「魔力も魂から溢れそうなくらいよ」
「よく決意したわね、モーブくん」
「ブレイズの無念、私も果たしたい」
口々に言い募る。
マーカーライト直下まで辿り着いてからも、俺はすぐには踏み込まなかった。なにせアドミニストレータの本拠地に乗り込むことになる。体力を回復させ気力をマックスまで高めるために、ここで毎日遊んでいたのだ。
「行きましょう、モーブ様。あのワープポイントに」
抱き着いてくると、アヴァロンが俺の胸に頬を擦り付けてきた。
「アヴァロン……」
ネコミミと髪を撫でてやると、嬉しそうに脇に顔を寄せ、俺の匂いを嗅いでいる。
「モーブ様ぁ……」
「よしよし」
生活と旅を共にするにつれ、この獣人巫女はすごく甘えてくるようになった。なんというか……しっかり者だった長女人格より三女人格が強まってきたような。多分だが、俺に心も身も委ねるようになったからだろう。
「さて……」
全ての装備を装着すると、俺は馬車を出た。目の前にはマーカーライトが赤く輝いている。
「どこまで届いてるんだろうな、この光」
「少なくとも、雲は突き抜けてるしねえ……」
マルグレーテも見上げている。
「本当に天国かしら」
「あの野郎の巣だからな。上にあろうが下だろうが地獄だろ」
「まあ、ワープポイントを踏めばわかるのう……」
ヴェーヌスは首を鳴らしている。
「よし。全関節を開放した。いつでもいいぞ、モーブ」
「朝飯の後な」
「腕が鳴るのう……」
一週間、もちろん遊んでいただけではない。注意深く、俺達はマーカーライトを調べていた。
地上部分は、直径十数メートルほど。草原の真ん中から立ち上っているものの、マーカーライト内部は草も地面も消えており、十二芒星の魔法陣がゆっくり回転している。謎の文字が十二芒星の周囲を取り囲んでおり、なんとなく「不死の山」で四体アドミニストレータが出現した魔法陣を思い起こさせた。
すぐ近くから巫女アヴァロンの霊力で探ったところ、内部に階段があるとか出現するとか、そのような仕組みではなく、やはりワープポイントのようだった。
「さて……」
食事を済ませ、片付けも全て終えた。全員の準備が整ったのを確認すると、マーカーライトの前に立った。魔法陣の回転に伴い、微かな騒音が中から聞こえてくる。
「行くぞ、みんな」
全員横一列になり、一斉に踏み込んだ。瞬間、頭がくらっとする感覚があり、気がつくとマーカー内部に立っている。一歩進んでみたが、中は普通に歩ける。
「やはりね」
マルグレーテが頷いている。
「みんなで予想したように魔法陣ね、ポイントは」
「そういうことだな」
「あの魔法陣の真ん中に立てばいいんだよね」
「そうだな、ラン。アヴァロンの見立てもそうだし」
ゆっくり進む。魔法陣すれすれまで。
「よし、全員、一列になって手を繋げ」
「うん」
「はい」
「わかった」
「婿殿」
「モーブ様……」
「行きましょう」
返事が返ってくる。
「さて……」
みんなの顔を今一度、ひとりひとり見つめた。
「じゃあ朝飯の腹ごなしに、クソ野郎の顔でも拝みにいくか」
強い瞳で全員が頷くのを確認すると、俺は魔法陣に踏み込んだ。
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