14 アドミニストレータ

14-1 遺品

「まず、この子達を逃してあげないとね」


 テイマースキル持ちのマルグレーテは、大蜥蜴おおとかげが気になるようだ。


「このままだと餓死しちゃうわ」


 魔族馬車から大蜥蜴を解放し、自由にした。しばらく俺達と馬車を見回していたが、蜥蜴はやがて森に消えた。


「ブレイズの馬車を調べよう。……それから弔いだ」

「うん……」


 暗い顔のランを促して、うろこをめくった。


「……荒れてるねー」


 思わずといった様子で、レミリアが呟く。


「ブレイズくん、優等生だったのに」


 リーナ先生が溜息をつく。


 たしかに、優等生の生活の場とは思えないほど、内部はすさんでいた。荷物も食料も乱雑に放り投げられ、ごみの間に埋まっている。寝具と思しきボロ布からはえた異臭が漂っていた。


「ネクロマンサーとアンデッドの巣だと思えば、こんなものであろう」


 ヴェーヌスが唸る。


「お気の毒に……」


 瞳を閉じると、アヴァロンが祈った。


「モーブ、これ……」


 ごみの山から、マルグレーテがなにか拾い上げた。紙筒――。俺達も見覚えのある奴だ。蓋を取ると、中から卒業証書が出てきた。王立魔法学園ヘクトール、SSSクラス「ドラゴン」の。


「かわいそうに……」


 マルグレーテの瞳が潤んだ。


「これだけは捨てられなかったのね」


 ヘクトール卒業は、ブレイズにとって人生の頂点だったはず。仲間に次々逃げられ幻滅しながらも、この紙切れ一枚を心の支えに頑張ってきたのか……。


「……さあ、弔おう」


 遺品を整理し、魔族馬車はマルグレーテが炎で焼いた。それから枯れかけた老木を一本切り倒し、切り株を墓標として、ブレイズの名前を刻んだ。墓碑銘として「主人公、ここに眠る」と記し、卒業証書を根の間に埋めた。


「さて、俺達もここを離れるか」


 声を掛けた。


「待って、モーブくん。その剣を鑑定させて」


 リーナ先生が、俺の腕をそっと取った。


「言ってみれば、ブレイズくんの形見よ。しっかり活用しないと」


 たしかにそうだ。瞳を閉じてブレイズの剣に手をかざすと、リーナ先生の手のひらから剣に向かい、緑色の光が飛んだ。


「……わかった」




銘:無銘

クラス鑑定不能長剣。使用者制限あり(入手者限定)

魔改造ブレイズから入手

特殊効果:斬撃時、敵存在の抹消スキル発動可能。ただしスキル使用時、使用者に致命的な反動あり




「使用者制限……ってことは、モーブしか使えないんだね」

「そういうことになるな、レミリア。入手者限定だから、俺専用装備だ」

「なんだか微妙ね」


 マルグレーテは暗い顔だ。


「あんまりモーブに使わせたくはないわ」

「呪われた装備の一種だのう……」


 ヴェーヌスは腕を組んだ。


「精神的に闇堕ちした男の装備なのだ。そんなものかもしれんが」

「致命的な反動ってなんだろう」

「それは……」


 ランの問いに、俺は首を振った。


「わからん」

「でもスキル発動『可能』装備ですよ、モーブ様」


 アヴァロンが、俺を見上げてきた。


「つまりスキルを発動するかどうかは、使用者が明示的に選択できるはずです」

「発動しなければ、ただの『いい剣』だよね。レア中のレア装備だし」


 能天気に、レミリアが言い放つ。


「あの剣抜いたら、闇の煙見ただけで魔物はビビると思うよ」

「まあそうだな。斬れ味は最高だろうし。余計なスキルを使わなければいい」

「先程の戦いで、婿殿は長剣を失ったしのう……。ちょうどいいではないか」


 ヴェーヌスも頷いている。


「……ただし、絶対にそのスキルを使ってはならんぞ。相手がどれほど堅い敵であろうと必ず一撃で殺せるが、モーブにも致命的な反動がある」

「リーナ先生の召還魔法のようなもんだね」

「そういうことだな。俺もリーナ先生も、危険なスキルは絶対に使わないようにしよう」

「そうねモーブくん。なにか……」


 リーナ先生は、俺の手を、きゅっと握ってきた。


「なにか……とてつもない危機でも訪れない限りは」

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