13 裏ボス

13-1 馬車の夜

「不思議なマーカーよね」


 赤い光を遠く見て、マルグレーテは首を傾げた。


「だよなー」

「でも、世界のそこここにアドミニストレータとの接点があるというのは、意外だったわよね、モーブくん」

「そうですね、リーナ先生」


 どうやら、そのマーカーライトは、周囲の魔族には見えていないようだ。おそらく、裏ボス七種のレアドロップを保持している俺のパーティーにしか、アドミニストレータへの道は見えず、またあの場所に行っても次元の狭間には進めないのだろう。


「とりあえず、馬車でご飯だよ」


 レミリアが俺の腕を胸に抱え込んだ。控えめな胸を感じる。


「ねえモーブぅ……お腹減ったよう」

「わかったわかった。飯にするか」

「急いで行く必要はないもんね。楽しく旅しようよ」


 ランは楽しそうだ。


「だってもう、魔族に怯えなくていいし」


 捕虜を偽装する必要もないからな。


「そうだな。偽装しなくても魔族には追われない」

「戦闘などない。むしろ人間の地にいるときより安全だのう」


 くっくっと、ヴェーヌスは笑った。


「まあ、ゆっくり行こう。あんなクソ野郎の面、拝むのもムカつくし」

「ねえねえ、これから馬車のお布団はどうするの」


 突然、レミリアが俺を見た。


「どうするって……」

「お嫁さん、もう五人だよ」


 ラン、マルグレーテ、リーナ、アヴァロン、ヴェーヌス……と、レミリアは指を折った。


「みんなモーブのブランケットに潜ったら狭すぎるし、あたしひとりで別ブランケットだから寒いよ」


 たしかに、それはそうだ。バランスが悪い。ヴェーヌスはこれまでひとりで荷室の壁に寄りかかって寝ていたが、嫁となった以上、俺のブランケットに迎えるのが筋だし。おまけに狭いブランケットに裸六人ってのも、色っぽいとかそういう話ではもはやなくなるわな。


 頭の中で、俺はパーティー構成を振り返った。


 まず俺。嫁がラン、マルグレーテ、リーナ先生、アヴァロン、ヴェーヌスの五人。あと恋愛フラグが立っている様子だがスローラブ展開のレミリア――。


 これをブランケットふた組にすると、どうなるか。たとえば、俺と嫁三人でひと組。嫁ふたりとレミリアでひと組。なんとかはなる。……だが、すでにレミリア以外は嫁だ。ということは、馬車でももう少し恋愛に踏み込んでもいいかもしれない。


 宿屋なら別に嫁何人と同じ寝台で構わない。ヴェーヌス以外はみんなもう、複数での行為に慣れてきているし。しかし馬車の狭いブランケットで絡み合うことを考えると、四人というのは厳しい。俺の両側にひとりずつ配置する三人で潜り込むのがいいだろう。


 するとき楽だとかより、ふたりを抱き寄せてそのまま眠るのがいい。三人嫁だと、ひとり外側になっちゃってかわいそうだし。


 となると、ブランケットは三組がいいか。仮に配置すると、ランとマルグレーテでひと組、リーナ先生とヴェーヌスでひと組、レミリアとアヴァロンでひと組。うん、バランスがいい。俺は適当にどこかに入ればいいし。もちろん別にランとマルグレーテの組み合わせで固定ってわけでもないしな。嫁の機嫌とか疲れ具合を見ながら毎晩変えればいいし。


 とりあえず今晩どうするかな。成り行きから今はヴェーヌスを大事にしてあげたい時期だから、一緒に眠りたい。あとひとり選ぶなら、ヴェーヌスになにかと話し掛けていたランがいいか。残りのふた組のブランケットには、適当に入ってもらえばいいし。


 馬車でするのは初めてだから、静かなのがいいな。荒々しくするのではなく、抱き合ったままずっと動かないでいるとか……。


「なあに、モーブ。長いこと考え込んじゃって。……五分くらい沈黙してるじゃない」


 呆れたような声を、マルグレーテが上げた。


「どうせエッチなことでも考えていたんでしょ。……いやあねえ殿方は」


 はあーっと溜息をつく。というか図星。さすがはマルグレーテだ。


「と、とりあえずブランケットは三組に増やそう。また二枚のブランケットを寝袋状に縫い合わせて」

「そうなると思ってた」


 困ったように、リーナ先生が片方の眉を上げてみせた。


「でもまあ、ここまでお嫁さんが増えたら、そうなるわよね」

「す、すみません先生」

「あら、謝る必要ないじゃない。みんな嬉しいに決まっているもの。モーブくんとゆっくり過ごせるんだから」


 みんな頷いていたよ。ランもマルグレーテも、ヴェーヌスやアヴァロンも。まだ嫁になってはいないというのに、レミリアまで首を縦に振ってくれたし。




●次話、物語は大きく動く。「魔族馬車の男」、明後日公開!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る