2-2 ブレイズパーティーからの逃亡者
「パーティーリーダーの名は」
「ブレイズ」
やっぱりそうか……。このエルフ、ブレイズパーティーからの脱走者じゃん。
「ええ? あなたブレイズのパーティーにいたの」
マルグレーテが口に手を当てた。
「なら大変だったでしょう」
いきなりそれかい。まあでも、そう言うか、ブレイズを知る者なら誰でも。
「それで、あんたの名は」
「あたし? あたしはレミリア。『森の駆け手』レミリアよ。以後、お見知り置きを」
「レミリア……か」
やっぱ、そうなるよな……。
レミリア――それは、原作ゲームでブレイズのハーレムパーティーに入るエルフだ。原作では魔王とのラストバトルまで、ブレイズを助けて戦う、頼もしいメインキャラ。ランやマルグレーテとは違って、ヒロインレースには加わらない。
頼りになるクールなロリ枠という捻ったキャラなので、一部プレイヤーに熱狂的ファンがいる。幻に終わったR18版開発が発表されたとき、このクールロリを攻略枠に入れるべきかどうか、ゲームファンの間で論争が巻き起こったくらいだ。
本編ではできなかったロリ枠攻略対象としてほしいという意見が多かったが、元からのレミリアファンでその展開を望むのは、むしろ少数派。レミリアの同人誌もR18は意外に少なくて、クールなレミリアが実は自宅で猫の実が成る魔法の植物を育ててその出来に一喜一憂しているとか、かわいい方向のギャップ萌え路線が多い。
「やっぱりレミリアなのかよ」
「知ってるの、あたしの名前。もしかしてあたし、有名人?」
かわいい系(よく言えば)の胸を張った。
それにしても、この現実世界では、ブレイズパーティーに入って早々と、仲違いしてたんか……。ストーリー魔改造に過ぎるわ。いくら主人公補正があるったってさ、これブレイズ、魔王退治まで進めるんかね。メインヒロインふたりも俺に
ブレイズ、なにやってるんだろな。ランやマルグレーテ相手でもそうだが、自分からフラグ折りまくってて。もう少しうまく人を使えよ。前世底辺社畜の俺が言うのもなんだが、気楽に自由暮らししてる俺と違って、お前仮にも主人公だろ……。
「そんなに知られてるなんて、あたしも成り上がったなー。……エルフの村では落ちこぼれ扱いで、逃げるように飛び出したってのに」
いらんことを言う。俺が世界のストーリーを変えて回ってるせいか、俺の知っている原作ゲーム内レミリアと、キャラ設定が変わってるな。クールというよりお調子者系方面に。
名バイプレイヤーのようなキャラなのに、ここ現実ではもっとリアルな女子と言うか、ドライに造形されてるようだ。
……てかこれ、幻のR18版シナリオの設定なのかもな。俺のストーリー、明らかにR18版に踏み込んでいるし、レミリアの造形がR18版仕様になっていても不思議ではない。
「お前は俺ん中でだけ、有名人だわ」
「なにそれ、意味わかんない」
笑われたわ。
とはいえ、いずれにしろこいつがレミリアなら、罠だの
「それよりさあ……、あんたたち、これからどこに行くの」
「わたくしたちは、海岸のポルト・プレイザーに向かってますのよ」
「わあいいね。あそこ、楽しいことばっかりあるんでしょ。おいしいご飯に特別なお酒。それにきらめく海。あたしに奢ってくれる、超絶イケメンとの出会い……」
いやなにを夢見てるんだか知らんが。
「それでさあ……、あんたたちのリーダーは誰」
「一応、俺だが」
「ねえんリーダー……」
急に、甘えるような声になった。流し目で俺を見る。
「あたしもそこまで乗せてってよ。道中あんたたちの狩りとか戦闘に、協力するからさあ……。報酬はいらない。もうお金のパーティーはこりごりだし」
「わあ、楽しそうだね」
ランは大喜びだ。
「ねえ、いいよね、モーブ」
「どうする、モーブ」
ランとマルグレーテに見つめられた。
「ねえお願い」
レミリアは頭を下げてきた。
「この馬車ならアゴアシ付きでリゾートまで行けるしさ。無料のバカンス旅行も同然だし。ご飯は今ひとつだったけど、とりあえず馬車いっぱいに食料あるのわかったし。……それに隅にあるの葡萄酒の樽でしょ。あとこの匂いは、おいしい蜂蜜酒。それ、毎晩ちょっと飲ませてくれるだけでいいからさあ……」
なんか知らんが、図々しいな、このエルフ。お願いとか言いながら、自分の願望丸出しだし。それにいつの間にか、目ざとく酒まで目を付けてたし。
原作ゲームだとこうなんての、もっとエルフっぽく、マルグレーテとはまた違う方向性で、高貴で高嶺の花っぽい感じだったんだけどな。何と言うか……哲学者じみてるというか。
でもまあ考えたら、ブレイズのパーティーも本来は「魔王討伐」という目的のために集まった熱い仲間だった。この世界ではそれが、金で雇った傭兵軍団になってるしな。原作といろいろな点が違ってても当然かもしれん。俺が即死モブの生き残りとしてシナリオをガリガリ書き換えてるせいで、いろんなイベントの発生条件や日時が変更になってるし。
「ねえん、お願いぃ」
あぐらを組んだ脚の上から、チュニックを少しだけ捲ってみせた。なんだそれ、色仕掛けのつもりかよ。ちょっと色気ある中学生くらいの発育具合のくせに。そんなんが俺に通じるわけないだろ。なんたってランとマルグレーテという世界一の嫁がふたりもいるんだからな、俺には。
「ねえん……」
鼻声になるとレミリアは、もう少しだけチュニックを動かした。
●
「さあ、寝よーっ」
その日の夜。寝床にしているふかふかのブランケットを広げると、ランはさっさと裸になった。
「ほらモーブ、早くう」
「わかったわかった」
俺はシャツを脱いだ。ランが待つ布団に、マルグレーテは服のまま入った。中でもぞもぞして脱いでいる。
「あ……あんたたち……」
上半身裸の俺を見て、レミリアは目を見張っている。
「いっつも、そうやって寝るの?」
「ああそうさ……。まあ気にするな。この馬車内には虫除けの生活魔法を施してあるから、裸でも肌を食われるとかもないし」
俺は下半身も裸になる。
「そんなこと言っても、あたし……」
向こう向いちゃったか。そらそうだ。
結局、こいつの口車に乗せられたわ。考えたんだが、パーティー人数が増えれば、戦闘効率も上がるしな。俺には「レアドロップ固定」のアーティファクトがある。効率が上がり戦闘数が増えれば、こいつの食い扶持を稼いでもたんまり余るほど、レアアイテムを狩りまくれるしさ。
稚拙な色仕掛けに転んだわけでは、決してない。いやマジ。俺のことを好きでもない相手の、ミエミエのふざけた仕掛けなんか、興味ないわ。そもそもそっち方面は今、ふたりと楽しくやってるし。俺は、純粋にパーティー全体の損得で動いただけだ。
それにこんなところに置き去りは、いくらなんでもかわいそうだろ。女の子だぞ。おまけに一応、ゲームのメインキャラのひとりなんだし。
「レミリアちゃん。裸で抱き合うとね、モーブの心臓の音が聞こえて、ぐっすり眠れるんだよー」
なんのてらいもなく、ランが言い切る。
「そ、そう……。あたしは遠慮しとくわ」
後ろを向いたまま、返事をしてるな。そりゃそうだ。いきなり裸で乱入されても、俺だって困る。
「御者台のクッション使え。あれ荷室に並べれば、寝床代わりになるだろ」
「そうする」
早くもブランケットにくるまって抱き合った俺達を横目でちらちら見ながら、クッションを並べ始めた。
「ねえモーブ、キスして」
「甘えん坊だな、ランは」
「ん……」
「……」
「モー……ブ……。はあ……」
「わたくしにも頂戴」
「マルグレーテ……」
「……」
「……」
「も、もっと……」
「よし」
「んっ……ん……」
もぞもぞ……。
「ダメよ、モーブ。お客様がいるでしょ。今日はおとなしくして」
「いいから胸から手をどけろよ」
「仕方ないわね……」
ちゅっ。
「あ……。そこ……いやあっ」
馬車ではだいたい毎晩、こんな感じさ。キスしてちょっといちゃつくくらい。狭いし、それ以上の行為に及ぶことはない。俺、ふたりの胸を存分に吸わせてもらうだけで、すごく幸せを感じるし。それに今晩は変な客も乗ってるから、なおのことだ。
レミリアは瞳を閉じて、寝てはいるようだ。ただときどき猫のように耳が動いているから、聞き耳を立てているのもはっきりしている。
早く寝ろよ、レミリア。いつものように、もうランはすやすや寝息を立てているし、マルグレーテも俺の胸を吸い始めたから、じき安心しきって眠るぞ。毎晩そこで聞き耳立ててたらお前、それこそ寝不足で倒れるからな。
●居候のように馬車に居着いて二週間。レミリアはすっかりモーブのパーティーになじんでいた。馬車に積まれた物品の内容をすっかり覚えたレミリアは、干し鶏グリルと干し貝柱を戻したスープのランチを提案するが……。
次話「くいしんぼエルフ」、明日公開!
レミリア、色気より食い気だな……。
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