第13話 神薙月は、今日も巻き込まれる。

陽が昇り、朝を迎えている。

時刻は、9時を回っているが、陽はだいぶ高く感じる。

「小春~」

「ん~。どうしたの?」

「ちょっとコンビニ行ってくるけど、何か欲しいものあるか?」

「特には無いけど・・・。私も行くよ」

「良いよ。今から着替えるのもあれだろ」

「そうだけど」

「さっさと行って帰って来るから。それに、俺の居場所はスマホのGPSで小春は常に俺の居場所分かるだろ」

俺のスマホは、小春に管理されている。

俺の位置情報や検索履歴、さらには連絡先も筒抜けなのだ。

「じゃあ気をつけてね」

「気をつけるも何も、コンビニに行くだけなんだがなぁ」









「暑い・・・」

まだ昼前とは言え、夏。

気温も30℃近くまで上がっている。

「まだ気温上がるのかよ・・・」

早く涼みたいので、コンビニへ急ぐ。


ドンッ!!


『キャァァァ!!』


「はぁ・・・。また何か起きてんのかぁ」


どこからか聞こえる爆発音。

そして悲鳴。


「全く夏を満喫してる奴が居るなぁ」


ドンッ!!ドンッ!!


爆発音が近づいて来ている。


「面倒な事が起きようとしている気がするなぁ」


『どけぇ!!』

黒い車がこちらに向かって走って来た。

「危ねっ!!」

構わず突っ込んで来たため回避する。

「何なんだよ・・・。族か?」

にしてもさっきの爆発音といい、今の車といい何が起きてるんだ?

とは言っても気にしてどうにかなる事ではないので、本来の目的地であるコンビニへと向かう。

だがそれは無理だった。

何故なら・・・。

「動くな!!」

「ふぇ?」

「手をあげてゆっくりと振り向け!!」

このお決まりの台詞ってまさか・・・。

「あの・・・。もしかしてあなた方は?」

「警察だ!!」

「いいからこっちを向け!!」

指示に従い、振り向くと二人の男が立って居た。

「それで何か御用でしょうか?」

「先ほどの爆破は貴様か!?」

「どうなんだ!?」

「は?」

何やらとんでもない誤解をしているような気がする。

「あの俺は、何もしてないんですが・・・」

「嘘をつけ!!」

「お前がやったんだろ!?」

俺を怒鳴るように二人は攻め立てる。

「あの?そういう高圧的なのは良いですけど、そこの防犯カメラの映像を確認していただけたたらと思います」

「そういうの良いから」

「早く手を出して」

男は、おもむろに手錠をかけようとする。

そこで何か違和感を覚えた。

「あんたら警察じゃないな」

そう言うと、二人は銃の引き金に指をかける。


バンッバンッ!!


乾いた銃声が鳴り響く。


「っ・・・。あぶねー。純白スノーホワイトが無ければ死んでいたぞ」

「なっ!?」

「構わん撃て!!」


バンッバンッ!!


「危ないだろ!!」


ドゴンッ!!

男を1人蹴り飛ばす。

「まずは一人!!」

「死ね!!」

バンッ

銃弾が頬を掠める。

「ちっ!!」

ドゴンッ!!

もう一人の顎に蹴りを入れる。

「ふぅ・・・。それにしても何だったんだこいつら?」

襲って来た男たちは、気を失っている。

「面倒事になる前に、ここから離れるか」







「ただいま~」

「遅い!!」

小春が迫ってくる。

ドンッ!!

「ねぇ?GPS見たんだけど、ある場所からしばらく動かなかったよね?何やってたの?」

小春は壁に手をつけ、俺を逃がさないようにしていた。

「いや・・・。あの・・・」

「言い訳でも考えてるの?」

鋭い目つきで俺を睨む。

「待って。何この傷。頬をケガしてるけど・・・」

やばい・・・。

さっき銃で撃たれた時に掠ったんだ・・・。

「すんすん・・・。ぺろっ」

「ひゃっ!!」

何故か、匂いを嗅がれ傷跡を舐められた。

「何か焦げ臭い匂い・・・。火薬・・・。ねぇもしかしてこの傷、撃たれたわけじゃないよね?」

「なっ!?」

何故、そこまで分かる!?

「月は、コンビニに行ってきたのよね?」

「はい・・・」

「そのコンビニは、銃撃戦が起きてる地域だったの?」

「いや・・・」

「ねぇ答えて」

「うぅ・・・」

心配させたくないので、明言を避けようと考える。

しかし、小春のプレッシャーが凄すぎて何も考えられない。

「早く答えてよ・・・」

消え入りそうな声だ。

「あんまり小春には、心配かけたくないから言いたくは無いんだけど。何か警官のフリをした男に撃たれた。まあそいつらは、蹴り飛ばしたから大丈夫だ」

真実を話すしかない思い、全て話した。

「そう・・・。月を傷つける奴が居たんだ」

「もう終わった事だ。気にするな」








すりすりすり・・・。

「小春?」

「なあに~」

「頬ずりを辞めてくれませんかね?」

「やだ」

「えぇ・・・」

小春は、俺に抱き着いたまま離れる気配がない。

「硝煙の匂いをかき消すんだから」

「掠った程度だから。というか、そんなんで匂いを消せるわけないだろ」

「は?」

「ひぃ!」

最近、小春が吹っ切れることが多い気がする。

まあ俺が勝手に動いて、怪我してるせいなのだろう。


すりすり・・・。


小春はまだ頬ずりを辞める気配はない。

ちなみに、シエルはキャットタワーに引きこもっている。

小春の覇気に圧倒されたのだろう。

仕方のない奴だ。


「月。こっち向いて」

「ん?」

ちゅっ

「んんっ!!」

「ぷはぁ。ふふっ。美味し」

名前を呼ばれたと思ったら、突然のキス。

しかも舌を入れるような濃い奴だ。

「小春・・・?」

「今回の事で分かりました。今までにも勝手に一人で傷ついて帰って来ることは多かったけど、もう我慢できない。一秒たりとも月から離れないから。もう耐えられないの」

小春はまっすぐとこちらを見つめて宣言する。

「もう一人にさせない。絶対に」

そう言って、小春は俺の首筋を咥え、マーキングをする。





陽も高くなり、今は丁度、正午を迎えたところだ。

俺は、昼食の用意を始める。

その頃、小春はシエルと遊んでいた。

「にゃぁ~」

「ニャー・・・」

というか、小春がシエルに遊ばれていた。

「んっ?シエル爪伸びてるね」

「そうなのか?」

「うん。ご飯食べ終わったら、シエルの爪切ってくれる?。私は不器用だから、怖いの」

「分かってるから。そんな暗い顔するな」

「うん」

小春は、昔から手先が不器用なのだ。

だから、シエルの爪は俺が切る担当となっている。

その代わり、小春はシエルのおやつをあげる担当となっている。



がやがや・・・。

『本日、午前9時頃に爆発が発生しました』


「さっきの奴、やっぱニュースになってるか」

「さっきの?」

「俺が襲撃された奴だよ」

「あー」

コンビニで買い物するだけが、ここまで大ごとになってるとはなぁ。


『なお、犯人は未だ逃走中』


「まだ逃げてんのかぁ」

「怖いね」

ん?

まだ逃げている・・・?

「あれ?じゃあ俺を襲った奴は何者だ?」

「え?」

あれは明らかに警官じゃなかった。

民間人に銃を向ける上に、警察手帳も碌に見せない。

「んー」

「月。やっぱりあなた何かに巻き込まれてるね」

小春が物騒な事を言う。

「夏休みくらい休ませろよ」

「本当だよね」

俺は、この夏引きこもる事を決めた。






「ほい。ご飯の用意が出来たぞ」

「ありがと!!」

俺は、盛り付けた皿をテーブルに置く。

「じゃあシエルのご飯は、私が用意するね」

「おう。任せた」

小春は、シエルのご飯を皿に入れる。

「ニャー」

シエルは、ご飯を盛った皿に歩み寄る。

「こら。まだ盛ってる途中でしょ。落ち着きなさい」

「ニャー」

「ははっ。シエルは食いしん坊だな」

「本当に月と一緒で掴みどころがないね」

「そうなのか?。シエル~」

「ニャー」

「いい子だぞ?」

「むぅぅぅ・・・」





「じゃあ頂きます」

「どうぞ」

俺たちは、昼食を取り始める。

「ん~。美味しい。やっぱ月のオムライスは良いね」

「それはどうも」


カリカリカリ・・・。


「シエルもよく食べるよね」

「ああ。太らないか心配だ」

シエルのご飯は、俺たちと同じ時間に食べるようにしている。


カリカリカリ・・・。


「ねぇ月。明日、デートしない?」

「明日?」

また急な話だな。

「だめ?」

「はぁ・・・。良いよ。小春の誘いは断らないからな」

小春からのお願いや誘いは基本的には断ったことがない。

結婚してだの、心中しようだの。

そういった事は断っているが、それ以外は全くだ。

「じゃあ明日行くか。というかどこに行きたいとかあるのか?」

「うん。というか明日、何の日か覚えてないの?」

「明日・・・?」

はて。

明日は何かあっただろうか。

明日は、7月31日。

月末だ。

「ああ。そうか。もうか」

「そうだよ!」

明日は、俺が小春を始めてデートに誘った日なのだ。

「もうあれから2年か」

「そうだね。どっかの誰かさんがヘタレのせいでデートにも誘ってくれないし」

「いや、付き合い始めたのは小学生の時の上に、デートしたときなんて中学生だからね!?」

「歳なんて関係ないよ!!」

「そうかもしれんがな!」

「むぅぅぅ!!」

「ほらさっさと飯を食べろ」

「はーい」

さて、明日はどうしたものか。

多分、俺がプランを考えないと殺されるんだろうな。







「ニャー」

「はいはい爪ね」

「ニャッ!」

「ふふっ」

昼食を済ませ、俺はシエルの爪切りをする。

その頃小春は、食器を洗っている。

「ニャー」

「にゃー」

「月、シエルは似てるねぇ~」

「そうか?」

「ニャー?」

「そう言う所だよ」







「はい。終わり」

「ニャー!!」

ドタドタドタ!!

シエルは爪切りから解放され、走り回っている。

「シエル、よく我慢したね。おやつあげようか?」

小春は、シエルのご飯などが入っているケースからおやつを取り出す。

「ニャッ!!」

ドタドタ!!

「こら。暴れないの」

「ははっ。シエルは元気だなぁ」

「ニャー!!」

シエルは、おやつが見えた途端、走り回る。

「なぁ小春。明日行きたいところとかあるか?」

「式場?」

「それで、どこかあるか?」

「スルーしたの!?」

「何だよ。デートなんだろ?それでどこかあるのか?」

「もうっ!!じゃあ適当にぶらつこうよ」

「そんなんで良いのか?」

「じゃあ何かプランがあるの?」

小春は、問い詰める。

「すみません。無いです」

「ほらっ!!」

「本当にすみません」

小春に土下座を披露する羽目になった。







「それにしても外の日差しは凄いな」

「そうねぇ」

「ニャー」

「シエルもそう思うか」

「ニャー」

窓からは夏の日差しが入り込む。

「今日はバイトないの?」

「今日は休み~。この前、まとめて終わらせたから」

「そう。それなら私と過ごせるね」

「だな」

「ふぁぁぁぁ」

「眠いのか?」

「うん」

「ファァァ・・・」

「シエルも眠いのか」

「ニャ~」

小春もシエルも眠そうだ・・・。

「寝ても良いぞ」

「やだ」

「えぇ・・・」

「だって月ったら目を離している時に何か起こしてくるから大変なの」

「まあ・・・。うん」

「だから起きる」

「そっか」

小春は意地っ張りなところがあるから多分寝ないだろうな。

「zzz・・・」

「シエルは寝たみたいだね」

「だな」

シエルはとても寝つきが良い。

俺も寝つきがかなり良い方だが、シエルはそれ以上な気がする。

「じゃあ明日のデートはどこ行こうかなぁ」

「そうだね」


日も暮れ、夕食の準備を始める。

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