第12話 そうして神薙月は、鬼月小春と向き合う。

ピピピピッ・・・ピピピピッ・・・。

「ふぁぁぁぁ。朝か」

ピピピピピピッ。

アラームを止め、体を起こす。

今は、旅行から帰り、家で休んでいる状態だ。

「やっぱり休むなら、家の中だなぁ」

カーテンを開け、部屋に陽射しが差し込む。

「朝飯でも作るか」

キッチンに向かい、朝食の準備を始める。


トタトタトタ・・・。

「ニャー」

シエルが俺の足に頬ずりをしている。

スリスリ・・・。

「ニャー」

「シエルもご飯が欲しいんだな~。ちょっと待ってろよ」

「ニャッ!!」

まずは、シエルの朝食を準備を始める。


「むぅぅぅ・・・。ふぁぁぁぁ。月・・・?」

小春が目を覚ましたようだ。

「おはよう小春」

「おはよ月」

「ニャー」

「ふふ。シエルもおはよ」

小春は、ベッドから出てくる。

「というか部屋着はもっとどうにか出来んのか?」

「え?」

今、小春と俺は同棲している。

まあ元々、半同棲だったようなものだったが、一緒に住み始めてより一層過激になったというか何というか。

小春が家にいる時の服装は、俺のシャツ一枚なのだ。

俺のシャツを着るのは別に構わないのだが、その下が問題なのだ。

「下着くらい着てくれ」

「えぇー。良いじゃん。月しか見ないし」

「そういう問題じゃない」

「もしかして服が邪魔?」

「下着を着ろって言ってんだ!!」

休みだろうが何だろうが関係ないのが小春なのだ。

「ニャー」






朝食を食べ終え、今日の予定を決める。

「私は、月と一緒なら何でもいいよ」

「そうか」

「うん!」

小春は、嬉しそうに返事をする。

「にしてもどうしたものかねぇ」

ピッ

特に予定も思い浮かばず、テレビを点ける。

『先日、起きたホテル倒壊ですが、エンハンスの暴走が原因だとされています。このホテル倒壊での、重傷者多数。死亡者も出ているようです』

ピッ

「はぁ・・・」

「月、まだ気にしてるの?もう三日だよ?」

「そうだな」

確かに、小春の言う通りだ。

こんな事、引きずってても仕方ないことだ。

「ニャー」

シエルが俺の膝の上に乗って来た。

「ニャー」

「ほらシエルもこう言ってるのだから、気にしなくて大丈夫だよ」

「ニャー」

「そうか。シエルも慰めてくれるんだな」

「ニャッ!!」

シエルは、こちらの言葉を理解しているかのように返事をする。

「よしっ。じゃあ今日は、シエルの為にも家で過ごすか」

「ふふ。そうだね」

「ニャー」







「ねぇ月」

「んー?」

小春が俺を呼ぶ。

「アイス食べていい?」

「良いけど・・・。何故、俺に聞くんだ?」

アイスくらい好きに食べれば良いのに・・・。

「だって冷凍庫に入ってるのは、あのお高いカップアイス、一つしかないから」

「そうか。一つしかないって・・・えぇ!?絶対それ俺のだよね!?昨日、コンビニで買って来たやつ!!自分のは!?」

「食べてちゃった♡」

「あざとい」

「そんなぁ」

「はぁ・・・。じゃあアイスは食べていいから。そんな顔をするんじゃない」

「良いの!?」

小春は目を輝かせて聞き返す。

「ああ構わん。後から、コンビニに行ってくる」

「私も行く~」

「はいはい」







「うーん!!美味しい!!流石は300円のアイス!!」

小春は、アイスを食べていた。

「月。こっち向いて」

「んー?」

今、俺たちはソファに並んで座っている状態だ。

「どうしたんだ?こはっ・・・!」

ちゅっ

口の中に冷たいのが入り込んでくる。

「ぷはぁ。ふふっ。どう?美味しい?」

「普通に食べさせてはくれませんかね?」

口移しなんて、意味があるのか・・・。

「るなるなるな~」

「何だ?そんなに連呼して。頭がおかしくなったか?」

「奥さんに対して、頭がおかしくなったとか言わないで!!」

「はいはい。奥さんは綺麗ですよ~」

「もう馬鹿にして~」

小春は、口を膨らませる。

「あっ」

「ん?どうかした?」

今日の予定は、無いと思っていたが一つ思い出した。

「スマホ買わなきゃ・・・」

「あー。壊れちゃってたわね」

「ああ。熱にやられてな。買い直した方が早いから、今日にでも買いに行こうかと思ったんだが」

「良いよ。じゃあ一緒に行こっか」

「あくまでも一緒なんですね」

「もちろんよ」

そうして二人で、再び買いに行くことになった。











「いらっしゃいませ~」

携帯ショップに着き、順番を待つ。

「どうしてこういった店って年中賑やっているんだろうな」

「そうね。来店予約しないとまともに来れないなんて」

「でもまあよく、当日予約が出来たものだ」

「確かにそうだね」

特に、することもなく大人しく座って待つこと数分。

「38番でお待ちの方~」

店員が番号を呼ぶ。

「俺たちのようだな」

「だね」

呼ばれた所に行き、手続きを進める。

「料金プランはどうなさいますか?」

「じゃあ・・・」

「ペアパックで」

「かしこまりました~」

うん。

分かってた。

まあそっちの方が安く済むし、別に問題ではない。

「では、こちらにサインをお願い致します」

「はーい」









スマホを買い終え、帰路に就く。

「はぁ・・・。安い買い物じゃねぇな」

「私が出すって言ってるのに」

「そうはいかんだろ」

「むぅぅぅ・・・」

前回は、小春に買ってもらったのだが、今回もという訳にもいかない為、貯金を切り崩して購入した。

「にしても、暑いなぁ」

「そうね。陽が傾いているっていうのに」

夏というのは本当に侮れない。

「毎年、最高気温が更新されてる気がするな」

「本当よね」

全く、困ったものだ。

「アイスでも買って帰るか」

「うん!!」






ウィーン。

「いらっしゃいませー。ってご主人様!?」

そうだった。

忘れていた。

このコンビニには、あの人が働いていた。

「あの女。生きてたのね」

小春の毛嫌いしている奴だ。

「扇野さん公私は分けた方が良いですよ」

「はい!ご主人様の命とあらば!!」

駄目だこの人は・・・。

「ねぇ月?この女殺して良い?」

「良いわけないだろう」

駄目だ。

小春をこの場に居させると本格的に殺人に発展しかけない。

「小春。さっさと買い物を済ませて帰るぞ」

「うん。分かった」

あれ?

思いのほか、物分かりが良い?

「こんなメス豚と同じ空気を吸いたくないから、さっさと買うもの買って帰りましょう」

うん。

まあそんな事だろうと思った。

「あらあら。ご主人様に寄生している分際でよく息をしているものですね」

だから、何故喧嘩を吹っ掛ける。

「はぁ?」

まあその喧嘩を買うよなぁ。

「今すぐ表に出なさいメス豚!!」

「良いでしょう寄生虫!!」

本格的に始めてしまった・・・。

というか、店前で何をやってんだか。

客が居ないのが、救いだな。

「死ね!!絶対的アブソリュートドレス!!」

「消えなさい!!透視クレアボヤンス!!」

そろそろ止めないといけないようだ。

「2人とも!!そこまでだ!!」

2人の間に入り、制止を促す。

「月!?」

「ご主人様!?」

2人は、寸前で動きを止める。

「小春は、落ち着け。さっさと帰るぞ」

「でも・・・」

「そして扇野さん、早くレジ通してもらえるか?」

「ご命令とあらば!!」

「あと、前にも言ったけど小春を傷つけたら・・・許さないから」

「はぁん♡」







コンビニで買い物を終え、家にたどり着いた。

「ただいま・・・」

「待たせたなシエル」

「ニャー!!」

トタトタトタ・・・。

シエルがこちらに走ってくる。

「すまんな。遅くなって。シエルのおやつも買ってきたぞ」

「ニャー」

シエルは、お皿の前に座る。

「はいはい。待っててな。今。準備するから」

「ニャー」

シエルのおやつを用意するが、さっきから小春が静かだ。

「小春?元気無いが大丈夫か?」

「うん・・・」

やはり、元気がない。

「熱中症か?だとしたら、しっかり水分を取って横になれ」

「月はさ。私の事重いとは感じないの?」

小春は、不安そうな声で聞いてくる。

「そうだな。重いよ」

「うっ」

「でもな、前にも言ったかもしれんが、それほど俺の事が好きなんだろ?だとしたら、それを否定はしない」

「月ぁ~」

「はいはい。嫌いにならないから、大人しくしてろ」

「うん~」

小春を宥めながら、シエルのおやつを皿に盛る。





「ねぇ月」

「何だ?」

「愛してる」

「俺もだ」

「じゃあ結婚して」

「出来る年齢になったらな」

「うん」

毎日のように小春からプロポーズを受けている気がするが、悪い気はしない。

いずれ、結婚出来る時が来たら俺からしてあげよう。

「というか夏休みをこんな感じに消費していくのはなぁ」

「そうだね」

「ニャー」

「どこかに出かけるにしてもシエルがいるし」

「この前はペット用のホテルに預けてたけど、毎回そうする訳にもいかないしね」

「ニャー」

シエルは、賢い子だがあまり寂しい思いをさせるわけにはいかない。

「シエルこっちおいで」

「ニ、ニャー」

小春に呼ばれ、怯えながらも近づくシエル。

「ふふっ」

ぎゅっ。

「捕まえた」

「ニャー・・・」

シエルは、未だに小春になれておらず仕方なく捕まっているような表情をしている。

「ふふっ。本当にシエルは、月に似ているね」

「ニャー」

「似てるか?」

「うん。似てる」







夕食を食べ終え、パソコンを立ち上げる。

「バイト?」

「ああ。その通りだ」

「そっか。じゃあ邪魔しちゃいけないね。シエルこっちおいで」

「ニャー」

小春にもバイトの事は言っているので、邪魔はしないようにしている。

バイト内容は、主にデータ入力だ。

依頼主は、白銀麗奈先生。

中学時代の恩師だ。

データ入力とは言っても、教師の仕事とは全く関係のないものだ。


カタカタカタカタ・・・。


「はい。コーヒーここに置いておくね」

「ああ。ありがとう」


カタカタカタカタ・・・。


部屋に響き渡るタイピング音。

小春は、何やら本を読んでいる様子で、シエルは、爪を研いでいた。

「ふぅ・・・。そういえば小春は宿題やったのか?」

夏休みなのだから、宿題はあって当然なのだ。

だが、休み前の授業である程度の宿題範囲は教えてくれている。

そのため、俺の宿題は休み前には全て終わらせていたのだ。

「宿題~?それなら終わってるよ」

「流石は小春だ」

「当然でしょ」

どうやら小春も休み前に終わらせていたようだ。

「月、クッキー食べる?」

「ああ頂こうかな」

「ちょっと待っててね」

小春が小包を渡す。

「はい。これクッキー。このくらいなら一人で作れるようになったから」

「成長したな」

「うん!!」

満面の笑顔で、返事をする。

あんなに料理できなかったのに、よく頑張っているなと思う。

基本的にご飯を作っているのは俺なのだが、こういったお菓子の類は、小春が作っている。

「どう?上手く出来ているかな?今回は、唾液とかも入れてないから」

「入っている方がおかしいからな?」










カタカタカタカタ・・・。

カタッ!

「ふぅ~」

「終わった?」

「ああ。すまんな退屈させて」

「良いよ。私の為にも働いているんでしょ?それなら仕方ないよ。むしろ私も手伝いたいくらいだし・・・」

「ふっ。その時はちゃんと言うよ」

「本当に?」

「本当だ」

俺は、パソコンを閉じ小春の近くに座る。

「小春」

「んー」

「愛してるぞ」

「うん」

ちゅっ

小春と優しい口づけをする・・・。

「ふふっ。月は私のものなんだから」

ぎゅぅぅ・・・。

小春は抱きしめる力を強める。

「小春?もしかして昼間の扇野さんの事気にしてるのか?」

「・・・うん。私って月に寄生してるのかな?」

小春は、今にも消えそうな声で聞く。

「分からん。でも既に寄生されてるなら俺にはどうにもできん。死ぬまで寄生されたままだろう。それなら共存するしかないな」

小春を励まそうと思ったが、そんな大層な事が出来るほど大人じゃないのだ。

「そっか。私、寄生してたんだ。あの時からずっと・・・」

あの時・・・。

小春が言っているのは、おそらく小学生の時のあの件だろう。

あれは、俺の自己満足なのだから小春が気にする事ではないのだ。

「ニャー」

「ん?シエルどうした?」

「ニャー」

シエルは、小春に近づき頬ずりをする。

「ニャー」

「シエルも慰めてくれるの?」

「ニャッ」

「ふふっ。ありがとうねシエル。本当にあなたは月に似てる」

「ニャー」

シエルは、確かに、小春の言葉に反応している。

「月もシエルもありがとうね」

「小春、聞いてくれ」

これから話すことは、慰めでもご機嫌取りでもない。

俺の本心だ。

「俺は、心から鬼月小春を愛している。だから、俺の下から離れないでくれ」

これじゃあどっちがヤンデレか分かんないな・・・。

「うん。絶対に離れない。一生一緒だからね」

「ああ。一生一緒だ」

「ニャー」









ゴソゴソゴソ・・・。

「ねぇもっとくっついて良い?」

「ああ良いぞ」

「ありがとう」

俺たちは、今同じベッドで寝ている。

本来なら、俺が敷布団で小春がベッドで寝ているのだが、今日は同じベッドで寝ている。

若干狭いが、俺もそろそろ小春としっかり向き合わないといけない。

「月、起きてる?」

「起きてるぞ」

「寝る前にさ。月のエンハンス見せてくれない?」

「良いけど・・・。どうして?」

今までに言われたこと無いので驚きを隠せない。

「月の白い炎は見てると心が落ち着くの」

「そうなのか?」

「うん」

「分かった・・・」

俺は、起き上がりベッドに腰掛けるような体勢になる。

純白スノーホワイト

ボッ・・・。

白き炎を右手に纏わせる。

この炎は、エネルギーの塊であり高熱を纏っているので家の中で使うのはあまり良くない。

だが、今の様に右手に纏わせるくらいだったらいつでも良いだろう。

「うん。やっぱり優しくて温かい・・・」

「そうか」

「「・・・」」

そこからは、時間の流れを忘れてしまうほど静かな時が流れた。







「じゃあそろそろ寝よっか」

「もう大丈夫か?」

「うん。落ち着いた」

「そっか」

そして二人は、再びベッドに入り目を閉じる。

そこからは、俺も小春もすぐに眠りについた。

「「すぅ・・・」」

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