収納魔法と星占い
田舎の夜というのはどこの世界でも静かで暗い。
無事に衣食住の宛てが確保できてホッとした夜、クウラはそんなことを思った。元の世界では大都市の住宅街に住んでいたが、魔法の造形を深めるためによく野生の魔獣や魔力を宿す野草が生息する地方の山に籠もっていた。その時に麓の村に寄ることも多々あったので、都会人にしては田舎を知っていると自負していたのだが、それにしても。よく言えば穏やか、悪く言えばやることが無い。有り体に言えば、暇。
これが山籠もりの時ならば、魔法の解析やら開発やら魔獣の観察やら稀少な
そうだ星を見よう、と。
クウラが元いた世界で住んでいた都市では、魔法技術の発展と人口増加に伴い光害が問題視され始め、現在も積極的な夜間消灯が求められている。何故かと言えば、元々空にあるものと魔法は密接に関わっていて、特に夜のものは強い力があるので魔法使いにとって夜の星が見えないのは痛過ぎるからだ。
「この世界にも光害は起こっているだろうな。」
ふと思い、ポツリと呟いた。
なにせ田舎の一民家にまでLEDなんて代物が普及している世界なのだから、当然人も物も集まる都市部は光源で溢れていることは想像に難くない。だとすれば田舎の綺麗な星空は都会人には物珍しくて、「星を眺めるツアー」なんて商品があるかもしれない。魔法云々を差し引いたとしても、夜空というのはなにか特別な魅力があるし、ロマンチストでなくても星は綺麗だと思う。それだけで充分に商売として成り立つ、とクウラは考えた。
同時進行で動かしている手元には、転送魔法で飛ばされる前に咄嗟に掴んだ鞄があった。それこそ世界線を問わずどこにでもあるような茶色の学生鞄だが、この鞄の持ち主
は15歳にして魔法使いとしての最高傑作と呼ばれたあのクウラ・ヒウルアだ。杖を一振りすればひとりでに蓋が開き、中からは勉強道具や学校指定の運動着、図書館から借りっぱなしの分厚い本に予備の杖に研究ノートと、鞄のサイズなど知らないと言わんばかりに大量の荷物が飛び出した。基礎中の基礎である収納魔法とはいえ、同い年でクウラの右に出る者はいないほどの正確さと応用力だった。最も、この世界ではそれを誇るどころか外部に漏らしただけで色々アウトだが。
飛び出してきた運動着に着替えてからローブを纏い、合わせの裏側に杖を差し込んで隠した。ランタン魔法を消すのを忘れずに外へ出ると、辺りに人がいないのを確認してから普通に施錠し自転車に跨がった。慎重に浮遊魔法を操りつつ裏山の頂上を目指してペダルを踏み込んだ。
頂上に着いたのは、家を出て30分したかしないかくらいの時間だった。途中、熊と蛇に遭遇したが迷彩魔法で乗り切った。これくらいは山籠もりで慣れていたので何ともなかったが、浮遊魔法をかけた乗り物だと登山もできるというのはクウラにとっても新発見だった。
新しい学びにホクホクしながら見上げれば、そこには満天の星が広がっていた。クウラは向こうと星の並びは同じだと思っていたが全然違っていて、サドルに横に腰掛けて首が痛くなるほど見蕩れていると自身の好奇心が刺激されるのを感じていた。明日はこの世界の星の研究をしようと決め、高鳴る好奇心そのままにこの夜空で星占いをしてみることにした。授業で習った通りに脳内で星々をつなぎ合わせ、自分の守護霊の星と重ねる。一番光る星との距離導き出したら杖を四振り。その場で魔法陣をイメージしたステップを踏んだら更にもう三振り。さて、結果は。
{困難多々あり}
{試行錯誤せよ}
・・・明日からも気張っていくかぁ。
ふうっと一つ息をつけば、星が流れて行ったような気がした。
逆!?異世界転送物語 猫助 @NEKOSUKE2
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