20.瞬殺



「なんで俺、こんなところにいるんだろ?」


 ギルドで鑑定の結果を待ってたら役人がやってきた。

 それで自分にクエストを任せたいといわれた。

 そしたらエラソー隊長が、自分のほうがふさわしいと首を突っ込んできた。

 気が付いたら決闘をしてどちらが強いか力比べをすることになっていた。


 そんなわけでアルトは、王宮の決闘場でエラソーのことを待っていた。


「アルト殿。今日はお力を拝見できるということで、楽しみにしている」


 件(くだん)の役人がアルトにそう話しかける。


「はい……」


 少しして決闘の相手であるエラソー隊長が、ギルマスと共に姿を現した。


「なんだ、怖くて逃げ出すと思ったが、ちゃんと来たか。それだけでも褒めてやろう」


 エラソー隊長は笑いながらアルトのほうにやってくる。


「ギルマス、コイツに勝てば、騎士試験を受けるためのクエストへの挑戦権を手に入れられます」


 エラソー隊長は、ギルマスにそう豪語する。


「なんだ。誰かと思えば、こないだリストラしたノースキルじゃないか。コイツに勝てばいいなんて、楽勝じゃないか」


「ええ、そうです。おそらく瞬殺かと」


 ギルマスとエラソーはそんな失礼極まりない会話を繰り広げるが、役人もアルトもなにも言わなかった。


「それでは、二人の決闘を始める」


 役人は淡々と二人にそう告げる。


「先に相手に一撃を食らわせ、結界(ライフ)にダメージを与えたほうが勝ち。それ以上の攻撃は認められない。よいな」


「ああ、わかっているさ」


 エラソー隊長はガハハと笑った。


「ええ、わかりました」


 二人は向かい合う。


「――それでは、はじめ!」


 先にスキル名を発動したのはエラソーだった。


「“ドラゴン・ブレス”!」


 いきなり上位スキルを発動するエラソー。

 巨大な炎を練り上げて、それを一気に放出するスキルである。


 宣言通り、瞬殺する構えだった。


 それに対して、


「<ファイヤーボール>起動!」


 アルトはファイヤーボールの同時発動テキストを起動。


「フハハ! ファイヤーボールで俺に勝てるわけねぇだろう!!」


 エラソーはそう笑ってから、溜め込んだ火炎を撃ち放つ。


 ――だが。


 エラソーのドラゴンブレスの巨大な火炎を、さらに上回るような大きさのファイヤーボールがアルトから放たれた。


 両者のスキルが激突――だが結果は最初からわかりきっていた。

 エラソーのドラゴンブレスはアルトのファイヤーボールに押し返されていく。


「ば、バカな!?」


 エラソーのドラゴンブレスは完全に力負けし、そのまま押し切られる。

 そのままアルトのファイヤーボールが、エラソーの結界とぶつかって爆発する。


 宙を舞うエラソーの身体。そのまま後方の地面に叩きつけられる。


 エラソーが宣言した通り、瞬殺であった。

 ただし、負けたのはエラソーであったが。


「――勝者、アルト」


 役人が勝利を宣言する。


「な、なんだと!?」


 脇で見ていたギルマスは目を見開いて絶句した。


 吹き飛ばされたエラソーは結界のおかげで無傷だったが、しかししばらくの間何が起きたのか理解できず立ち上がれなかった。


「お、俺が、あの無能のノースキル野郎に負けた……?」


 すると、役人がアルトに近づいてきて言う。


「さすが、評判通りのお力! あなたのような人材こそ騎士にふさわしい」


 アルトは頭を掻く。


「あ、ありがとうございます」


 と、ようやく我を取り戻したエラソーがアルトたちのほうに歩いて戻ってくる。


「待て! コイツは不正をしたんだ! そうじゃなきゃ俺が負けるはずがない!!」


 根も葉もない言いがかりに役人はあきれ果てる。


 だが、それ以上にその言葉に怒った人間がいた。


「バカなことを言うのはおよしなさい」


 ――凛とした声が響く。


 その場にいた全員が現れた彼女のほうを見た。


「……王女様!!」


 役人がそう言って頭を下げた。


 アルトは驚いて頭を下げられなかった。


「お、王女様――!?」


 なにしろ王女様と言われた少女は、先日アルトが助けた少女だったのだから。



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