19.【side】エラソー隊長ではなくアルトさんに任せたい


「エラソー隊長。お前には本当に失望している」


 ギルドマスターは、エラソー隊長にそう告げた。

 Bランクダンジョンの攻略に失敗してギルドの名声を貶めたエラソー隊長に、ギルドマスターは厳しい言葉を投げかける。


「ギルマス……必ず。次こそ大きなクエストを成功させてみせます!」


「そうだ。大きな仕事を取ってきて、挽回しろ」


 エラソー隊長は気合を入れて、クエスト紹介ギルドへと向かった。


 とギルドに行くと、そこにはエラソーが見たくない相手がいた。


「――アルト……!!」


 エラソー隊長がギルドからリストラしたアルト。

 魔法適性が低いいわゆるノースキルの無能。

 しかしなぜかエラソー隊長が失敗したBランクダンジョンを攻略して見せたのだ。


 アルトは受付の脇で、ダンジョンで手に入れた物品の鑑定を待っていた。


「……チッ。貴様を見るとイライラするぜ」


 エラソー隊長は、そう吐き捨てる。


 それに対して、アルトはあくまで大人な対応で無視を決め込む。

 エラソーは、アルトから視線をそらし、受付のお姉さんに問い詰めるような口調で聞く。


「おい。今ある中で一番難しいクエストはなんだ」



「一番難しい……まぁ、例えばこのBランクダンジョンの攻略とかでしょうか……」


「……ダメだ、そんなんじゃ。Aランクのクエストはないのか!?」


 お姉さんは心の中でで「Bランクさえ失敗したのに、どの口が言うのか」と思った、さすがに口には出さなかった。


「今はありませんね」


「――使えないなッ」


 エラソー隊長の言葉に、さすがのお姉さんもイラっとする。

 しかし、この人間に何か言ってそれ以上絡まれるのも嫌だったのであえて黙っていた。


「クソッ、他を当たるか……」


 と、エラソー隊長が退却しようとした時だ。


 一人の男が建物に入ってくる。


「――いらっしゃいませ」


 それを見て、受付のお姉さんは背筋を伸ばしてそう言った。


 エラソーが振り返ると、そこにいたのは――宮廷の役人だった。

 胸につけたエンブレムがそれを示している。


「今日はある男に、任務を依頼しに来た」


 役人は受付のお姉さんに言った。


「ありがとうございます。ご指名ですね」


「そうだ。その者が騎士選抜試験にふさわしいかを見極めるための高難易度クエストだ」


 ――その言葉を脇で聞いていたエラソーの心臓が高鳴る。


 騎士選抜試験は、宮廷などの推薦があれば受けられる。

 その際、めぼしい人間を見つけた宮廷は、クエストを依頼して、その者の素質を見極めるのだ。


「(俺にようやく受験のチャンスが回ってきたッ!!)」


 エラソーはそう確信した。

 この二年活躍を続けてきて、ようやく宮廷にもその活躍ぶりが伝わったのだ。


「それで、どなたをご指名でしょうか?」


 お姉さんが聞く。


「――それは」


 役人は一瞬間を開けて――そして、エラソーが望んでいたのとはまったく違う者の名前を上げた。


「――アルトという者なのだが」


「――へ?」


 役人の口から出てきた“アルト”という言葉に、エラソーは本気で驚く。


 アルト自身も同じように驚いていた。


「ちょちょちょ、ちょっと待って役人さん!!!」


 エラソーは思わず役人に話しかける。


「なんだ、お前?」


「ああ、アルトって、あのアルトですか? まさか、あのものに任務を!?」


「ああ、そうだ」


「待ってくださいよ!! あの男は、ノースキルの無能やろうですよ?! 人を間違えていませんか!?」


「彼がアルトか。――彼で間違いではない。王女様がご指名しているのだ。この者は、確かに聞いている通りの人相をしている」


「そ、そんな!? お、俺は!? エラソーの名前を知りませんか!? 近衛騎士にいま一番近い男と言われているんですよ!?」


 まくし立てるエラソー。

 しかし役人は首をかしげる。


「はて。エラソーなんて名前は聞いたことがないな」


「そ、そんな!?」


「とにかく。王女様のご指名なのだ。アルト殿、引き受けてくれるか?」


 アルトは突然の出来事に、状況がうまく呑み込めないでいた。


「えっと、それを受けると、近衛騎士になれる可能性があるんですか?」


「その通り。騎士学校の三年生に交じって近衛騎士を選抜する試験への挑戦権が得られる」


 それは、騎士になることを目標にしていたアルトにとって願ってもないことだった。

 

「ではもちろんそのクエスト受けます!!」


 そう宣言するアルト。


 だが、それに異議を唱える者がいた。


「ま、待ってくださいお役人様! わ、私こそが、騎士になるのにふさわしい男です!!」


 エラソーは役人に詰め寄る。


「なに? だから王女様はお前ではなく、アルト殿を指名していると言っているだろう」


「いえ! こいつはノースキルなんです! 私のほうが強い! だからそれを証明させてください!!」


「証明だと?」


「決闘で、白黒ハッキリさせましょう」


 あまりに強引なエラソーの提案。

 しかし、それに対して役人は出来心で頷く。


「なるほどよいだろう。一度目の前でアルト殿の力を見てみたいと思っていたのだ。お前が勝てば、お前にクエストを紹介しよう」


 ――突然王宮の役人に指名されたと思ったら、突然元上司と戦うことになったアルト。

 展開の目まぐるしさに困惑する。


「よいかな、アルト殿」


「え、えぇ……」


 困惑しながら、とりあえずそう答えるアルト。


「アルト。見てろ。お前みたいなノースキルに俺が負けるわけないのだからな!!」


 ――エラソーはそう断言するのだった。 


「それでは明日、王宮の闘技場で二人の決闘を行う」


 †

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