18.王女を救う



 ――鉱山での二日目の収集を終えて、アルトは帰路に就いた。


 二日目もザクザクレアアイテムが取れ、リュックはパンパンになっていた。

 もちろんモンスターを倒した証である魔石もたくさん手に入ったので、報酬は弾むだろう。


 アルトはウキウキしながら、山を下りていく。


 ――だが、そんな時だ。


 静かなはずの山に、突然叫び声がこだました。


「な、なんだ?!」


 アルトは慌てて、声がしたほうへと駆け出していく。


 そして、アルトは見つけた。


「――どど、ドラゴン!?」


 全長は人の五倍はあろうか。

 その前足だけでも人間より重たそうだ。


 そしてドラゴンの視線の先には、少女、そして倒れた男がいた。

 少女は、綺麗な身なりをしており、男は鎧を着ている。

 少女は貴族で、男は護衛というように見える。


 ――だが、護衛はいまや倒れこんでいる。

 少女は巨大なドラゴンににらまれ、今や絶体絶命のピンチだった。


 アルトは咄嗟に駆け出した。


「――<ファイヤーボール16>起動!!」


 オートマジックを発動し、特大級の火球をドラゴンに叩き込む。


「ぐぁぁぁッ?!」


 うめき声をあげるドラゴン。


 その間にアルトは少女とドラゴンの間に割って入った。

 そしてさらに連続して攻撃魔法を叩き込む。

 

「――<アイスニードル16>起動!!」


 さらにダメ押し。


「――<ファイヤーボール16>起動!! ――<アイスニードル16>起動!!」


 特大の魔法を連続でくらい、ドラゴンはなすすべなく倒れこんだ。


「……な、なんとか勝った……」


 アルトはほっと溜息をつく。

 少女を助けなきゃという一心で戦いを挑んだが、相手はまごうことなきAランクモンスター。

 本来一人でどうにかなる相手ではなかった。

 しかし、倒れこんでいる騎士がある程度戦ってくれたおかげで、なんとか倒せることができたのだ。


「そうだ、大丈夫ですか!?」


 アルトは倒れこんでいる男の元へかけよりしゃがみ込む。


 ――見ると、ダメージを受けているのではなく麻痺していただけであった。


「えっと、麻痺を治すポーション……」


 アルトはバッグからポーションを取り出し、男に使った。

 するとすぐに男は体の自由を取り戻した。


「あ、ありがとうございます!!」


 横から少女が声をかけてきた。


 アルトが目線を合わせると、そこにはとんでもない美少女が立っていた。


「……!!」


 銀髪の長い髪は、彼女が特別であることを示してくれる。

 その上品な服装とあいまって、本当に可憐で美しい少女だった。


「……ハッ!! も、申し訳ありませんでした!!」


 と、男が立ち上がり、少女のことを見て頭を下げる。 

 どうやら護衛の役割を果たせなかったことを詫びているのだ。


「いえ、気にしないでください。本当に幸いなことに、このお方が助けてくださいましたから」


 少女は、アルトの手を取ってその目をまっすぐ見据えた。


「私たちを助けてくださって本当にありがとうございます」


「い、いえ……」


 アルトはしどろもどろになって答える。


「私はシャーロットと申します。以後、お見知りおきを」


「お、俺はアルトです……」


「アルトさん。あなたは命の恩人です。このお礼は必ずしなければ――!」


「いえ、そんな……」


 アルトは相変わらず美少女に至近距離でまっすぐ見つめられて戸惑いを隠せない。


「すみません、アルトさん。今は急いで街に帰らねばなりません。でも後日必ずお礼をいたします。なので所属しているギルドを教えていただけますか?」


「えっと、ギルドは今は入ってなくて。フリーとして活動してます」


「それでは、いつも利用しているクエスト紹介ギルドは……?」


 アルトはいつも仕事を受注しているギルドの名前を言った。


「わかりました。後日、必ず御礼に参ります!! 必ずです」


「あ、ありがとうございます」


 と、シャーロットと護衛の男は立ち上がる。


「それでは、早くこのあたりから離れましょう」


「あ、あの……おこがましいですけど、街まで送りましょうか?」


「いえ、大丈夫です。先ほどは不意を突かれましたが、もう大丈夫です。この近くにはもう敵もいないはずなので」


 男がそう言うと、少女もそれに頷く。


「ご迷惑をおかけしました、アルトさん。必ずまた後日――!」


 そう言って二人はその場を立ち去った。


 ――アルトは嵐のように去っていった二人の背中を見つめるのだった。


 †


 アルトの元を去ったあと、シャーロットに対して護衛の男が語りかけた。


「――王女様(・・・)」


「なんでしょう」


「あの少年は、いったい何者でしょうか。まさかドラゴンをああも簡単に倒してしまうとは」


「とにかくわかるのはただ者ではないということですね」


 ――王女、シャーロットはそう答える。


「一つだけわかるのは、彼のような人材こそ、今騎士団に必要だということです」


「王女様、申しわけありません。私がふがいないばかりにお命を危険にさらしてしまいました」


「いえ。まさか騎士の一人が裏切るなんて思いもしないことです」


 男はドラゴンとの戦いに正々堂々挑んで負けたのではなかった。

 そうではなく、仲間だと思っていた騎士に裏切られ、不意を突かれたのである。


「いずれにせよ、強力な、かつ信頼のおける騎士を味方につけなければ。まさしく、あのアルトさんのような方です」


「その通りです、王女様」

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