21.王女様
「お、王女様――!?」
決闘場に現れた“王女様”は、つい先日アルトが森の中でドラゴンから助けた少女だった。
アルトも助けた少女が高貴な身分だとは思っていたが、まさかこの国の王女様とは思わなかった。
「アルトさん、先日は本当にありがとうございました。そして自己紹介が遅れて申し訳ありません。ローレンス王国王女、シャーロットです」
「まさか王女様とはつゆ知らず、ご無礼をいたしました」
アルトが驚いて頭を下げると、シャーロットは「とんでもない」と言いながら歩み寄ってくる。
「あなたがいなければ今頃私は死んでいました。本当に感謝しています」
会話を聞いていたギルマスとエラソー隊長は驚きすぎて、口を開けたまま呆然としていた。
――なにやらアルトと王女が知り合いで、しかも王女はアルトに恩があるらしい。
そんなこと想像さえしていなかったのだ。
「アルト様の実力、再び拝見させていただきました。やはり思った通り、騎士になるにふさわしい実力をお持ちです」
――騎士、という言葉を聞いてエラソーたちはビクっと肩を震わせる。
それは、冒険者ならだれでも憧れる存在。
そして、この国の王女様は、自分たちではなく目の前の“無能”が騎士に近い存在だと言うのだ。
「我が王室としてはいつでもアルトさんを王立騎士学校に推薦したいと思っています」
「あ、ありがとうございます」
昨日、いきなり王宮から打診があったのは、どうやら王女様を助けたからだったとアルトは納得する。
「それでは私たちの推薦を受けてくださりますか」
「ぜ、ぜひお願いします」
「そういってくださるとうれしいです。ただ、一応王室といえど、誰にでも推薦を出せるわけではありません。一応実力を証明するために、一つクエストをこなしていただく必要があります。もちろん報酬はお支払いしますが、受けていただけますか?」
「わかりました」
「では、また後日正式に連絡をいたします」
「ありがとうございます」
「――アルトさん。私はあなたにぜひ騎士になってほしい。期待しています」
王女は笑みを浮かべながら、アルトの腕にそっと手を置く。
――と、それから王女の鋭い視線がエラソー隊長たちに向く。
「それにしても、あなたたちは本当に情けないですね」
「――!!」
「完敗したことを認めず、逆に不正だとわめくとは……」
「お、王女様! し、しかし、この者はノースキルの無能なのです……。それがこのSランクパーティの私に勝てるはずがございません。何かしらの不正を行ったに決まっています」
エラソーの言い分を論理的に否定するのは難しい。
“不正を行った証拠”はないが、“不正を行っていない証拠”もないのだから。
だが。
「ばかばかしい」
王女はそんな風に一刀両断する。
「これ以上愚かさを見せて私を不快な気持ちにさせるなら、不敬罪でそれ相応の罰を与えますよ?」
「――ッ!!」
不敬罪という言葉が出てきたことで、さすがのエラソー隊長も黙らざるを得ない。
「とにかく、あなた方に王立騎士学校への推薦状を書くつもりはありません。さっさとこの場から立ち去りなさい」
王女に一喝され、エラソー隊長たちは怒りと恐怖に身体を震わせながらその場を去った。
†
ギルド本部に戻ってきたエラソー隊長とギルマス。
「おい、お前があの無能に負けたせいで、私まで恥をかいたじゃないか!!」
ギルマスはエラソー隊長を怒鳴りつける。
「も、申し訳ありません」
エラソー隊長はこぶしを強く握りしめながら、そう言った。
「お前のせいで、我がギルドの威信は地に落ちたわ。Bランクダンジョンの攻略に失敗し、今度は王室の反感を買った」
「本当に申し訳ありません」
ギルマスは顔を真っ赤にして怒っていたが、それと同時にギルドの保身を図る方法を考えていた。
「本来なら今すぐにでもお前をクビするところだ。このままでは私もダメージを負ったままだ。それはならん。だからお前に最後のチャンスをやる」
「……そ、それは?」
「あの無能アルトが、失態を犯すように仕組むのだ」
「――なるほど!! さすがギルマス!! これでアイツが無能だと証明できる!!」
「いいか、もう絶対に失敗は許されないぞ」
「はい!! 必ずアイツを突き落としてやります!」
†
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