12.【side】え、これもアイツがやってたの?



 引き続きCランクレベルの第三階層を進んでいくエラソー隊長一行。


 いつもなら楽勝で進めるはずなのだが、この日はそうはいかなかった。


「な、なんだ!?」


 隊長は足元でなにか音がしたのが聞こえた。

 見ると、罠のスイッチを踏んでいた。


 迷宮に警報が鳴り響き、天井から何やら煙のようなものが降りてくる。


「なんだ毒煙か。俺たちにはそんなもの効かねぇ」


 確かに、隊長が言う通りパーティには毒耐性が付与されていた。

 ――つい先日までは。


「たたた、隊長! ど、毒が!」


「なに!?」


 一行を突然襲った苦しみ。皆思わず膝をつく。


「ば、バカなっ!」


 大慌てでメンバーの一人が風魔法を使い毒煙を吹き飛ばす。

 そして大慌てでポーターが解毒魔法をかける。


「おい新入り! なんで罠があるのに教えてくれなかったんだ!」


 隊長はアルトの代わりに入ったポーターをしかりつけた。

 探索魔法で罠を事前につぶすのはアルトの仕事であった。


「なんでって……そりゃ探索してるけど、全部見つけるなんてできるわけねぇだろうが! ずっと探索をかけまくって、その結果をステータス画面で確認しながら歩けってか?」


「そんなに難しくないはずだ。あの“ノースキル”のアルトでさえやってたことだぞ!?」


 すると、それに対して新入りのポーターが反論する。


「な、なんだと!? 俺がノースキル以下だってのか!?」


「今のところノースキル以下だ」


 隊長と新入りのポーターは一触即発の雰囲気になる。


と、隊長の怒りの矛先は、他のメンバーにも向く。


「それに、なんで俺たちが毒にやられたんだ。対毒強化をだれかかけてるんじゃなかったのか!?」


 メンバーはお互いに顔を見合わせる。


「お前の役割じゃなったか?」

「いや、俺はちげぇ。お前じゃねぇのか?」

「ちげぇよ。そんなチマチマとしたことやるわけねぇだろ」

「じゃぁ今まで誰がやってたんだよ?」


 と一行は顔を見合わせて少し悩んだ後、一つの結論にたどり着く。


「……まさか、あのノースキルのアルトじゃねぇよな?」


 一瞬あたりが静まり返る。


「そんなわけねぇだろうが! バカも休み休み言え!」


 隊長が怒鳴りつける。


「……もういい。とにかく、行くぞ!」


 と、隊長に率いられ、しぶしぶ歩き出す一行であった。


 †


 それからもエラソーのパーティは少しずつ進んでいき、ようやく第四階層に突入した。


 しかし、既にそこまでで一行はかなり消耗していた。

 自分たちのスキルでは回復しきれなくなり、予備で持っていたポーションもほとんど使い果たした。


「た、隊長。そろそろやばいです」


 部下の一人がエラソーにそう告げる。

 確かに、今までのところでこれだけ苦戦しているのに、階層が上がったことでここからはさらに強い敵が現れるはず。どう考えても勝ち目がない。


 だが。


「バカ言え! このエラソーパーティが、Cランクの敵しか倒せずに逃げ帰ったなんて知れたら、評判は地に落ちる! なんとしてもボスを倒すんだ!」


 隊長にそう恫喝されては、部下にはもうどうしようもなかった。


 エラソー隊長を最後尾(・・・)にして一行は先に進んでいく。


「た、隊長! リザードマン・ロードです! 三体もいますよ!」


 Bランクレベルのモンスターが現れる。

 先ほどまで戦っていたリザードマンの強化版である。

 当然、リザードマンに苦戦している人たちが倒せる相手ではないのだが。


「お前たち、ひるむな! 攻撃しろ!!」


 隊長は、自らは|動かず(・・・)部下たちに命じる。


 部下たちは、残り少ない魔力で、自分たちが持っている最強レベルの攻撃を放つ。


「“ファイヤーランス”!!」


「“アイストルネード”!」


 しかし、それらの攻撃は、Bランクモンスターの防御を貫くことができなかった。


「グァァッ!!」


 怒りを宿した赤い目つきが光る。

 リザードマンは、パーティの前衛に次々襲い掛かってくる。


「う、うわぁあ!!」


 前衛が何とか防御しようとするが、圧倒的攻撃力によってあっという間に結界(ライフ)を削り取られる。


 死の危険を感じた前衛は後方に逃げる。


「お、お前!」


 隊長がそう怒り叫ぶが、時すでに遅し。

 前衛が逃げ出したことで、後衛たちも大慌てで後退し始める。

 もはやだれもエラソー隊長の命令を聞く者はいなかった。


「グルゥゥ」


 と。リザードマンロードの視線が、隊長に向く。


「うッ……こ、後退!」


 見栄でそう“命令”を出してから逃げ出す隊長。

 しかし部下たちは既に全員逃げ出していたのだった。


 †


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