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しばらく進んでいくと、僕たちはだだっ広い空間へ出た。
面積はトンモロ村の広場と同じくらい。高さは一般的な建物の三階分といったところか。まさか洞窟の奥深くにこんな空間があるなんて、想像もしていなかった。何の目的があってこんな構造になっているのだろう?
ちなみに床や壁、天井などは大理石のようなツヤがある石で出来ていて、
――そしてここから先へ続く道はない。つまりここが洞窟の終着点ということだろう。
「あ……!」
程なく僕はその空間の突き当たりに設置されている、玉座のような形に加工された石に誰かが腰掛けていることに気が付いた。
歩み寄ってみると、そこにいたのはエルフ族らしき男の子。外見は僕よりも年下のような感じだけど、エルフ族みたいに寿命が何百年もある長命な種族なら僕より遥か年上ということも充分あり得る。
彼は茜色の短髪にターバンのような布を巻いていて、横に細長く伸びた耳とクリクリッとした丸い目、口元からのぞく八重歯が印象的。土色のシャツの上に深緑色のチョッキを着て、お尻の辺りがゆったりとした長ズボンを穿いている。
肌は少し焼けている感じだ。ずっと洞窟の中にいるわけじゃないのかな? それとも生まれつきそういう肌の色をした種族なのかな?
そして容易に会話が出来る距離まで僕たちが近付くと、彼はニヤリと意味深な笑みを浮かべる。
「へぇ……。これはまた面白そうなコンビだねぇ?」
「…………」
ミューリエはポーカーフェイスのまま、何の反応も示さない。彼をただ静かに見据えている。
「あの、僕はアレスといいます。彼女はミューリエ。それで僕は――」
「勇者の血をひいてるってんだろ? そして『勇者に必要なもの』を手に入れるためにやってきた。ここに来る目的なんて、それくらいしかないだろうからな~☆」
「っ!? あなたはなぜそのことをっ?」
「オイラの名前はタック。『勇者の証』のひとつを授ける審判者さ。だからある程度の事情は知っているし、勇者の末裔かどうかも気配で分かる。安心しろ、お前は間違いなく勇者の末裔だ」
やっぱり僕は勇者の末裔なんだ……。
村長様や村のみんなからずっとそう聞かされてきたけど、僕は剣も魔法も使えなくて性格も臆病だから、実は何かの間違いなんじゃないかって思ったことも一度や二度じゃないからなぁ。
もし間違いであってくれたなら、魔王討伐の旅も戦いもしなくて済んだのに。ゆえに僕は心の中で深いため息をつく。
そのあと、気を取り直してタックさんに問いかける。
「……えっと、ところで勇者の証というのは何ですか?」
「世界には試練の洞窟が五つある。それぞれに審判者がいて、勇者だと認めた者に証を与える。その五つ全てが集まって初めて、魔王と対等に戦える力を得られるのさ。ふふっ……」
タックさんはニヤニヤしながら、チラリと視線をミューリエに向けた。
どことなく得意気な顔をしているのは、一般人の彼女が知らないであろう知識を披露して優越感に浸っているということなのかもしれない。
一方、ミューリエも今回は明確に反応を示し、「ほぅ……」と興味深げな声を上げる。
…………。
……あっ!
そういえば、ミューリエには僕が勇者の末裔だって明かしてなかったような気がする! そのタイミングが今までなかったというか、意識を向けなきゃいけないことがほかにもたくさんあったからすっかり忘れてた。
簡単にでも、取り急ぎ説明しないとっ!
「あのっ、ミューリエ! 今まで黙っててゴメン! 実は僕は勇者の血をひいていて――」
「――なんとなく、そんな気はしていた」
「えっ……?」
「旅に同行させてほしいと問いかけた時、自分は魔王討伐へ向かう途中だとお前は話していただろう? それと熊の動きを封じたあの不思議な力、普通の人間ではないと察しはつく。それらを併せて考えれば、勇者の末裔だと聞かされてもさほど驚かん。まぁ、急かすようなことでもないし、話してくれる時まで気長に待っていようと思っていたところだ」
なるほど、そうだったのか……。
確かにミューリエは頭脳明晰で冷静な性格だから、僕の正体になんとなくでも辿り着いていたとしても全然不思議じゃない。
でも、そうだとすると今後はもう少し気をつけないといけないな。今回は身バレした相手が仲間だったから問題なかったけど、もし敵や魔族だったら危険な事態になるかもしれないから。
「――では、タックさん。僕が勇者の末裔だとお分かりいただけたということは、証をいただけるんですね?」
「おっと、そうはいかね~な。確かにお前は勇者の末裔だが、まだ『勇者』として認めたわけじゃないぜ~? 現時点では『勇者見習い』とか『勇者候補』といったところだな」
「っ……。あなたに認めてもらうにはどうすればいいんですか?」
「試練を受けてもらう。それをクリアしたら証をやるよっ♪」
「試練……ですか……」
「あははっ! オイラの試練はすっごく単純でめちゃくちゃ簡単っ♪ オイラが召喚する『鎧の騎士』を倒せばいいのさ。剣でも魔法でも、なんでもいい。その手段は問わない。ただし、お前ひとりの力でだけどなっ☆」
「えぇええええぇーっ!?」
僕は思わず大声を上げてしまった。
だって僕がひとりで『鎧の騎士』とかいう、名前からして強そうな相手を倒さないといけないらしいんだもんっ!
そんなの無理だよっ! 自分で言うのもなんだけど、最下級モンスターのスライム一匹にさえ狼狽えてるほどなんだよっ? 試練がすっごく単純なのは同意するけど、めちゃくちゃ簡単ではないよっ!
「おいおい、そんなに驚くことか? だってそっちの彼女が手伝ったら、試練にならないだろ? そう思うよねぇ、彼女?」
「気安く私に話しかけるな! ……殺すぞ?」
ミューリエは敵意に満ちた瞳でタックさんを睨み付けた。
するとタックさんはペロッと舌を出して、おちょくるようにケラケラと笑う。反省しているどころか、むしろわざと挑発して楽しんでいる感じ。
命知らずというか、ミューリエの実力を知らないからなんだろうなぁ。とてもじゃないけど僕には真似できないよ……。
「んじゃ、話はこれくらいにしてさっさと試練を始めるかっ」
タックさんはヒョイッと立ち上がると、何かをブツブツと呟きながら指で空中に印を描こうとした。あれってもしかして『鎧の騎士』を召喚するための魔法か何かかな?
――って、えぇっ!? こんなにいきなりなのっ?
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよっ! まだ心の準備がっ! それにもしやられちゃったら……」
「大丈夫。このフロアにいる限り『鎧の騎士』はお前の命を奪えない。そう契約されてる召喚獣だ。ただし、瀕死の重傷を食らわせられるってことはありえるけどな~☆ あははっ♪」
なんでこの人はそういう大変なことを面白おかしく言うんだろう?
彼にとっては楽しいイベントなのかもしれないけど、僕にとっては勇者の末裔というだけで大怪我させられるかもしれないという、不条理な罰ゲームみたいなものなんだから。僕の身にもなってほしい。泣きたくなってくる……。
そもそも僕は戦いが嫌いだし、剣も魔法も使えないのに『鎧の騎士』を倒せるわけがないじゃないか。
僕は恨みがましくタックさんを睨み付けながら、不満げに低く唸る。
「まっ、試練を受けたくないないならそれでもいいさ。オイラは別に困らないし。もしその気になったら声をかけてくれればいい」
「そう言われても戦って勝つなんて……」
「そんなに自信がないのか? じゃ、試しに腕を見てやるよ。オイラ、こう見えて結構強いんだぜ? だから真剣を使っていいし、手加減もいらねーよっ♪」
「……っ……」
タックさんはああ言っているけど、僕はどうすればいいんだろう?
●腕試しをする……→64へ
https://kakuyomu.jp/works/16816927860513437743/episodes/16816927860516846330
●出直す……→89へ
https://kakuyomu.jp/works/16816927860513437743/episodes/16816927860517760326
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