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どう考えても現時点の僕は力不足だ。万にひとつも勝ち目なんてない。
力、魔法、スピード、知識、経験――戦いに必要な要素は全てが最低レベル。運だけは分からないけど、それを好意的に捉えたところで勝ちが転がり込んでくるほど世の中は甘くない。
「タックさん、腕試しは必要ありません。勝てるわけがありませんから。出直してきます」
「……ふーん、そうか。じゃ、自信が付いたらまた来ればいい。何百年でも待っててやるよ」
「てはは、僕たち人間はそんなに寿命が長くないですよ」
僕が苦笑いすると、タックさんはケタケタと笑う。やっぱり彼は分かってて冗談を言ったみたい。でもその表情の中に、心なしか寂しそうな雰囲気も混じっていたような気もする。
「じゃ、ミューリエ。引き返そうか」
「……アレスよ。それは構わないが、お前と旅をするのは洞窟を出るまでとさせてくれ。少し思うところがあってな」
「っ!?」
――青天の霹靂だった。耳を疑った。でもミューリエの決意に満ちたような表情を見る限り、冗談を言っているわけではないみたいだ。
僕の心臓がざわついて、息苦しくなる。唇が震えてくる。
「えぇっ!? ど、どうして急にっ?」
「ひとりになりたくなったのだ。そして世界の行く末を傍観することに決めた。安心しろ、お前の邪魔はしない」
「い、言っている意味が……分からないよ……」
「とにかく私の都合だ。ここを出たらもう二度と会うことはないだろう」
「そんな……」
僕はどうしてミューリエがそんな気持ちになったのか、そんなことを言い出したのか分からないまま洞窟を出た。
そして再び森の中にひとり取り残される事態となったのだった。
これからどうなってしまうのだろう? 待ち受けているのは生か死か? それは僕にも分からない……。
BAD END 4-4
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