シアの城下町を出発して数日が経ち、僕とミューリエは『試練の洞窟』に辿り着いた。


 そこは街道から外れ、人里からも遠く離れた森の奥深くにある小高い岩山の麓。場所の手がかりは村長様から聞いていた話だけだったし、しかもうろ覚えな記憶を頼りに進むしかなかったから結構不安だったんだけど、無事に着けてなによりだ。


 手前味噌かもだけど、僕の記憶力も大したものだと思う。


 なお、入口の外見は自然に出来た洞穴のような感じで、高さも幅も僕の身長の倍くらい。奥からは涼しくて少し湿ったような空気が漂ってきていて、コケと土が混じったような臭いがかすかにする。


 また、壁や地面はゴツゴツとして不規則で、人の手が加わったような様子はなかった。


 ……でもここは誰かによって作られた洞窟で、奥には何か大きな力が秘められているというのが本能的に分かる。


 直感というよりも中から発せられている不思議な力を全身に受けて、ここが『試練の洞窟』で間違いないと確信させられてしまうんだ。こんな感覚になるというのは、やっぱり僕の体に流れる勇者の血の影響なのかな?


 ――あぁ、洞窟を前にして自然と胸の鼓動が速くなる。体が熱い。緊張感も増す。


 どうしたって怖くて尻込みしてしまうけど、辿り着いたなら進まなければならないという気がする。だから意を決して前へ!


「行こう、ミューリエ!」


「承知した。私はいつでも良いぞ」


「じゃ、たいまつを用意するね」


「いや、その必要はない。私が照明ライティングの魔法を使ってやろう」


 ミューリエは胸の前で手のひらを掲げ、呪文スペルのようなものを呟いた。それがきっと照明ライティングの魔法を操るために必要な動作と言葉なのだろう。


 僕は魔法が使えないし魔術全般の知識もからっきしだから、内容は理解できないけど……。


照明ライティング!」


 直後、彼女の手のひらの上にはリンゴくらいの大きさの光球が生まれた。


 それは天井近くにまで浮かんでいき、綿毛のようにフワフワと漂って周囲を眩く照らす。しかも光球はまるで見えない糸で繋がっているかのように、彼女の動きに合わせてゆっくりと移動している。


「わぁっ! やっぱり照明ライティングの魔法って便利だね。これならたいまつと違って風や水で消えることがないし、両手も使える。明るさも桁違いだよ」


「その代わり、魔法を行使している間は少しずつだが魔法力を消費し続けるがな。もっとも、私の魔法容量からすれば微々たるものだから問題はないが」


「あ、でも洞窟内に有毒なガスが溜まってた場合、気付きにくいっていうデメリットはあるね。たいまつなら炎に変化が出やすいからすぐ分かるし」


 洞窟は閉鎖された狭い空間だから、淀んでいたり可燃性のガスや毒ガスが溜まっていたりすることがあるって本で読んだことがある。


 特に無色で無臭なガスだと気付くのが遅れて命を落とすということもあるらしい。


 でもそういうガスが溜まっていたとしても、たいまつなら炎が小さくなったり風もないのに揺らいだりすることがあるから察知しやすいんだとか。もちろん、可燃性のガスが濃い場合なんかは瞬時に爆発に巻き込まれちゃうだろうから、あまり意味ないかもだけどね。


「――ふむ、アレスはなかなか博識だな」


「本で読んだだけだよ。そうそう、鉱山ではカゴに入れた小鳥を連れていって、ガスの有無を調べることもあるらしいよ。鳥は人間よりガスに敏感だからなんだって。可哀想だから僕にはそんなこと、出来ないけどね」


 それを聞いたミューリエは頬を緩め、温かな瞳を僕に向けてくる。


「ふふっ♪ 相変わらず優しいな、アレスは。では、洞窟の奥へ進むぞ」


「うんっ!」


 こうして僕たちは洞窟の奥へとゆっくり歩いていった。



 ――ここでアイテムをチェック。『勇気の欠片・1』は?



●持っている……→57へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927860513437743/episodes/16816927860516252512


●持っていない、または持っているかどうか忘れた……→38へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927860513437743/episodes/16816927860515387338


 

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