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中へ入って少し進むと、洞窟の雰囲気が明らかに変化した。
地面は均され、左右の壁は直方体の小さな石が積み上げられて整然と並んでいる。天井は大きな石板がフタのように被せられて、それが奥に向かって何枚も連なっている感じだ。
やっぱりここは天然の洞窟じゃない。少なくとも内部は誰かによって手が加えられている。
響き渡る僕たちの足音と天板のつなぎ目から滴る水滴の落ちる音――。
すでに外からの音は聞こえてこない。まるで地の底まで潜り込んでいくような感覚。この通路はどこまで続いているのだろう。
「あ……」
やがて目の前には道が左右に枝分かれしている場所が見えてくる。
どちらに進むべきか――というのはもちろん重要だけど、こういう場合はそれ以上に自分のいる現在地を把握するのが重要だ。だってもし目的を達成したとしても、外に戻れなくなってしまったら元も子もないから。
僕はトンモロ村からシアの城下町まで歩いていた山道でも、迷わないように一定の間隔で木に剣で傷を付けて目印にしていた。それに加えて太陽の角度とか星の位置とかも参考にしながら進んだ。
でもここは洞窟内だから太陽や星を参考にすることは出来ない。
だからこそ、屋外よりもこういった場所では目印や曲がった方向などの記録がより重要になると思うんだ。
――早速、僕は道具の入っている袋から羊皮紙とペンを取り出し、便宜的に進行方向を北としてここまでの行程を記録する。
するとそれを見たミューリエは驚嘆の声を上げ、満足げな顔で小さく頷く。
「おぉっ、
「てはは、そう言ってもらえると嬉しいな。旅で僕に出来るのはこれくらいしかないからね。剣も魔法も使えない分、せめてこういうところで役に立たなきゃ、ねっ?」
「ふふふ、謙遜するな。熊と遭遇した時はきちんと役に立ったではないか。――だが、それはそれとして率先して何かをやろうとする気持ちは大切だし、尊重せねばな。ゆえに今後の
「うんっ、もちろんだよ!」
「では、アレスに良いものをやろう」
そう言うとミューリエは自分の道具袋を取り出し、中を探って何かを取り出した。
その手に握られていたのは、アンティークっぽい味わいのあるコンパス。ただ、文字盤の中央に豆粒大の赤い宝石が付いていることから、普通のコンパスとは何かが違うんだと思う――たぶん。
少なくとも、宝石が付いている分は価格が高そうだ。
「このコンパスは何?」
「『報せのコンパス』だ。方位を示す通常のコンパスとしても使えるが、探し物やダンジョン内の簡易的なトラップを見つけることも出来る。ただし、探索可能な範囲は限定的だし、探索対象に魔法がかけられているなど一部の条件下では効果を発揮しない場合もあるがな」
「そうなんだ。これ、僕がもらっていいの?」
「うむっ!」
「分かった。大事に使わせてもらうね」
僕はミューリエから報せのコンパスを受け取ると、それを使って方角を確認し、マップにそれを書き足した。その後、洞窟の探索を再開させたのだった。
◆
※アイテム『報せのコンパス』を手に入れました。メモをしておくと今後、役に立つかもしれません。
→45へ
https://kakuyomu.jp/works/16816927860513437743/episodes/16816927860515698138
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