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「……む?」


 前を歩いていたミューリエは急に立ち止まり、すかさず自分の腰に差している剣に手をかけて身構えた。表情は険しくなって、しきりに辺りを警戒している。


 視線の運ばせ方や構えは洗練されていて、動きにはムダがない。気配も静かな中に熱い炎の猛りがあって、少しでも異変を察知すれば即座にその状況に応じて適切な対処に移れそうな感じがする。


 こういうのを隙がないって言うんだろうな……。


 その様子を見る限り、おそらく不穏な何かを感じ取ったんだろう。そういえば、右上の奥の方からドス黒い悪意というか敵意というか、嫌な気配が漂ってくるような……。




 …………。


 ……え?


 目が……合った……?


「――うわぁあああああぁっ! ミ、ミューリエっ、みみみ、右の天井ッ! 変なモンスターがいるよぉっ!!」


 僕は思わず腰を抜かして、後ろへ尻餅をついてしまった。そのまま後ずさりをしながら、小刻みに震える指でその場所を指し示す。


 いや、震えているのは指だけじゃない。唇も上半身も足も、そして精神も大きく揺れている。胸の鼓動は瞬時に最高潮にまで加速して、全ての毛穴から冷や汗が噴水のように湧き出しているような感じがする。


 確実に僕の寿命は縮まった。驚きでショック死しなかっただけマシかもだけど。


 するとミューリエは即座に僕の指差す方向へ視線を向け、今にも剣を抜かんとする。


 でもそのモンスターを確認した途端、なぜか全身から力を抜いて小さく息をつく。


 ――っていうか、程なく僕に向けられた横目からはどことなく呆れているような雰囲気が。気のせいかな?


「アレスよ、私よりも先にモンスターを見つけるとは大したものだ。だが、いくらなんでも驚きすぎだ。あれは最下級モンスターの『スライム』だぞ? 普通の人間だって、倒すのは難しくない弱い相手だ」


「だ、だってっ、僕はモンスターと戦ったことなんて――いや、遭遇したことさえ今までに一度もなかったんだもんっ! ……あ……ま、まぁ……森ではドラゴンと会ったけど、あんな粘液に目と口があって、うねるように動くような気持ちの悪いやつは初めてなんだよぉ!」


 スライムの外見は蜂蜜みたいにねばねばした粘液に目と口が付いていて、それが天井から垂れ下がってきている。色は若草色。大きさは手のひら三つ分くらいだろうか。


 うぅ……気持ち悪い……。モンスターってこんなグロテスクなやつもいるのか……。僕には刺激が強すぎる……。




 ――あっ!


 そうだ、思い出した……。


 さっきはモンスターに一度も遭遇したことないって言ったけど、幼いころに一度だけ、誤って迷い込んだ森の中で何かのモンスターに遭遇したことがある。恐ろしいという記憶ばかりが強くて、どんなヤツだったかは忘れてしまったけど。


 でもそいつには意思疎通の力が全く通じなかったというのだけは、間違いないと思う。どんなに『来ないでっ!』って念じても離れていってくれなくて、ただただ怖かった気がするから。


 あの時、もし村長様が助けに来てくれなかったら、僕は命を落としていたかもしれない。



 ――さて、ここでダイス判定。六面ダイスを三回振ろう。数値の合計は?



●11以上……→7へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927860513437743/episodes/16816927860514049622


●10以下……→77へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927860513437743/episodes/16816927860517235675


 

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