少し影のある女子大生と、子持ちの会社員と彼の可愛らしい娘さんの三人が織りなす日常を描いている作品です。
まずこちらの作品、素晴らしいのは全て読者から募集した三つのお題からできている点です。別々の読者から出された全く関連のない単語で毎回しっかりエピソードを練り上げてくる所に作者様の手腕を感じます。
本作は連作短編という形で、ほのぼのとした日常が綴られています。隣に住んでいるのは可愛らしい天使のような女の子とその父親の会社員。無精髭があってたまに行き倒れたりもする少しお茶目な彼ですが、女子大生――朔の心が疲弊している時には必ず現れて、必要な言葉で彼女を救ってくれる頼もしい存在でもあります。
彼ら三人の背景については多くは語られません。ですが朔は少し危うい所があり、ともすると簡単に生を手放してしまいそうな時があります。優しい父親であり隣人である蛍太もまた心に傷を負っていて、明るいだけの人ではありません。
それでも、どちらかが闇に囚われそうになると、もう片方が手を取って引っ張り上げてくれる。お互いの存在がお互いの救いになっているこの関係が見ていてとても温かいです。
そして二人の仲を明るく照らしてくれるのが、天使のように愛らしい娘のエリ。
本作は起承転結のストーリーになっているわけではなく、1話1話が独立した構成になっています。ですが関係の進展や心の動きなど、語られない部分に想像を巡らせるのもまた一興。ちょっとだけ癒しが欲しいときに、好きなエピソードをつまんで読むという楽しみ方もできます。
彼らはまだ恋人でもなく夫婦でもなく、ただの隣人という関係にすぎません。それでもお互いにかげがえのない存在であることは確かです。
自分にとって必要な人は、案外身近にいるのかもしれない。そう思わせてくれる温かい掌編集です。