ジェイスとまじない師エリの出会い その1
※ジェイスはWEB版と書籍版で設定を変えておりますが、おまけ短編では、書籍版の設定を採用しております。
書籍版では、なんとジェイスにマリエンヌという妹ができております!(笑)
気になる方はぜひぜひ書籍版も手に取ってくださいませ~!
◆ ◇ ◆
二年前、まじない師のエリに初めて声をかけたのは、職務への義務感からだった。
俺、ジェイス・エランドは町人街の警備隊長を務めている。
町人街の警備隊の場合、隊長格の何人かだけが貴族で、後は平民から募集した警備兵で組織されている。
騎士達の中には平民と組まないといけないなんて、と町人街の警備隊に配属されるのを嫌う奴等もいるが、俺にとっては、堅苦しいやりとりに気を遣わなきゃいけない王城勤めより、よっぽど気楽でいい。
それに、町人街は雑多な人間が集まる。その分、騒ぎや犯罪も多いが、それに対応するのもやりがいがあっていい。
最初、町人街に毎週末まじない師が現れるようになったという話を聞いた時、正直、邪教徒かもしれないと疑った。
邪教徒というのは、邪神ディアブルガを信仰する一味のことで、世の中を乱そうというろくでもない奴等のことだ。
顔を隠した若い女のまじない師なんて、どう考えても怪しいに決まっている。
ひょっとしたら、邪教徒どもが信者を増やすために、若い女を使って勧誘しているのかもしれない。
そう、疑っていたのだが。
「なあ、あんた。俺は町人街で警備隊長を務めてるジェイス・エランドっていうんだ。最近、この店でまじない師を始めたんだろう? この店は客層がいいが、他の店までそうとは限らない。もし帰り道で、困ったことがあったら、大声を出して周りに助けを求めるといい。すぐに警備隊が駆けつけるからな」
客が途切れた頃合を見計らって、俺は店の端にあるまじない師のテーブルに腰かけた。
一般人には頼もしそうに思える、一方で邪教徒には「警備隊が目を光らせてるから変なことを企んでも無駄だ」ととれる言葉を告げる。
と、フード付きのマントに包まれた細い肩が驚いたように震えた。
警備隊員が押しかけて来て、警戒したのかと思いきや。
「警備隊の方なんですね! あのっ、いつもありがとうございます!」
返ってきたのは、鈴を振るような愛らしい声。
てっきり、妖艶な美女の声が返ってくると思っていた俺は、予想以上に若い声に面食らう。
「警備隊の皆さんがしっかり治安を守ってくださっているから、夜道を帰るのも安心なんです! 本当に感謝しています!」
俺の戸惑いには気づかぬ様子で、まじない師の少女がはずんだ声で言い、綺麗な所作で丁寧に頭を下げる。
フードだけでなく顔の前にヴェールまで垂らしているが、おそらくかなり若いに違いない。
所作も洗練されていて、貴族の令嬢がお忍びで町人街に遊びに来たと言われたら信じてしまいそうだ。
まぁ、貴族の令嬢がまじない師に身をやつすなんてありえないだろうが。
「あ、ああ。町人街の治安を守るのは俺達の役目だからな。常に目を光らせてるから安心しな」
「はいっ!」
予想外のことに戸惑いながら告げた俺の言葉に、少女がはずんだ声で頷く。
今回は完全に俺の見込み違いだ。この少女が邪教徒だなんて、ありえるはずがない。
「そういや、名前は?」
「エリと言います。」
尋ねた俺に、少女が屈託なく答える。
聞いたのは俺からとはいえ、警戒心がまったく感じられない様子に、思わず心配になってしまう。
大丈夫だろうか。警備隊の制服を着ていたら、ほんほいと
「いいか、エリ」
顔は見えないが、声の様子から察するに、エリは妹のマリエンヌと同じ年くらいだろう。
守ってやらねばという気持ちが自然に湧き出て、俺はあえてしかつめらしい顔を作ると声を低める。
「俺は毎週末には見回りで町人街を巡回してる。もし何か困りごとがあったら、たいしたことじゃなくてもいい。すぐに俺に相談しろよ。ここの店主のヒルデンさんにも、ちゃんと目を配ってもらえるように、俺からも言っておくから」
「あ、ヒルデンさんは、もうマルゲに……」
何やら言いかけたエリが、途中で我に返ったように言葉を濁す。と、こくりと素直に頷いた。
「はい。わかりました。お気遣いいただいてありがとうございます。もし何かあった時には相談させていただきますね」
と、生真面目に告げたエリが、不意に声をはずませる。
「エランド隊長って、とってもお優しいんですね」
心から感謝しているのだとわかる澄んだ声。
町人街にいる手近な貴族だからと、玉の輿を狙って積極的に話しかけてくる女性達とも、もじもじしながら俺から話しかけられるのを待っているマリエンヌの友人の令嬢達とも違う、純粋な賞賛の響き。
「いや、別に……」
ふだん接している相手とは異なる声音に、柄にもなく戸惑ってしまう。と、
「あっ、そうだ! ちょっと待っていてくださいね」
急に立ち上がったエリが、いそいそと注文受付と清算用の小さなテーブルへと近づき、そこにいる若い男の店員と何やら話す。
何だろうと俺もついていくと、店員のそばにもうひとつテーブルが置かれており、その上には何やら
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