受賞お祝い記念お遊び短編

第21回角川ビーンズ小説大賞WEBテーマ部門〈読者賞〉受賞お祝い記念用お遊び短編(メタ要素および宣伝マシマシ)


「お嬢様! エリシアお嬢様っ! 大変でございますっ!」


 泡を食って離れの私室へ駆け込んできたマルゲに驚き、私――サランレッド公爵家令嬢であるエリシア・サランレッドは、椅子に座ってによによと眺めていた最推しであるレイシェルト様の額縁入りスケッチを、危うく取り落としそうになった。


「危のうございますっ!」


 さっ、と駆け寄ったマルゲが、すんでのところで額縁を受け止めてくれる。


 よ、よかったぁ……っ! 私にとって、レイシェルト様を描いたスケッチは、一生モノの宝物だもの! 昨日届いたばかりだというのに、もし額縁が割れてスケッチが傷ついたりしたら、どれほど嘆いても嘆ききれない。


「いったい、何があったの?」


 いつも冷静沈着なマルゲが、これほどあわてふためいているなんて、本当に珍しい。


 尋ねた私に、マルゲは「まずは、レイシェルト殿下のスケッチを安全な場所に置いてくださいませ」と告げる。


「もし、スケッチに何かありましたら、大変でございますから」


「え、ええ……」


 いったい何があったんだろう? マルゲがこんなにも真剣な顔をしているなんて……。


 不思議に思いつつも、椅子から立ち上がり額縁をベッドの枕元に丁寧に置く。


 ああっ! 最推しであるレイシェルト様のスケッチが枕元にあるなんて、なんて素敵……っ! 最近、毎夜夢見がいいのは、きっとレイシェルト様のおかげよねっ!


 さすがレイシェルト様っ! あなたが私のおし様ですっ! レイシェルト様のことを想うだけで、ぎゅんぎゅん元気が湧いてきますっ!


「あの、お嬢様……?」


「あっ! ごめんなさい、マルゲ。ついレイシェルト様のことを考えてしまって……。それで、どうしたの?」


 はっと我に返った私は、マルゲを振り返り、居ずまいを正す。


 と、大きく一歩踏み出したマルゲが、ぎゅっと私の手を両手で握りしめた。


「おめでとうございますっ、お嬢様! なんと……っ! お嬢様が主人公を務められている「転生聖女は推し活初心者!」が、第21回角川ビーンズ小説大賞で、〈WEBテーマ部門〉WEB読者賞を受賞いたしました……っ!」


「…………え?」


 メタ過ぎるマルゲの報告に、思考が止まる。


 脳が内容を理解できないまま、マルゲに告げられた言葉だけがしばらくぐるぐると頭の中を駆け巡り。


「え? えぇっ!? えぇぇぇぇぇ~っ!」


 ようやく理解した瞬間、すっとんきょうな悲鳴がほとばしる。


「ママママママルゲ! それホントなのっ!? 何かの見間違いとか実は夢だとか、そんなコトはないっ!?」


「大丈夫ですっ! 夢ではございませんっ! ちゃんと角川ビーンズ小説大賞の公式ホームページだけでなく、なんとカクヨムからのお知らせにも掲載されております!」

 

 https://kakuyomu.jp/info/entry/beans21

 うわぁお! リンクまで貼るなんてさすがマルゲね! そしてさすがメタ小説!

 って、感心するところはそこじゃなくてっ!


「ほんとに……。ほんとに、「転生聖女は推し活初心者!」が、受賞したの……?」


「そうでございますっ! 今回より創設されたWEBテーマ部門の読者賞の受賞作でございますよっ! ご投票いただきました皆様、誠にありがとうございますっ! 作者の綾束ともども御礼申しあげますっ!」


「ありがとうございますっ!」


 ここではないどこかへ向かって深々と頭を下げたマルゲの勢いに呑まれて、私も反射的に復唱する。


 あ……。今、レイシェルト様とティアルト様も、「深く感謝します」「みなさん! ありがとうございます――っ!」って麗しい笑顔と満面の笑みでおっしゃった気がする……っ!


 すごいっ! 今日の私、推し様レーダーがいつも以上にぎゅんぎゅんと受信してるわっ!


「お嬢様っ! 読者賞受賞、誠におめでとうございます……っ!」


 いつも冷静沈着なマルゲには珍しい潤んだ声に、私の頭もゆっくりと動き出す。


 じわじわと喜びが心と身体を満たしていき――。


「きゃ――――っ! すごいわっ! すごすぎるわっ、マルゲ! 本当に受賞できたのねっ! 夢じゃないわよねっ!?」


「もちろんでございます、お嬢様! 決して夢ではございませんっ!」


 マルゲの力強い断言に、ますます喜びが湧き上がる。


「本当に、「転生聖女は推し活初心者!」が受賞できたなんて……っ! って、ちょっと待ってマルゲ!受賞したということはアレよねっ!? 書籍として出版されるかもしれないってコトよねっ!」


 本当に受賞したのだとしたら……っ!


 想像力の翼が、上昇気流を掴んだかのように、どこまでも高く羽ばたいていく。


 脳裏に燦然さんぜんと輝くのはまばゆいほどに凛々しいレイシェルト様のお姿。

 陽光を融かしたような金の髪。日々の剣の鍛錬で鍛えられた引き締まったお身体。晴天を映した碧い瞳は一対の至高の宝玉のよう。


 見惚れずにはいられない端正な面輪に、甘やかな微笑みを浮かべた最推し様のお姿が、プロの絵師様の手によって、フルカラーで描かれるかもしれないなんて……っ!


「だめっ、マルゲ……っ! 私もう、想像だけで昇天しちゃいそう……っ!」


「わかりますっ! お嬢様……っ! わたくしが心をこめてお仕えしているお嬢様がカラーイラストになるかもしれないなんて……っ! 感動のあまり、涙が滝となって流れ落ちそうです……っ! お嬢様とレイシェルト殿下が、『身代わり侍女は冷酷皇帝の『癒し係』を拝命中』トリンティア様とウォルフレッド陛下のように描かれるかもしれないなんて……っ!」


「いきなりさらなる宣伝を突っ込んできたわねっ、マルゲ! でもわかるわ! 甘く微笑みながらトリンティア様を抱き寄せ、手の甲にくちづけしようとしているウォルフレッド陛下も、恥ずかしそうに頬を染めてらっしゃるトリンティア様のお姿も、本当に、ほんっとうに素敵なカラー表紙でしたものっ! レイシェルト様推しの私でさえ、ウォルフレッド陛下の凛々しさと得も言われぬ色気に、思わずくらっとしかけちゃったものっ!」


~いきなり宣伝!~

 魔法のiらんど大賞2021恋愛ファンタジー部門特別賞を受賞した「銀狼は花の乙女に癒され、まどろむ ~身代わり侍女は冷酷皇帝の抱き枕~」は、『身代わり侍女は冷酷皇帝の『癒し係』を拝命中 『花の乙女』と言われても無自覚溺愛は困ります!』と改題・改稿のうえ、9月1日より角川ビーンズ文庫様より好評発売中です!


 電子版、アニメイト様予約購入でそれぞれ特典SSもありますので、よろしければお手に取ってくださいませ~! カラー表紙など詳細につきましてはこちらの近況ノートにも記載しております!


 https://kakuyomu.jp/users/kinoto-ayatsuka/news/16817139558206397081


 ……ん? 何? いま何か私以外の天の声が聞こえたような……?


 まあいいわ、それよりも!


「読者投票で、「転生聖女は推し活初心者!」に投票してくださった皆様には、どんなにお礼を申しあげても足りないわね……っ! ねぇマルゲ、いったいどんなお礼をしたらいいのかしら……?」


「そうですね……」

 マルゲが真剣な表情で考え込む。


「兄さんのお店の食べ放題券でもお贈りします……?」


「それは私も欲しいわ! じゃなくて……っ! 勝手に決めたらヒルデンさんに迷惑でしょう?」


「いえっ! お嬢様のためでしたら、兄もむしろ喜んで提供するに決まっております! わたくしが否とは言わせませんっ!」


 自信満々で告げたマルゲが、「あ、そういえば……」とメイド服のエプロンのポケットから一通の封筒を取り出す。


「申し訳ございません。受賞のお知らせを伝えに来た使いから、こちらのお手紙もお預かりしていたというのに。あまりの興奮のあまり、お嬢様にお渡しするを忘れておりました……」


 マルゲがうっかり忘れるなんて、本当に珍しい。でも、それだけ喜んでくれたのかと思うと、私までさらに嬉しくなる。


「いったい誰からかしら……?」


「それが、わたくしには読めぬ異国の字でして……」


「異国?」


 封筒をひっくり返してみれば、そこには懐かしい日本語で「綾束 乙」と差出人が書かれていた。


 作者からの手紙だなんて、メタ短編ならではねっ!

 封筒を開けると、出てきたのは一枚の便箋だ。


「えーと……。『せっかくのメタ短編なので、これを読み上げてください』……? とにかく、これを読んだらいいのね?」


 どれどれ……。


「『このたびは、「転生聖女は推し活初心者!」を応援いただきまして、誠にありがとうございました~! 心から御礼申しあげます! WEB読者賞という素晴らしい賞を賜れましたのは皆様のおかげにほかなりません! これからどうなるのか、現時点ではまだ不明なことばかりですが、『身代わり侍女は冷酷皇帝の『癒し係』を拝命中』に続き、皆様のお手元にお届けできるよう、精いっぱい頑張りますので、今後とも、どうぞよろしくお願いいたします~っ!』」


「どうかお嬢様をよろしくお願いいたします……っ!」


 深々と頭を下げた私につられたのか、マルゲもここではないどこかへと深く頭を下げる。


「よしっ! じゃあマルゲ! 今日はお祝いよ! ヒルデンさんのお店に連絡してごちそうをお取り寄せしましょう! 今日くらいは贅沢してもいいわよねっ!?」


 そしてテーブルの上にレイシェルト様の肖像画とお花も飾って一緒にお祝いをするの……っ!

 レイシェルト様は受賞をお知りになったらなんておっしゃるかしら……っ!


 ああっ! 想像するだけで心が弾んできちゃう……っ!


「お嬢様! それは素敵な案でございますね! すぐに兄に連絡を取りますわ!」


 マルゲが華やいだ声を上げる。


 そうして私はマルゲとふたり、どんなごちそうを注文しようかと話に花を咲かせたのだった……。


                               おわり


~作者より~

 受賞の喜びの勢いで書いたお遊び短編におつきあいいただきまして、誠にありがとうございました~!ヾ(*´∀`*)ノ


 本当にもう、皆様の応援のおかげで受賞できたと言って過言ではありませんっ! 誠にありがとうございます~!(深々)


 皆様に情報をお伝えできるのはまだまだ先になるかと思いますが(なんせ、私自身まだまったく何も知りません!・笑)、皆様のお手元に届けられる形になるよう、今後とも頑張りますのでどうぞよろしくお願いいたします~!(ぺこり)



~2023年10月15日追記~

 ついに、12月1日にビーンズ文庫様より、『転生聖女は推し活がしたい! 虐げられ令嬢ですが推しの王子様から溺愛されています!?』と改題の上、発売予定となりました~!(特典情報などは発売日近くになってからの発表となります)


 WEB版からかなり手を入れ、7割くらい加筆修正しております……っ!

 書籍版でさらに面白くなっていると自負しておりますので、よろしければ書籍版もお手にとっていただけましたら嬉しいです~!(*´人`*)


 今後、発売日近くになりましたら書籍化記念のおまけ短編などもアップできたらと思いますので、おつきあいいただけましたら嬉しいです~!(ぺこり)


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