33 王妃様との推し語り
王城の庭園の
だが、私と王妃様の推し語りも、薔薇に負けないほど大いに花咲いていた。
「レイシェルト様はね、ティアルトが生まれた時から、それはもう可愛がってくださって……。まだ赤ちゃんだったティアルトがぐずった時には、抱っこをして子守唄を歌ってくださったりしたのよ」
「レイシェルト殿下の子守歌……っ! それは天上の調べでございますねっ! 天使と大天使がいらっしゃる……っ! ああっ! 叶うことなら、私も拝聴しとうございました……っ!」
見える……っ! 聖母子像よりさらに崇高なレイシェルト様とティアルト様のお姿がまなうらに思い浮かびます……っ!
人払いをした四阿で、私と王妃様はお茶もお菓子もそっちのけでレイシェルト様の尊さについて、ひたすら語り合っていた。
ああっ! レイシェルト様の素晴らしさを心おきなく語り合えるなんて、なんという至福の時間……っ! みっちゃん! 転生して十七年、ようやく心の友を見つけられたよ……っ!
さすが王妃様。王妃様がお話しくださるレイシェルト様は、舞踏会などで拝見することができるレイシェルト様とはひと味違う魅力にあふれていて……。
拝聴しているだけで鼻血が噴き出しちゃいそうですっ! ごちそうさまですっ! ありがとうございますっ!
私も、レイシェルト様がレイに
「周りに心配をかけたくないんだ。わたしとエリだけの秘密にしてくれるかい?」
とレイシェルト様ご本人に口止めされているので、口が裂けても言えない。
「あなたとのお話は本当に心が弾むわね。お茶会に招待してよかったわ」
優雅な仕草でティーカップを傾けた王妃様が満足げな笑みをこぼす。
ティアルト様のお茶会の翌日に、内々で二人きりで開催するお茶会のお誘いをいただいた時はびっくりしたけれど……。
語りたいのは私もまったく同じ気持ちだったので、恐縮するより先に、喜びのダンスを踊ってしまった。
ティーカップを置いた王妃様が、ふぅ、と吐息する。
「レイシェルト様に憧れる令嬢達は数多いけれど、彼女達はどうにも欲望が透けて見えるというか、「王太子」の肩書を背負ったレイシェルト様しか見ていないというか……。その点、あなたは」
私に視線を向けた王妃様が、にこやかに微笑む。
「王太子としてのレイシェルト様ではなく、ご本人そのものをしっかり見ていて、好感が持てるわ」
「王妃様にそのように言っていただけるなんて……っ! 光栄極まりないことでございます……っ!」
感動に身を震わせながら、深々と頭を下げる。
「王太子の重責を果たそうと、常に努力なさっているレイシェルト様は、もちろん尊くていらっしゃいますが、レイシェルト様はレイシェルト様であるというだけで、崇拝すべき至尊の存在でいらっしゃいますもの……っ! 王太子のご身分はレイシェルト様の装飾のひとつ。真に素晴らしいのはレイシェルト様ご自身でございますから!」
「そう! その通りよね! エリシア嬢。あなたを誘ったわたくしの目に狂いはなかったわ!」
「王妃様……っ!」
隣に座す王妃様とがっぷりと手を握り合う。
今の私と王妃様なら、きっとシンクロ率百パーセントに違いないっ! と。
「お二人とも、楽しそうですね。わたしが来てはお邪魔だったでしょうか?」
薔薇の生け垣の向こうから姿を現したのは、レイシェルト様ご本人だった。
どうやら剣の鍛錬をなさってらっしゃったらしい。ふだんのきらびやかな衣装と異なり、動きやすそうな服装に、鍛錬用の
こんな貴重なお姿を見せてくださるなんて、ありがとうございますっ!
心の中で感激にうち震えながら、さっと立ち上がり、ドレスのスカートをつまんで恭しく一礼する。
「エリシア嬢。そんなにかしこまらないでくれ」
レイシェルト様の美声がすぐそばで聞こえたかと思うと、そっと手を握られる。
驚いて身を起こすと、レイシェルト様が微笑みを浮かべて私を見下ろしていた。
「薔薇の花束が枯れてしまう前に逢えたね。嬉しいよ」
「あのっ、ありがとうございました……っ! 大切に飾らせていただいております! あまりに綺麗なので、押し花にもさせていただこうと……っ」
推し様にいただいた花束なんて、家宝確定ですっ!
可能なら、永遠に花束のまま、保存したかったけれどそれは無理なので、せめて押し花にして半永久的に……っ!
「そんなに気に入ってもらえたなんて嬉しいよ」
レイシェルト様が甘やかな微笑みをこぼす。
はぅあ~っ! まばゆさで目がくらみそうです……っ!
「
それはもうっ! 共にレイシェルト様を推す心の友ですから……っ!
本人にお伝えするわけにはいかず、控えめな笑みを浮かべる。
「私はただ、王妃様の寛大なお心に甘えさせていただいているだけでございます。王妃様のお話は本当に素晴らしくて……。いくらうかがっても、さらに知りたくてたまらなくなるのです」
推し様のプライベートなんて極レア情報、土下座してでもいただきたいですからっ!
それを惜しみなくくださるなんて……っ! 本当に感謝しかありませんっ!
「謙虚だね」
言い募る私に、レイシェルト様が柔らかな笑みを浮かべて椅子に座るように促す。そのまま、レイシェルト様も私の隣の椅子に腰かけた。
「きみはもっと自分を誇ってもよいと思うよ。きみは不思議な魅力の持ち主だ。きみと話していると、それだけで心地よく楽しい気持ちになる」
「そ、そんな……っ! とんでもないことでございます」
私は恐縮しきりでふるふると首を横に振る。
「そうなのよ! エリシア嬢とお話しするのはとても楽しくて、いくら話しても話題が尽きないの!」
笑顔で頷いた王妃様が、レイシェルト様に視線を向ける。
「レイシェルト様は剣の鍛錬をなさってらしたの?」
「ええ、そうです」
ゆったりと頷いたレイシェルト様が表情を引き締める。
「神前試合が近づいてきましたから、今まで以上に励まなくてはと。今年こそ、なんとしても優勝したいですから」
「神前試合の優勝者には、指名した乙女から祝福のくちづけが贈られるものね! なんてロマンティックなのかしら! わたくし、心から応援いたしましてよ!」
王妃様が胸の前で手を合わせ、はずんだ声を上げる。
私も! 優勝を目指されるレイシェルト様をぜひとも応援させていただきたいです!
けど……。
もやり、と心の奥底に昏く淀んだ感情が湧き出る。
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