第42話 堅石さんと親友の競争?



 土曜日に僕とデート、日曜日に東宮さんとデートをした堅石さん。


 どちらもとても楽しかったようで、日曜日の夜は東宮さんが帰った後もまだ結構テンションが高かった。


 どこに何をしに行ったかなど、いろいろと僕に話してくれた。


 友達と遊びに行った子供が楽しそうにその内容を話す感じで、僕もなんだか微笑ましい気持ちで聞いていた。


 ……ランジェリーショップの話はそこまで詳しく聞かなくてよかったんだけど。


 だけどその店員さんに、僕と堅石さんの関係は絶対に誤解されたと思う。

 まあ僕がその店に行くことはないと思うから、特に問題はない、かな?


 月曜日になり、堅石さんと一緒に登校をする。


 まだやはりいろんな人に見られるが、僕も少しずつ慣れてきた。

 学校に着いて教室に入ると、すぐに東宮さんが話しかけてくる。


「あっ、お、おはよう、堅石さん、空野さん」

「おはようございます、東宮さん」

「おはよう、東宮さん」

「えへへ……」


 堅石さんと挨拶をするだけで嬉しそうにする東宮さん。

 東宮さんも小柄で庇護欲が湧くような可愛い容姿をしているなぁ。


 そんなことを思いながら僕は自分の席につくが、二人は朝のホームルームが始まるまで楽しそうに会話をしていた。



 昼休みになり、僕は堅石さんと一緒に食べる。

 そこにはもちろん東宮さんもいるが、今日はさらにもう一人、新参者が。


「楓、俺もいいのか?」

「もちろんだよ、真也」


 荒木真也、僕の友達で一番仲が良い男だ。


「堅石さんも東宮さんも、俺が入っていいのか?」

「空野さんのお友達であれば、私はもちろん構いません」

「わ、私も、大丈夫です……」


 東宮さんは少し人見知りが表に出ているようだが、本当に大丈夫かな。


 真也は見た目がかっこいいけど、身長も高くて威圧感が少しあるから、初対面の人に怖いと思われることもあるみたいだ。


「……そっか。まあ俺も楓とまた一緒に食いたかったから、お邪魔するな」

「はい、どうぞ。空野さんのお友達であれば、私のお友達です」

「ん? 堅石さん、それはどういうことだ?」

「お友達のお友達は、お友達。ということを聞いたことがありますので」

「確かにどこかで聞いたことあるが、実際は友達の友達は他人だぞ?」

「そうなのですか? だけど確かに荒木さんと私は別に友達というほど仲良くはありませんね」

「お、おお、そこまでハッキリ言われるとは思わなかったが、まあそうだな」

「ごめんね真也、堅石さんに悪気があるわけじゃないから」

「ん? ああ、それはわかるが、なんでお前が謝るんだ?」

「えっ、あ、うーん……堅石さんの親友だから?」

「そうか? 今のはなんか親目線の庇い方だった気がするが」


 うん、僕もなんか自然に親のような立場で話していた気がする。


 だけどほぼ一緒に住んでいて、僕が家事をほとんど担当しているから、保護者みたいな立場かもしれない。


「親友……いい響きですね」


 そんな堅石さんは、僕の「親友」という言葉に感動しているようだ。


「わ、私も、堅石さんと親友になりたいです!」

「東宮さん……私もぜひ、東宮さんとは親友になりたいです」

「ほ、本当ですか!? ど、どうやったら堅石さんと親友になれますか……!?」

「もっと仲良くなれば、親友になれると思います。お互いに頑張りましょう、東宮さん」

「は、はい……!」

「なあ楓、親友ってレベルアップみたいになるものだっけ?」

「どうだろうね、もう僕もわかんないや」


 堅石さんや東宮さんにとっては、そういうことなのだろう。


「荒木さんと空野さんは、お友達なのですよね。親友ではないのですか?」

「んー、俺は楓とは親友くらいに仲が良いと思ってるが」

「うん、僕も真也とは高校で初めて出来た親友だよ」

「おっ、そっか、両思いだな」

「……なんか言い方があれだけど、そうだね」


 口角を上げてニッと笑う真也は、やはり男らしい笑みが似合う。


「荒木さんは、空野さんの親友……私も、空野さんの親友ですよね?」

「うん、そうだよ」


 心配そうに見つめてくる堅石さんに、僕は頷いて答えた。


「そうですよね、よかったです」

「……まあ俺の方が仲が良いと思うけどな」


 なんか意地悪そうな顔をして、真也が余計なことを言った。


「っ、そうなのですか? 空野さん、私と荒木さんだったら、荒木さんの方が仲が良いのですか?」

「い、いや、親友だから、どっちも仲が良いよ。それに仲良し度なんて、比べられるようなものじゃないし……」

「……そうですか」


 まだ不満そうな堅石さん。

 少し真也の方を睨んでいる気がする。


 真也もそれに気づいて、何かまた企んでいるような笑みを浮かべた。


「……くくっ、まあ堅石さんより俺の方が早く楓の親友になったからなぁ、一年生の時からだから、その期間も長いし」

「っ、荒木さん、なんですか、それは私に対する当てつけですか?」

「んー? 別に、俺はただ事実を言ってるだけだぜ?」

「……そうですか。私は空野さんとデートをしたことがあります」

「ちょっと!?」


 真也の軽い挑発に、堅石さんが簡単に乗ってしまった。

 真也は堅石さんの言葉に驚いたように目を軽く見開いたが、すぐにまたニヤッと笑って続ける。


「そうかー。だけど俺も楓とは二人で遊んだことあるしなぁ」

「そうですか。私は空野さんとのデート時に手を繋ぎました」

「そうかー。だけど俺もハイタッチとかしたことあるし、肩組んだこともあるなぁ」

「そうですか。私は空野さんの後ろから抱きついたこともありますし、後ろから抱きつかれたこともあります」

「え……そうかー。だけど俺も一緒に銭湯とかに行って裸の付き合いをしたしなぁ」

「そうですか。私も空野さんに裸を見られ――」

「ストップ! ストップだよ、堅石さん!」


 慌てて僕は堅石さんの口を物理的に押さえた。

 まさかそんなところまで喋っていくなんて思わなかった。


 真也の視線が痛い。


「……楓、もう堅石さんとそんな仲だったんだな、知らなかったぜ」

「いや、違うんだよ真也。これは語弊があって……」

「裸を見られて下着姿を見られたことがあります」

「堅石さん!? ストップって言ったよね!?」

「一度ストップの要望は聞きましたので、そのまま続けました」


 いや、「一回止まって」じゃなくて「やめて」の意味だったんだけど。


 多分堅石さんはそれをわかっていながら、やめなかったな。



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