第41話 堅石さんとお着替えプレイ?



 リビングに行くとすでに料理は出来上がっていたようで、とてもいい匂いが堅石と東宮の鼻をくすぐる。


「今日はカレーですか」

「うん、堅石さんが帰ってくるかわからなかったから、残っても明日食べられるものにしたかったんだ。多めに作ったから東宮さんも来てくれて助かったよ」

「い、いえ、私こそ、すごく嬉しいです……!」

(だけど空野くん、本当に主夫みたいだなぁ……)


 と思っていた東宮だが、口には出さなかった。

 食卓につき、みんなで夕食を食べ始める。


 堅石と東宮はカレーの美味しさに目を見開いた。


「空野さん、とても美味しいです。さすがです」

「す、すごく美味しい……!」

「ふふっ、ありがとう、二人とも」


 優しい笑みを浮かべて二人を見る空野に、少しドキッとする東宮。


(や、やっぱり空野くんって、本当にいい人だから好きだなぁ……)


 東宮は高校一年生から、まともに喋れる男子は空野だけだった。

 そこらの男子よりも無害な容姿や雰囲気が、なんだか心地よかった。


 こういう人と付き合えたら楽しいだろうなぁ、と思ったことも何回かある。


 だが……。


(堅石さんと空野くんがお似合いすぎて、そういう気持ちはもう湧かないなぁ)


 空野も堅石のことを少なからず想っているはずだ。

 堅石に関しては……わかりやすいような、わかりにくいような。


(堅石さんも空野くんが好きだってことはわかるんだけど、それが友情なのか愛情なのか、私にはよくわからないや……)


 そんなことを思いながら、美味しいカレーを食べていく。


 夕食を食べ終えて、空野が食器を洗い始める。


 東宮が「私が……」と言っても、「お客さんにそんなことはさせられないよ」と言って、空野は譲ってくれなかった。


 意外と頑固なところもあるようだ。


 空野が食器を洗い終え、ソファに戻ってくるタイミングで堅石が話を切り出した。


「空野さん、本日は東宮さんとのデートでまた服を買いました。ぜひ空野さんに見ていただきたいのですが、いいでしょうか?」

「僕は見たいけど、着替えるのは大変じゃない?」

「全部着替えないといけないので少し大変ですが、見てもらいたい気持ちの方が勝ちます」

「そ、そっか。うん、じゃあ僕も見たいかな」

「はい、少々お待ちを」


 堅石は自室に引っ込み、服を着替え始める。


 それを見ていて、東宮は少しドキドキしていた。


(だ、大丈夫かな? 堅石さん、全部着替えるって言ってたけど……それって下着も? もしかして、あの完全にヤルつもりの勝負下着を見せるつもりなの!?)


「東宮さん」

「は、はい!?」

「大丈夫? なんかソワソワしてるけど」

「だ、大丈夫……その、うん」

「そ、そう? 堅石さんが買った服って、東宮さんが選んでくれたの?」

「あっ、そ、そうだよ。私が堅石さんの服を選べると思って、テンション上がっちゃって、選んだやつだけど……」

「そっか……ふふっ、ありがとうね、東宮さん」

「えっ……?」

「堅石さんも服を買えて、すごく嬉しそうだったから。東宮さんが選んでくれたお陰だよ」

「い、いや、そんな、私なんて勝手に堅石さんの服を選んだだけだし、むしろ選ばせてくれてこちらこそありがとうって感じだよ!」

「そ、そっか。それでも、堅石さんが今日のデート楽しかったみたいだから、よかったよ」

(……空野くん、堅石さんの親御さんなのかな?)


 もう空野が堅石の恋人なのか夫なのか親なのか、よくわからなくなってきた東宮だった。


 数分後、堅石がリビングに戻ってくる。


「どうでしょうか?」

「っ……うん、すごい似合ってるよ。もしかして、東宮さんとお揃いな感じ?」

「はぅ……! す、少しその、私が今日着てきたやつを意識しちゃいました……!」


 白色のワンピースに、青色のカーディガン。

 デザインや形が少し違うが、東宮が今日着てきたコーデと同じで、それぞれの服の色が逆になったものだ。


「確かにそうですね。東宮さんと似ています」

「えっ、気づいてなかったんだ」

「はい。今言われて気づきました」

「ご、ごめんね、堅石さん、私と同じコーデを許可も取らずに買ってもらっちゃって……!」

「いえ、私は東宮さんと同じコーデでとても嬉しいです。むしろさらにこの服がお気に入りになりました」

「うぅ……好きぃ……!」


 涙目で堪えきれずに気持ちが表に出てしまった東宮。


 空野も二人の様子を微笑ましい気持ちで見ていた。


「空野さん、これだけじゃないんです。もう一つ見てもらいたいものがあります」

「うん、次は何?」

「では少し後ろを向いていてください」

「後ろ?」

「はい」


 空野が後ろを向くのを確認した堅石。


 そして……服を脱ぎ始める。


「えっ、あっ……!」


 思わず声が出てしまった東宮だが、顔を真っ赤にして口を押さえる。


(え、えっ、ほ、本当に空野くんに見せるの!? しかも私がいる前で!?)


 確かに下着を買う時に「空野に見せることがある」と堅石は言っていたが、まさかすぐに見せるとは思わなかった。


 空野を見ると「次はどんな服なんだろうなぁ」と思っているような、子供の発表会を待つようなワクワクした顔をしていた。


(こ、これ、どういう状況……!? 私、どうすればいいの!? 堅石さんを止めた方がいいの!? それとも、このまま見てればいいの……!?)


 おそらく空野は堅石が下着を見せてくるなんて、全く思っていない。

 だからとても油断しているようだが、もう堅石はほぼ脱ぎ終わっている。


 綺麗な下着姿が東宮の視界に入り、二度目なのにとても刺激的で顔が赤くなる。


(も、もしかしたら二人は本当に、そういう『お友達』なのかもしれないし……わ、私が口を出すことじゃ、ないかな、うん)


 空野と堅石がそういう関係ではないと思いながらも、現実逃避をするように傍観することにした東宮。


 そして……。


「空野さん、準備が出来ました。振り向いてください」

「うん――えっ!?」


 空野が振り向いた瞬間に目を見開き、堅石の下着姿を凝視して固まった。


「どう、でしょうか? 勝負下着というらしいのですが」

「……」

「空野さん?」

「……はっ!?」


 意識が飛んでいたようでハッとして、顔を真っ赤にしながらすぐ後ろを向いてしゃがんだ。


「か、堅石さん!? なんでその、勝負下着を見せたの!?」

「もちろん空野さんに見ていただきたかったからです。勝負下着は誰かに見せるものと言われたので、それなら空野さんに見ていただきたいと思いました」

「なんかいろいろと違うから! こういう時に見せるものじゃないからね!」

「ではどういう時に見せるものなのですか?」

「そ、それは、その……ベッドの上とか、あれです……」

「ベッドの上? 寝る時ということですか? では空野さんと一緒に寝る時に見せればいいんですね」

「違う! そういう意味じゃない! あと東宮さん、僕の後ろで堅石さんが脱いでるのを見てたなら、止めてよ!」

「ご、ごめんなさい! 二人がそういう関係だと思って、私の前で、その、するプレイだと思っちゃって……!」

「絶対に違うでしょ!? もしそういう関係だとしても、東宮さんの前でやるわけないでしょ!?」

「プレイ? 東宮さんの前でする? どういう意味でしょうか?」

「堅石さんは質問する前に服を着て!」


 最後の最後でいろいろとドタバタしたが、堅石と東宮のデートはとても楽しい一日となった。


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