第38話 堅石さんと東宮のデート
翌日、堅石は午前中に家を出る準備をしていた。
昨日、空野と一緒にデートをした時に買った服、それを着ている。
黒の長袖のパーカーに、下は淡い青色のプリーツスカート。
スカートで可愛らしくもあるが、黒のパーカーで雰囲気がピシッと締まって綺麗な印象も受ける。
試着の時と今、二度しか着ていないコーデだが、堅石も気に入っている服だった。
「空野さん、おかしなところはないでしょうか?」
出掛ける時に部屋にいる空野にそう問いかける。
日曜日だけど起こしに来てくれた空野は、頬を緩めながら答える。
「うん、おかしなところはないし、すごい似合ってるよ」
「ありがとうございます。では、東宮さんとのデートに行ってきます」
「うん、今日は夕飯はいるかな?」
「どれくらいデートをするかわかりませんが、おそらく夕飯時には帰ってくると思います」
「わかった。いらなかったら連絡してね」
「わかりました。では空野さん、いってきます」
「いってらっしゃい、堅石さん」
そんな会話をしてから、堅石は空野に見送られて家を出た。
「……なんか今の会話、本当に同棲してるみたいで恥ずかしかったな」
堅石が出て行った後、頬を少し赤くしていた空野だった。
現地集合ということだったので、堅石は昨日と同じように電車に乗って向かう。
電車に一人で乗るのは初めてで少し緊張していたが、空野と一緒に乗ったことを思い出して、なんとか目的地に着いた。
約束の時間の十分前に到着した堅石だったが、すでに東宮えりかが待っていた。
「東宮さん、お待たせいたしました」
「あっ、か、堅石さん……! ううん、全然、待ってないです!」
実際には楽しみすぎて一時間前くらいに到着していた東宮だが、堅石には教えることはなかった。
「か、堅石さんの、私服、可愛いです!」
「ありがとうございます。本日のために、昨日空野さんと一緒に買いに行ったのです」
「きょ、今日のために、私のために……!」
堅石の言葉に嬉しくてニヤけてしまう東宮。
「東宮さんも、とても可愛らしいですね」
「い、いやいや! 堅石さんに比べたら、全然……!」
恐縮するように首を横に振る東宮だが、堅石は全くお世辞を言ったつもりはなかった。
「いえ、青色のワンピースに、白色のカーディガンがとても合っていて、東宮さんの可愛らしい雰囲気にピッタリです。それらはご自分で選んで買ったのですか?」
「あ、ありがとう……! うん、そうだけど……」
「やはり素晴らしいです。私はお店の人に全て選んでいただいたので、東宮さんは服を選ぶセンスがすごいあると思います」
「か、堅石さんこそ、とても可愛くて綺麗で服を着こなしてるから、すごいよ……!」
お互いに褒め合っていたが、いつまでも施設の入り口にいては意味がない。
「では東宮さん、デートを始めましょう」
「は、はい……! はぁ、もうなんか、夢みたいです……!」
「東宮さんはどこか行きたいところはありますか?」
「ふ、服の話になったから、よければ私も堅石さんの服を選びたいな……」
「東宮さんの服じゃなくて、私のですか?」
「う、うん、ダメかな……?」
「私は私服をあまり持っていませんので、選んでいただけるなら嬉しいですが、逆によろしいのですか?」
「も、もちろん! 堅石さんの服を選べるなんて、ご褒美だよ!」
「そうですか? ならお願いします」
そして二人は服屋さんを見て回ることにした。
最初に行った店で東宮が堅石の服を選んでいく。
だが持ってくる服を全部試着すると、「はぁ、似合う、好き……!」「美しすぎるよぉ……」などと言って、堅石の試着する服がどんどん増えていく。
試着回数が十回を超えたあたりで、堅石が「どれを買えばいいですか?」と聞くと、ハッとした東宮。
「ご、ごめんなさい! 買うことを考えずに、堅石さんが全部似合っちゃうから着てもらってた……」
「そうですか。ですが私もいろんな服を着れて、とても楽しかったです」
「よ、よかった……!」
「全部買ってもいいのですが、さすがにそうなると持つのが大変ですね」
「ぜ、全部……さすが堅石さんだね……」
堅石が出した黒色のカードを見て、息を呑んだ東宮だった。
その後、また十分ほどかけて厳選し、三着ほど買った。
「ほ、本当によかったの? 私が勝手に選んだ服だし、買わなくてもよかったんだよ……?」
「いえ、私もとても気に入りましたし、友達である東宮さんが選んでくださった服だからこそ、買いたいと思いました」
「か、堅石さん……!」
涙目になって嬉しそうに堅石を見上げる東宮。
そこで服を買って、店を出て二人は歩く。
「選んでいただきありがとうございます、東宮さん」
「う、ううん! こちらこそ、気に入ってもらえて本当に嬉しいよ!」
「はい……ん? 東宮さん、こちらの店はなんでしょう?」
空野と昨日行った時には通らなかったところにあった、小さな店。
店前にはその店で売られているであろう商品が、マネキン付きで飾られていた。
「あっ……こ、ここは、女性用の下着、ランジェリーのお店、かな?」
「女性用下着……なるほど、確かにマネキンや店内を見るに、ブラジャーやパンツが売られています」
「そ、その、そんな堂々と店の前に立つのは、恥ずかしいと思うんだけど……」
「なぜですか? 下着が売られているお店で、その商品を見るのは当然の行為だと思いますが?」
「そ、そう、だね……! さすが堅石さん、だよ……!」
そう言い切った堅石に、東宮はハッとしておそるおそる堅石の横に立つ。
とても恥ずかしそうに顔を赤らめながら周りをチラチラと見る東宮だったが、堅石は全く動じていない。
「なるほど、確かに先程のお店や前のお店では、そこまで下着を扱っている雰囲気はありませんでしたが、こういう専門店があるのですね。納得しました」
その姿にまた東宮は憧れを抱いていた。
(他の人のことを気にせず、自分が見たいものを見る……! カッコいい……!)
実際には下着を見るというのが恥ずかしいと全く認識していないだけであるが、東宮は堅石はやっぱりすごいと感じた。
「東宮さん、こちらのお店に入ってもいいでしょうか? 外着用の服は何着か買いましたが、下着は全く買っていませんので」
「う、うん、もちろん……!」
中に入った方が恥ずかしさは少し軽減するだろうと思い、承諾する東宮。
「ありがとうございます。下着も買うのは初めてです」
「えっ、そうなの? じゃあ今着けてるのは……?」
「メイドの方に買ってもらったものですね」
「そ、そっか!」
買うのは初めてと言われて不安になったが、さすがに「着けていません」と言われることはなかったので、東宮はホッとした。
とりあえず二人はそのお店に入り、下着を見ていく。
「こう見ると形は大体同じですが、色やデザインは本当に様々ですね。とても興味深いです」
「そ、そうだね……!」
恥ずかしいという気持ちが押さえられない東宮と、興味津々で下着を見ていく堅石。
客は二人以外に全くいないので、すぐに女性の店員が近づいてくる。
「いらっしゃいませ。採寸などはいたしますか?」
「採寸、ですか?」
「はい、下着はご自分の身体に合ったものでないといけないので、最初は採寸をオススメしております」
「まだ買うかどうかわからないのですが、よろしいのですか?」
「もちろんです。採寸だけでもよろしいですよ」
「わかりました。私はやっていただきますが、東宮さんはどうしますか?」
「わ、私もその、やってもらおうかな……」
今までお店で採寸をしてもらったことはない東宮は、とても緊張しながらも、堅石がやるならと思い勇気を出す。
そして二人は採寸をしてもらった。
自分でやったことがある東宮だったが、やはりお店のプロに任せた方が楽で、正確だった。
「あっ……ちょっと、大きくなってるかも……」
「正確にサイズを知ることで、下着選びもしっかり出来ますからね」
「あ、ありがとうございます……!」
東宮は恥ずかしさを押し殺しながら、顔を真っ赤にしてお礼を言った。
堅石は全く恥ずかしがらずに採寸を受けていた。
「お客様、裸にならなくても出来ますが……」
「そうなのですか? 家でメイドの方に測ってもらう時はいつも裸になっていましたが」
「メイド……? ま、まあ、裸の方が確かに正確性は増すかもしれません」
「ではこれでお願いします」
東宮とは違い、店員の方がむしろ少したじろぎながら、堅石のサイズを測った。
「……スタイル抜群ですね、お客様」
「ありがとうございます、よく言われます」
「……妬ましい」
「? 何か言いましたか?」
「いえ、何も」
東宮には見えたが、店員さんが一瞬だけ鬼の表情をして、すぐに笑顔に戻っていた。
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