第34話 堅石さんとゲームセンター
お互いに食事を終えて、二回目のドリンクバーで飲み物を注いで、席で軽く話す。
「どうだった?」
「とても美味しかったです。ピザもナポリタンも、どちらも好きな食べ物に入りそうです」
「そっか。ピザは作るのは難しいけど家でデリバリーを頼むことも出来るし、ナポリタンは僕も作れるから、今度作るね」
「ありがとうございます。空野さんが作ってくれるのもすごく楽しみです」
「そこまで期待しないでね。次はどこか行きたいところある?」
今日の目的は堅石さんの私服を買うということで、もうすでに達成している。
だからこの後の予定は特に立てていない。
「……あまりこういう施設に来たことがないので、行きたいところを聞かれても特にわかりません」
「ああ、そうだよね。じゃあ適当に歩いて回ろっか」
「はい、空野さんとご一緒なら、どこに行っても楽しいと思います」
「う、うん、そっか」
堅石さんはいつもよりもテンションが高いのか優しい笑みを浮かべていて、僕はドキッとしてしまう。
そしてファミレスを出て、ショッピングモールを見て回る。
服屋が多いのだが雑貨屋などもあって、堅石さんが見たことないものがたくさんあるようだ。
「空野さん、これはなんでしょう? どういったものに使うのでしょうか?」
「うーん、特に使い道はないかな? 多分、部屋に飾っておくインテリアみたいなものだと思うよ」
「そういうのもあるのですね。確かに部屋にこれらがたくさんあったら、印象が変わると思います」
「いや、ここら辺にある数十体のトラやクマの置物を全部買って置くんじゃないからね?」
「そうなのですか? そっちの方が部屋の雰囲気が変わると思いますけど」
「うん、まあ部屋の雰囲気は変わるだろうけどね」
そんな何十体もの動物の置物をどこに置いても、すごい雰囲気の部屋になると思う。
雑貨屋はやはり初めて入ったようで、堅石さんはとても新鮮で楽しそうな表情で見て回っていた。
僕も堅石さんに説明しながら、楽しく見て回ることが出来た。
しばらくしてから雑貨屋を出て、適当に歩いていると、何か音楽がすごい勢いで流れてるところに近づいていく。
「空野さん、この音楽は? とても大きい音で流れていますが、なんだかいろんな曲が混ざっている感じがします」
「多分、ゲームセンターかな?」
「ゲームセンター? ゲームは聞いたことがありますが」
「それがいっぱいある施設、みたいな感じだよ」
そのまま歩いていると、ゲームセンターのところに来た。
音ゲーの曲や店内のBGMが混ざって、すごい大きな音が流れている。
「堅石さん、音は大丈夫?」
「はい、少しうるさいですが、問題はありません」
「そっか、じゃあ入ってみる?」
「はい」
僕と堅石さんはゲームセンターに入り、いろいろと回ってみる。
「堅石さんはゲームはしたことあるの?」
「一度もないです。空野さんは?」
「僕は自分の部屋にゲーム機があるから、それで時々やってたかな」
最近は堅石さんの部屋にいることが多いから、あまりやってないけど。
久しぶりにやりたいなぁ。
「そうなのですね。本当にいろんなゲームがあるようですが、どれでもやっていいのですか?」
「うん、初心者には難しいやつはあるけど、やるのは大丈夫だよ」
「そうですか……っ、これは?」
「ああ、それはクレーンゲームだね」
堅石さんが目についたのは、可愛らしいぬいぐるみが置いてあるクレーンゲームだ。
置いてあるぬいぐるみは、確か漫画のマスコットキャラ的なやつだったかな?
そういえば堅石さんに貸した漫画の中に登場するキャラクターだった気がする。
確か名前は……。
「ツグちゃんさんが、置いてあります」
「ああ、そうだ、ツグちゃんだね」
確か馬の魔物、みたいな感じで、主人公がテイムする魔物で可愛いくて人気があった気がする。
ツグちゃんと親しまれて呼ばれてるが、堅石さんは今「ツグちゃんさん」って敬称をつけてたな……。
「これはどういったゲームですか? ツグちゃんさんが買えるのですか?」
「上にあるアームをボタンで動かして、下にあるぬいぐるみを取るゲームだよ」
「なるほど、ぬいぐるみ釣りみたいなイメージですか」
「まあ、その認識でいいと思う」
「やってもいいでしょうか?」
「もちろん」
「では……どうやってやるのでしょう?」
堅石さんは真っ黒なカードを出して、どうやってお金を払うのかを迷っていた。
いや、もちろんブラックカードじゃ払えないよね、こういうのは。
「堅石さんは小銭持ってる?」
「手持ちにありません」
「これは小銭でしか出来ないから、僕がじゃあ入れるね」
「ありがとうございます、あとで必ずお返しします」
僕が財布から五百円玉取り出し、機械に入れる。
百円だったら一回、五百円だったら六回出来るから、こっちの方がお得だよね。
「やってもいいのですか?」
「うん。まずはどれを取りたいか狙いをつけた方がいいかな」
「どれを……どれも同じのようなので、一番取りやすいやつがいいですよね」
「そうだね。それなら一番手前のやつとかはどうかな?」
「そうですね、それが取れやすそうです」
そして堅石さんはクレーンゲームをやり始めた。
とても真剣な表情で右ボタンを押す堅石さん。
しかし……。
「……? アームが動かなくなりました」
「あー、多分それ、長押ししている間に動いて、離しちゃうと動かなくなるやつだ」
「ではもう右には動けないのですか?」
「そうだね……ごめんね、僕が先に気づければよかったけど」
「いえこちらこそ、空野さんがお金を出していただいたのに無駄にしてしまい申し訳ありません」
ということで、最初は初見殺しのシステムで失敗してしまった。
「次、取ります」
……なんかバスのアナウンスみたいだな。
堅石さんは次はしっかりと長押しをして、取りたいぬいぐるみの上にアームを移動させることが出来た。
しかし、アームは力が弱いのか、少し上がっただけですり抜けていった。
「……今、どこが悪かったですか?」
「うーん、僕もあまりやったことないからわからないなぁ」
「そうですか。ではもう一度」
しかしその後、二回ほど同じようにやっても少し上がるだけで、全く取れる気配はない。
「どうすれば取れるのでしょうか……」
多分、持ち上げて取るのはアームの掴む力を見る限り難しそうだ。
それなら……。
「堅石さん、アームで上げるんじゃなくて、アームで引っ掛けて転がす感じにすれば取れるかも」
「転がす……わかりました、やってみます」
堅石さんは僕の助言通り、アームがガッツリぬいぐるみを掴む位置ではなく、引っ掛けるような位置に移動させた。
するとぬいぐるみは引っかかって、出口のところまで転がってきた。
「っ! 空野さん、今の作戦でいいようです、あともう少しです」
「うん、頑張って」
「はい」
ラスト一回なので堅石さんはさらに集中して、アームを動かした。
そして……ぬいぐるみのツグちゃんは見事に穴に落ちて、ゲット出来た。
「やりました……!」
グッと小さくガッツポーズをした堅石さん。
その様がとても可愛らしくて、僕も思わず頬が緩んでしまう。
商品を手に取ると、案外大きくて堅石さんの上半身くらいの大きさがある。
「やりました、空野さん。空野さんのお陰です」
「いや、堅石さんが頑張ったからだよ。初めてでそんな大きいのをゲット出来るのは、本当にすごいと思うよ」
「空野さんがいなかったら取れませんでした」
とても嬉しそうにぬいぐるみをギュッと抱きしめる堅石さん。
ぬいぐるみを抱きしめる姿が、いつものお堅い堅石さんとは違い、ギャップがあってとても可愛らしい。
「これは持って帰っていいのですか?」
「もちろん、堅石さんが勝ち取ったものだからね」
「そうなのですね……ベッドに置いてもいいのでしょうか?」
「いいと思うよ」
「ではベッドで、抱き枕にしたいと思います。結構もふもふで、抱き心地がいいです」
ギューと抱きしめると、堅石さんの胸が潰れているのが見えてしまった。
頬が赤くなるのを感じて、僕はすぐに目線を逸らした。
「よろしければ、空野さんの分も取りたいです」
「僕の分?」
「はい、空野さんは寝る時に抱き枕などはいりますか?」
「うーん、どうだろう」
特に抱き枕を使ったことがないからわからない。
あったら抱きついて寝るかもしれないけど、気持ちいいのかな?
「私は実家にいる時は、抱き枕を抱いて眠っていました」
「えっ、そうなんだ」
隣の部屋で一緒に住むようになって、僕がいつも起こしにいってるんだけど、抱き枕を見たことはなかった。
「はい、ですが一人暮らしをするので抱き枕は卒業しようと思ったのですが、やはりあった方がいいと最近思ってました。なので今回、ツグちゃんさんを手に入れることが出来て嬉しいです」
「そっか、よかったね」
「だから空野さんにもぜひ、同じ抱き枕を使って欲しいです」
「……うん、それなら僕も欲しいかな」
「はい、お友達とお揃いというのも、いつかやってみたいと思ってました」
友達とお揃いっていうのは聞いたことあるけど、抱き枕がお揃いってのは聞いたことないなぁ。
だけど堅石さんが嬉しそうだし、別にいっか。
また同じクレーンゲームをやろうとする堅石さん。
「……あっ、カードでは出来ないんでしたね」
「うん、そうだね。はい、五百円玉」
「ありがとうございます、空野さん」
またブラックカードを出そうとしていた堅石さんに、僕は小銭を渡した。
堅石さんはコツを掴んだようで、今回もすぐに引っ掛けて見事にぬいぐるみをゲットした。
「空野さん、どうぞ」
「ありがとう、堅石さん。僕もじゃあこれを抱き枕にするね」
「はい、これを私だと思ってぜひ抱いてあげてください」
「っ……い、いや、まあ、うん、そうだね」
これを、堅石さんだと思ってって……!
むしろ抱きづらくなってしまったけど。
そんなことをつゆも知らず、堅石さんは嬉しそうに笑っていた。
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