第31話 堅石さんとデートへ



 土曜日になり、堅石さんとデートをする日となった。


 堅石さんが服を全く持ってなかったので、勢いで「買い物デートしようか」と言ってしまったが、少し緊張していた。


 昼の十一時くらいに、堅石さんの部屋から出かけることになっていた。

 すでに僕は堅石さんの部屋にいて、堅石さんの準備が終わるのを待っている状態だ。


「お待たせしました、空野さん」


 堅石さんは休日に遊びに行くのに服を持ってなかったので、学校の制服で行くことになった。


 それ以外に本当に部屋着しかなかったので、仕方ない。


 別に休日に制服でショッピングモールとかにいてもおかしくないと思うので、多分大丈夫だろう。


「じゃあ行こっか」

「はい」


 一緒に家を出て、駅へと向かう。

 ここ数日は堅石さんと一緒に学校に行っていたので、並んで歩くことは慣れた。


 だけど今日は学校ではなくショッピングモール、つまりデートに向かうということで、いつもよりドキドキしていた。


 大丈夫かな、堅石さんも買い物は初めてって言ってたから、しっかりエスコート出来るかなぁ……。


 そんなことを考えながら隣に並んで歩いていたのだが、僕の手に何か当たった。


 見ると、なぜか堅石さんが手を繋いできていた。


「え、えっ? か、堅石さん、なんで手を?」

「デートというものは手を繋ぐ、というのをネットで見たからです」


 いや、それは交際している男女だからで、普通の友達同士だったら別に手を繋ぐ必要はないと思うけど……!


 そう思ったのだが恥ずかしくて言葉が出ず、さらに堅石さんの柔らかい手で握られているので、その緊張で余計に声が出しづらい。


「空野さんの手は大きいですね。私の手がすっぽりとハマる感じがします」

「ま、まあ、男子と女子だと、やっぱり手の大きさも違うのかな……」

「そうですね。それにゴツゴツしてて、面白いです」


 あまりニギニギとしないでほしい、俺の方にも堅石さんの手の柔らかさがすごい伝わってくるから。


「手の握り方はもう一つあるようですが、そちらは恋人繋ぎと呼ばれているようなので、私と空野さんでは出来ませんね、残念です」

「そ、そうだね……」


 指を絡める方が恋人繋ぎだと思うけど、それはやらなくてよかった。

 ……いや、別に残念がってはないから、うん。


 その後、「デートでも繋がなくていいんだよ」というタイミングを失い、駅に着くまではずっと手を繋いでいた。


 こんな最初から心臓に悪いことをされて……僕は今日、生きて帰れるだろうか。



 家を出てから約三十分後、ショッピングモールに着いた。


 堅石さんは電車にも乗ったことがなかったようで、一回改札で引っかかってしまった。


 その後切符を買って、電車で揺られていたのだが、


「空野さん、とても速いです。車より景色が動くのが速くてビックリしてます」


 と無邪気な子供のように外の景色を楽しんでいて、可愛かった。


 子供のような可愛さなら心に優しいのだが、いきなり手を繋ぐとかドキドキするようなものは心臓に悪い。


 ショッピングモールは、いろんな服屋さんや雑貨屋さん、カラオケなども入っているところだ。


「大きいですね……私の実家よりも大きいです」

「まず比較しようと思えるくらい実家が大きいのがすごいね」


 今の言葉だけで、堅石さんのご実家がどれくらいデカいかが想像出来た。


 まあ大企業の社長がお父さんだしね。

 ……だけどそこの副社長が僕のお父さんなんだよなぁ。


 それなのになんで実家の大きさはこんなに差があるんだろう?


 ただ僕のお父さんが、大きな家を買いたくなかっただけかな?


「人もいっぱいいますね」

「休日だしね」

「空野さん、言ってなかったことがあります」

「なに?」

「私は地図が読めないので、初めて行く場所などでは迷子になりやすいです。マンションから学校に行くまでの道も、十回ほど往復して覚えました」

「そ、そうだったの?」

「はい、なので迷子にならないよう、先程と同様に手を繋いでもらってもよろしいでしょうか?」

「う、うん、わかった」


 それなら仕方ない、迷子になったら困るからね。

 だけど堅石さんは意外と、どこか子供っぽいところがあって面白いな。


「……空野さん、今笑いましたか?」

「いや笑ってないよ」

「いえ、口角が少し上がっていました。子供っぽいと思って笑いましたね」

「ふふっ、思ってないよ」

「口に出して笑いました、思ったということですね」

「ほら、堅石さん、早く行こう」

「……はい」


 少し膨れたような表情をする堅石さんに、僕は笑いながら彼女の手を引いた。



 まずは一番の目的である、彼女の服を買うために服屋へと来た。


 少しお高めの服屋さんだけど、まあ堅石さんは今日、ブラックカードを持ってきてるからね……お金の心配はする必要はないだろう。


 本当なら安いところで買いたかったんだけど、僕も堅石さんも女性用の服がわからない。


 だから少し高めな店でも、店員さんが一緒に選んでくれるところに来たのだ。


「すいません、今お時間よろしいでしょうか?」

「は、はい、なんでしょう?」

「お忙しいところ大変申し訳ありませんが、私は自分に合う服というものが未熟でわからず、プロである店員さんに手伝っていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「も、もちろんです!」

「ありがとうございます」


 女性の店員さんよりもお堅い言葉で話しかけた堅石さんだったが、無事に了承してもらったようだ。


「どういうものをお探し、などはありますでしょうか?」

「どういう……下着以外の服です」

「そ、そうですか」

「あの、僕から説明します」


 堅石さんは慣れてないから、僕が店員さんに説明する。


 まず制服しか持ってないから、全身コーデを三セットほど選んでほしい、と伝えた。


「僕もどれがいいとかわからないので、店員さんのセンスでお任せするしかないのですが、いいですか?」

「もちろんです! こんなお綺麗な女性の全身コーデを考えるなんて、このお店の店員でよかったです!」

「あ、ありがとうございます」


 どうやら店員さもやる気になってくれたようで、お店の中の服をどんどんと持ってきて選んでくれる。


「まずは一セット目ですが、こちらでいいでしょうか? 試着なさいますか?」

「試着……試しに着るということでしょうか?」

「堅石さん、試着はした方がいいよ」

「わかりました。ではお願いします」

「ではこちらが試着室です」


 試着室に一セット目の服を入れてくれた店員さん、そこに堅石さんが入る……ずっと手を繋いでいた僕も連れて。


「ええっ!?」


 店員さんが驚きの声を上げた瞬間に、僕もハッとした。


「いやいや! 堅石さん、僕は一緒に試着室に入らないよ!?」

「そうなのですか?」

「そうだよ! 僕は外で待ってるから! 着替えたらカーテンを開けてね!」

「わかりました」


 ということで、僕は急いで試着室から出た。


 試着室から出ると、服を選んでくれた店員さんと目が合う。


「あ、あの、お騒がせしてすいません……」

「い、いえ、大丈夫です……その、別にご一緒に入ってもよかったのですよ? 私はその、気にしませんので……」

「いやいや! 大丈夫です!」


 顔を真っ赤にしながら僕をチラチラと見てくる店員さん。


 何か絶対に勘違いしていると思うけど、今のは堅石さんが僕と手を繋いでいたから、そのままの勢いで一緒に入ってしまっただけだ。


 別に脱いでるところを見せたいとか、そういうのでは絶対にない……はずだ。


 少ししてから、堅石さんが着替え終わったようで、カーテンを開けた。


「どうでしょうか? 自分ではわかりませんが……」

「っ……!」


 白い長袖のニットに、黒色の膝下くらいまであるスカート。

 ニットは大きめなのかゆったりと着れていて、少し萌え袖になるくらいの感じだ。


 スカートは制服で見慣れていると思っていたのだが、形は少し違うし、色も黒だと凛とした美しさがあった。


 総じていうなら……とても綺麗ですごく可愛い。


「空野さん?」

「あっ……」


 思わず見惚れてしまっていて、黙り込んでいた。


「似合わない、でしょうか? 空野さんも店員さんも、何も言ってくれないのはそういうことでしょうか?」


 女性店員さんを見ると、「早く、早く褒めてあげて!」と僕に言っているような圧を感じた。


「いや、すごい似合ってるよ、堅石さん。すごく綺麗で、その、可愛い」

「本当ですか? ではなぜ黙って……」

「それはその、堅石さんの格好が綺麗すぎて、見惚れてたから……」

「そう、ですか……それなら、よかったです」


 嬉しそうに、穏やかな笑みを浮かべた堅石さん。


 僕はまた見惚れて、頬が赤くなっているのを感じた。


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