第30話 堅石さんと洋服?
その後、三人で夕食を食べた。
東宮さんも僕の料理を「美味しい……!」と言ってくれたので、それは嬉しかった。
だけどなぜかチラチラと赤い顔で僕の方を見ていたけど、なんだったんだろう。
夕食を食べた後、すぐに東宮さんは帰ることに。
東宮さんは家族と一緒の実家に住んでいるようだし、さすがにいきなり泊まりなどは出来ないだろう。
「堅石さん、また遊びに来てもいいかな……?」
「私はもちろんいいですが、空野さんはよろしいですか?」
「えっ、僕に聞くの?」
「私の部屋ではありますが、九割以上の時間を空野さんとご一緒していますので」
「あ、あはは、そうなんだ……最後に確認なんだけど、お二人は恋人じゃないんだよね……?」
「はい、交際はしておりません。仲のいい友達です」
堅石さんはそこで胸を張るけど、彼女はおそらく恋人よりも友達の方が仲良し度が高いと思っているのだろう。
「や、やっぱりそうだよね。だけど二人とも裸を見たことがあるんだよね……?」
「それは事故だから、東宮さん。あまり真に受けないでほしいかな」
「わ、わかった!」
「遊びに来ていいかっていう話だったけど、もちろん僕はいいよ。東宮さんが来てくれたら、堅石さんも楽しいと思うし」
「はい、楽しかったです」
「よ、よかった……! うん、また来ます!」
とてもいい笑顔をして、東宮さんは帰っていった。
それからはいつも通り、僕と堅石さんは一緒にソファでくつろいでいた。
堅石さんはいつもは勉強をするか漫画を読むかをしているのだが、今日は何やらスマホをいじっていることが多い。
「……空野さん、質問があります」
「ん? なに?」
「デート、というものはなんでしょうか?」
「えっ、いきなりどうしたの?」
「東宮さんにデートに誘われたので」
「東宮さんに?」
「はい、こちらを」
堅石さんがいじっていたスマホを差し出してきた。
画面を見ると、どうやら東宮さんと連絡先を交換していたようで、メッセージのやり取りをしていた。
そこで東宮さんが、『こ、今度お二人で、一緒に遊びませんか!?』と誘っていて、それに堅石さんが『それは休日にということでしょうか?』と返していた。
その次で、『は、はい! 休日デートです!』と返ってきていた。
「私はデートというものは、交際している男女二人がするものだと思っていましたが、違うのでしょうか?」
「交際していなくても男女二人きりで遊ぶんだったら、デートといえるかもしれないね」
「そうなのですね。ですが東宮さんと私でしたら女性二人なので、デートではないのでは?」
「うーん、どうなんだろう。女性二人でもデート、っていえばデートなのかな? まあ気持ちの問題だと思うよ。難しく考えないで、親しい友達と二人で遊ぶのをデート、って覚えとけばいいよ」
「わかりました、ありがとうございます」
堅石さんはそう言ってスマホを受け取り、メッセージで「わかりました。デートをしましょう」と返していた。
うん、東宮さんも多分喜ぶだろう。
「そういえば空野さんと私は、デートをしたことはないですよね?」
「ま、まあ、そうかもね」
確かに僕と堅石さんは二人で出かけたり遊んだりするデートはしたことはない。
だけど世間一般的にいえば、まさに今、このような状態を「家デート」とも呼んだりするかもしれない。
僕と堅石さんはほぼ同棲をしているから、「家デート」と呼ぶものではないと思うけど。
「私、空野さんともデートをしてみたいです」
「そ、それは嬉しいけど……」
「しましょう」
「は、はい」
堅石さんのキラキラとした目でそう言われて、僕は頷いた。
僕も女の子と二人きりで遊ぶ、なんてことは生まれて一度もしたことがない。
しかもその初めての相手が堅石さんって、大丈夫かな?
「堅石さんはどこか行きたい場所ある?」
「特にありませんが、買い物などをしてみたいです。生まれてから一度も、買い物というものをほとんどしたことがありませんので」
「えっ? そうなの?」
「はい、今自分が持ってるほとんどの物は親からもらったものや、ネットで買ったものです。なので実際にお店に行って買う、という行為はしたことありません」
「コンビニとかは?」
「コンビニエンスストアも行ったことがありません」
なんか久しぶりに略称じゃないものを聞いたけど、まさか高校二年生にまでなってコンビニですら買い物をしたことがないなんて……。
「そういえば堅石さんって、まず外に出ることがあまりないよね」
「はい、学校に行く時くらいしか外に出る機会はありません」
「そ、そうだよね」
一緒に住んでいて思ったけど、彼女は本当に家を出ない。
休日も特に家を出ることなく、勉強か本を読むか、アニメを見るかをずっとしている。
まあ僕もバイト以外では休日に外出ることはほとんどないから、堅石さんのことは言えないんだけど。
「堅石さんって、私服は持ってるの?」
「私服ですか? 今着ているものが私服ですが」
「そうじゃなくて、外に出かける用の服というか」
一ヶ月ほど一緒に住んでいて、彼女の外行き用の服を見たことがない気がする。
外に出かける時は学校なので、制服しか見ていない。
それで家ではラフな部屋着と、ちょっと油断が多い寝巻きくらいだ。
「外に出かける用……これではダメなのですか?」
「うーん、遊びに行くとしたら適してないかも」
堅石さんが今着ているのは、モコモコした可愛らしい部屋着だ。
軽くコンビニに行く時とかだったら着替えずにそのまま行くことはあると思うけど、休日に遊びに行く時にこの格好で行く人はほとんどいないだろう。
「……確かに私は部屋で着る用の服ばかりで、外に来ていく服はほとんど持っていないかもしれません」
「そ、そっか」
やっぱり持ってなかったのか。
「やはり高校二年生になら、外行き用の服を持っているのは普通でしょうか」
「うん、まあ、小学生でも持ってると思うけど……」
「しょ、小学生でも……私は、小学生以下……」
「そ、そんなことないよ! もしかしたら自分が外行き用の服だと認識してないだけで、部屋にあるのかもしれないよ!」
「そう、でしょうか。では空野さん、見ていただけませんか?」
「えっ? 僕が?」
「はい、私じゃわかりませんから」
そう言われて断ることは出来ず、堅石さんの自室に移動した。
「こちらが服を閉まっているタンスです。見ていただけますか」
「う、うん、わかったよ」
まさかこんなことになるとは思わなかったけど、とりあえずタンスの一番上を引く。
「そこは下着を閉まっているところです」
バンっ! と大きな音を立てて閉めた。
「か、堅石さんがタンスを開いて、紹介してくれないかな?」
「わかりました」
そっちの方が僕がいきなり開くよりも安全だろう。
しかし、洗濯を担当しているからいろんな色やたくさん数があるのは知ってたけど、ああやってまとまって見るのは初めてだったから、なんか恥ずかしい……。
その後、堅石さんがいつも来ている服とかを紹介してもらっていったが……。
本当に、外行き用の服がなかった。
部屋着しかなく、あとは制服だけ。
冬用のコートはあるのだが、それも制服の上から着るような黒いシックなもので、女子高生が着るようなオシャレなコートではない。
「……堅石さん、休日デートで、服買いに行こっか」
「はい、楽しみです」
東宮さんと堅石さんが一緒に遊ぶ時のために、服を買っておかないとね。
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