第29話 堅石さんの家に東宮さんが



 廊下に立っている東宮さん、玄関で靴を脱ぎかけたまま固まる僕。


 ……な、なぜ、彼女がいるのだろうか。


 東宮さんは制服のままで、おそらく学校帰りにそのまま堅石さんの部屋に来たようだ。


 つまり堅石さんに誘われてこの部屋に来たのか?


 それだったらマズい、僕は今、この部屋に「ただいま」と言って入ってきた。


 確実に「堅石さんと空野くんが同棲している」と東宮さんは勘違いしてしまう。


「あ、あの、東宮さん……」

「あっ、ごめんね。荷物持ったまま、重たいよね。運ぶよ」

「えっ、あ、うん、ありがとう」


 僕が持っていた荷物を受け取る東宮さん。


「えっとね、さっき堅石さんからいろいろと事情は聞いたよ。空野くんが堅石さんの隣の部屋に住んでるってこと」

「あ、そ、そうなんだ」


 まさか堅石さんがそこまで喋っているとは。

 じゃあ東宮さんは勘違いせずに済みそうだ。


「も、もう親公認の中で、同棲までしてるって……ふ、二人とも、大人だね」

「違う、多分違う」


 すでに勘違い済みだった。


 親公認なのは確かだけど、ほぼ同棲に近いことをしているのもそうだけど、そういう意味で「大人」ということではない。


 むしろ僕は堅石さんを子供のようにお世話をしているから、全然大人じゃない。


 というか堅石さんはどこにいるんだ?


 そう思っていたら、浴室から堅石さんが出てきた。


「あ、空野さん。帰っていらしたのですね。お出迎え出来ずに申し訳ありません」

「か、堅石さん。うん、それはいいんだけど」

「お風呂掃除をしていましたので『ただいま』の声が聞こえませんでした。そしてお風呂掃除は完了しました、今日も気持ちよくお風呂に入っていただけると思います」

「う、うん、ありがとう」

「や、やっぱり二人はお風呂を一緒に入る中で……!」

「だから違う! 東宮さん、説明させて!」


 とりあえず荷物を持ってリビングに上がり、冷蔵庫に買ってきたものを入れた。

 そしてリビングのテーブルで、僕と堅石さんが並んで座り、その前に東宮さんが座る。


 ……なんかメイドの薫さんの時もこういう感じだった気がするな。


「えっと、まず東宮さんはどこまで僕と堅石さんの関係について知ってるのかな?」

「その、隣の部屋で住んでいて、ほぼ堅石さんのお部屋の家事をしていて、堅石さんが空野さんに全てを見せているってことまで、かな」

「その全てを見せてるってのがよくわからないけど、だいたいはそうだね。堅石さんは東宮さんになんて説明したの?」

「私が乳首や女性器以外の肌を全て見せた友達、と伝えました。それとほっぺにキスをするくらいの仲だと」

「その説明だけだと、違う意味の友達になるから……!」

「わ、私は大丈夫だよ? その、二人がセ、セフ……!」

「違う、違うからね、東宮さん。僕と堅石さんはそういう意味の友達じゃないから」

「どういう意味の友達なのでしょうか? 友達は友達ではないのでしょか?」

「うん、一回僕に全部説明させてくれないかな? 堅石さんは少しお口にチャックで」


 ということで、もう東宮さんには全部説明することに。


 学校で僕と堅石さんの親が仲がいいということは話したので、その二人がなぜか結託して僕と堅石さんを隣の部屋で住まわせたこと。

 堅石さんが一人で生活出来ないので、それを手伝ってること。


 そして僕と堅石さんは普通の友達で、そういうエッチな関係性は全くないということ。


「そ、そうだったんだね。堅石さんが家事を出来ないって、意外かも。学校では本当に、なんでも全部出来るっていうイメージだったから」

「とても情けない限りです。今では掃除は出来るようになりましたが、それ以外はまだ特に成長出来ていません」

「あ、いや、攻めてるとかじゃないよ? むしろ堅石さんにも弱点があったって知って、親しみを覚えたというか、嬉しいというか……!」


 慌ててそうフォローする東宮さん。


「東宮さん、このことは学校では内密にお願いします……!」

「そ、そうだよね。私も最初に堅石さんから聞いた時はすごい驚いちゃったけど、学校で二人がそういう関係じゃないとしてもほぼ同棲してるって知られたら、すごいことになっちゃうよね」

「すごいこと、とはなんでしょう?」

「え、えっと、すっごい騒ぎになっちゃうってことかな?」


 堅石さんは僕とほぼ同棲しているということが、どれだけ世間一般的に変なのかがわかっていないのだろう。


「堅石さんも、僕と隣同士の部屋に住んでるってのはあまり人に言わないようにね。東宮さんにはもうしょうがないけど」

「はい、私も友達である東宮さんには話しましたが、空野さんの手を借りないと一人暮らし出来ないということは、恥ずかしいので学校の人にはあまり知られたくはありません」


 うーん、そういう意味で知られちゃいけない、っていうわけじゃないんだけどね。


 まあ堅石さんが他の人に無闇に話さない、ということはわかったので、そこはいいか。


「わ、私は友達だから、話してくれた……! ふふっ、う、嬉しいな……!」


 東宮さんは堅石さんの言葉でニヤニヤと嬉しそうに笑っていた。


「東宮さんも、内緒にしてくれるってことでいいかな?」

「も、もちろん! 堅石さんと空野くんとは友達だし、友達が嫌がるようなことは言わないよ!」

「ありがとうございます、東宮さん」


 はぁ、東宮さんが話のわかる人で本当によかった。

 その後、そろそろ夕飯時になってきたので僕は夕食の準備を始める。


「東宮さんも、よかったら食べていく?」

「えっ、いいの?」

「うん、一人分増えたところでそこまで手間にはならないし、堅石さんも一緒に食べたいよね」

「はい、友達と一緒にご飯を食べるのはとても素晴らしく、お料理も美味しく感じます」

「と、友達……! ふふっ、じゃあ空野くん、お願いします……!」


 ということで東宮さんも夕飯を食べていくことになった。


 僕がキッチンで料理をしている間、二人はリビングで向かい合わせに座りながらお喋りをしていた。


「空野さんのお食事はとても美味しいので、ぜひ楽しみにしていてください」

「う、うん! そういえば今日の昼のお弁当も、空野くんが作ってたの?」

「はい。私の分は毎食、朝昼晩、全て空野さんに作っていただいております」

「す、すごいね……!」

「はい、空野さんにはとても感謝しております。少しでもその恩をお返ししたいと思っていろいろやっておりますが、まだまだ返しきれておりません」

「そ、そうなんだ。どういうことをしてるの?」

「たとえば最近ですと、空野さんのお背中を流そうと思い、ご一緒にお風呂に入ろうかと思いました」

「え、えっ!? や、やっぱりそういう関係……!?」

「ですが空野さんは断ってしまいましたので、私は考えました。前に空野さんは裸をあまり見せないように、とおっしゃっていたことを」

「は、裸を見せないようにって注意されるって、すごいね……?」

「だから空野さんが入ってる時に私は服を着たまま入り、背中を洗い流そうとしました」

「え、だけど空野くんはお風呂に入ってるから、裸なんでしょ……!?」

「もちろんです。ですが私は小さい頃、お父さんと一緒にお風呂に入り、背中を洗っていると『世界で二番目に気持ちいいよ、ああ一番は母さんな』と言われたことがありますので、背中を流すのには自信があります」

「そ、そうなんだ……!」

「だから空野さんにも私のお背中流しを体験して欲しかったのですが、『恥ずかしい』とのことで断られてしまいました。空野さんの裸はお綺麗で、特に恥ずかしがるところはなかったと思いますが」

「お、お綺麗って……! ぜ、全部見ちゃったの……?」

「全部ではありません。空野さんは頑なに男性器は見せないようにしていらしたので」

「そ、そりゃそうだよね……」

「ですがチラッと見えてしまいましたが、とてもご立派で特に恥ずかしがることはなかったと思います」

「ご、ご立派……!」


 ……なんか料理の音で二人の会話が聞こえないけど、すごい目で東宮さんに見られてる気がする。



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