第27話 堅石さんと登校



 ――翌日の朝。


 僕はいつも通り起きて、学校の制服などを着て準備をした後、堅石さんの部屋に行って彼女を起こす。


 今日も堅石さんは寝相が悪かったらしく、服を脱ぎかけていた。

 あともう少しで胸やら何やらがいろいろと見えてしまいそうだ。


 なぜか堅石さんは乳首や女性器を見せなければ大丈夫、と思っているようだが……一番それが見えそうなのは、朝なのかもしれない。


 今はまだ見えてないが、夏とかになってさらに薄着になったらどうなるのか……。


 そんなことを考えながら朝ご飯を作り、堅石さんと一緒に食べる。


 朝ご飯を食べている時に、僕は堅石さんに一つ提案をする。


「堅石さん、今日は一緒に学校まで行こうか」


 僕の言葉に、堅石さんは箸の動きを止めて固まった。


「……いいのですか? いつもは別々に登校していましたが」

「うん、まあ一緒のマンションから出るのはあれだから、少し先の公園とかで待ち合わせみたいにした方がいいともうけど」


 昨日、一緒に昼ご飯を食べただけであれだけの騒ぎになったのだ。


 僕と堅石さんが一緒のマンションに住んでいる、さらにはほぼ同棲をしていると知られたら、どれだけの騒ぎになるか想像も出来ない。


 これはなんとしてでも隠し通さなければ。


 だけど一緒に登校するくらいは、もういいだろう。


「堅石さんがいいなら、一緒に登校したいと思うんだけど」

「もちろんです。私も前々から、空野さんとご一緒に登校したいと思っていました」

「……うん、そっか」


 やっぱり、昨日一緒に帰宅した時にあれだけ喜んでくれたから、登校も一緒にしたいと堅石さんが思っているかもしれないと考えていた。


 それは当たっていたようだ。


 むしろずっと先に行かせてしまっていて、申し訳ない気持ちだ。


「帰宅とは違い、学校に一緒に行くのは毎日出来ますか?」

「うーん、出来るんだけど、さすがに毎日一緒に行ってたら勘違いされそうだからなぁ」

「勘違いとはなんでしょうか」

「その、僕と堅石さんが交際してるって勘違いされそうってこと」

「……なぜ、お友達と一緒に登校しているだけで、交際していると勘違いされるのですか?」


 本当によくわからない、といった顔でそう聞いてくる堅石さん。


 これも答えるのが難しいな。


「高校生は色恋沙汰にすごい敏感だから、男女が二人きりで昼ご飯とか食べたり、登下校をしたりすると、そういう話題になっちゃうんだよね」

「ですが友達と一緒に登下校、昼ご飯を一緒に食べるのはいいのでは?」

「いいんだけど、男女で二人きりってなると、なぜか交際しているって話題になるね」

「……よくわかりませんが、これも私が世間一般とは外れているからわからないだけなのかもしれませんね」

「うーん、僕も自分で説明しててわからなくなってきたから、堅石さんだけが外れてる、っていうのじゃないと思うよ」

「そうですか。では解決法としては、男女二人じゃなく同性の二人だったらいいのですか?」

「そうだね」

「……わかりました。では難しいかもしれませんが、私が性転換をして男に――」

「絶対にやめようね!?」


 堅石さんは時々そういうぶっ飛んだ解決法を繰り出すから、本当にビックリする。


「そうですか。では他の解決法としては、二人きりじゃなく、他の人もご一緒に食べるとかでしょうか」

「そうだね。それだったら少しはそういう噂は出てこないようになるかな」


 まあ昨日の時点で、すでに僕と堅石さんに関しての噂は流れているかもしれないけど。

 だけどあれだけ堅石さんが「友達」と啖呵を切っていたので、恋人という噂はまだ流れてないと思う。


 出来ればまだ恋人という噂が流れないうちに、堅石さんに他の友達を作ってもらい、一緒に登下校なり、ご飯を一緒に食べたりをして欲しい。


 そこに僕が加わるかどうかは、新しく作る友達次第、といった感じかな。


「とりあえず大丈夫だと思うから、普通に一緒に登下校したり、一緒に昼ご飯は食べられると思うから」

「……はい。ですが空野さんにご迷惑になるのであれば」

「ううん、僕は全然迷惑じゃないよ、堅石さん」


 堅石さんは昨日も嫌われたり、とか考えていたけど、意外とこういう話題になるとマイナス思考になるみたいだ。


「むしろ堅石さんと僕が一緒にいることで、他の人が噂を流したりして、堅石さんにまた昨日みたいな迷惑がかかるもしれないけど」

「あれくらいであれば全く問題はありません。それよりも空野さんと一緒にいたいという気持ちの方が大きいです」

「そ、そっか、ありがとう」


 くっ、堅石さんは気持ちを正直に伝えてくるから、心臓に悪い……。


「僕もそれくらいだったら堅石さんと、その、一緒にいたい気持ちが強いから。だからまあ、気にしないでいいのかな」

「そうですか、空野さんも同じ気持ちで嬉しいです。では学校で一緒に過ごしても、問題ないですね」

「そう、だね」


 もともと堅石さんと学校で友達だと公表すれば、騒ぎになることはわかっていたことだ。

 堅石さんが気にしないのであれば、僕も気にする必要はないだろう。


 ……ちょっと注目を浴びすぎるかもしれないけど。



 そして今日は一緒に登校したのだが、やはりいろんな生徒達に見られる。


 堅石さんは二年生だけじゃなく、一年生にも三年生にも有名だから、こちらを見ながらヒソヒソと話されているのがわかる。


「空野さん、お友達と一緒に登校することによって学校に行くまでの時間がより楽しいものとなり、相乗効果で学校に行くのも楽しくなりそうです」

「……そっか、よかったよ」


 堅石さんも周りのことは気づいていると思うけど、全く気にした様子はない。


 いつも通り、とても可愛らしく嬉しいことを言ってくれている。


 僕も少しはこういう視線に慣れないとな。



 そして学校に着いて教室に一緒に入ると、やはりまた注目を浴びる。


 多昨日の帰り際に堅石さんが怒ったこともあって、少し気まずい雰囲気が流れていた。


 だけど特に気にすることなく堅石さんは自分の席に座り、僕も座った。


 僕と堅石さんの席は離れているので、昼休みまでは特に話すことはなかった。


 昼休み、いつもだったらこのまま自分の席で待っていたら真也が来るんだけど、今日はすでに真也に「ごめん、他の人と食べるから」と言ってある。


 昨日はそれをせずにいたから、申し訳なかった。

 カバンから弁当を取り出し、それを持って堅石さんの席まで向かう。


 ……やはりクラス中から注目を浴びているなぁ。


「堅石さん、食べよっか」

「はい、よろしくお願いします」


 ご飯を一緒に食べるだけにしてはお堅い挨拶をされてから、僕と堅石さんは一緒に食べ始める。


 昨日よりは注目は浴びてないようだが、それでもこちらを気にしている人はたくさんいた。


「空野さん、このお弁当の中身は昨日の残り物ですか?」

「……うん、そうだよ」

「なぜ声を抑えているのですか?」


 教室内はザワザワとしているから僕達の会話が聞こえている人はいないと思うけど、さすがに今の話題は怖い。


 下手したら僕と堅石さんが、ほぼ一緒に住んでいることがバレてしまうから。


 そういえば彼女にはまだ、「隣の部屋同士で住んでることは内緒にしよう」とは言ってないかもしれない。


 今日帰ったら言っておこう。


「そ、空野くん!」

「ん?」


 堅石さんと二人で食べている最中に、話しかけられて振り向く。

 するとそこには昨日も話しかけてきた、東宮えりかさんの姿があった。


「どうしたの?」

「わ、私も、その、一緒に食べていいかな……?」

「えっ?」


 まさかの言葉に、僕は驚いてしまった。

 堅石さんは特に顔色を変えていないが、東宮さんの方を見上げている。


 東宮さんも立ったままだけど、堅石さんと視線が合うとビクッとしていた。


「あなたは、東宮まりかさんですね」

「あっ、わ、私のこと、知ってくれてるんですね」

「もちろん、クラスメイトの名前と顔くらいは一致しております」

「そ、そっか、ありがとう」

「礼には及びません。東宮さん、なぜ私達と食べるのですか? 東宮さんはいつも他の方と食べているのでは?」

「そ、そうなんだけど、二人と一緒に食べたいと、思って……」

「だから、その理由をお聞きしているのですが」


 いつものお堅い、人を寄せ付けない感じの堅石さんだ。

 僕も最初に話した時はあんな感じだったけど、あれが堅石さんなんだよなぁ。


 仲良くなるまでがすごい時間がかかるというか、堅石さんはおそらく人見知りだから、少しキツく当たってしまっているのかもしれない。


 そして東宮さんも人見知りで堅石さんの言葉にビクビクしているけど、しっかり堅石さんと視線を合わせていた。


「二人と……と、特に堅石さんと仲良くなりたいなぁ、と思って」


 普通の人なら引いてしまうところを、東宮さんは挫けなかった。

 去年からクラスが一緒で彼女のことを知っている僕だけど、堅石さんの強い言葉に負けないのは意外だった。


「私と、ですか? 別に仲良くなる必要があるとは思えませんが」


 か、堅石さん、普通に疑問に思ったから言っただけだと思うけど、言い方がキツすぎないかな?


「ひ、必要、とかじゃなくて……私が、堅石さんと仲良くなりたいだけで……」

「なぜ仲良くなりたいのですか?」

「か、堅石さんと、お友達になりたいから……!」

「っ、お友達に……私とですか?」

「う、うん……!」


 不安げな顔をしながらもそう言い切った東宮さんに、堅石さんは少し目を見開く。


 どうやら「お友達」という言葉には弱いらしい。

 友達が欲しいということで、一人暮らしまで始めるほどだ。


 堅石さんは少し悩むように下を向いてから、顔を上げて僕に聞いてくる。


「空野さん、私は東宮さんもご一緒してもいいと思いますが、どうでしょうか?」

「うん、僕もいいよ」

「そうですか。では東宮さん、ご一緒しましょう」

「あ、ありがとう、お邪魔します……!」


 ということで、まさかの東宮さんが昼ご飯に参加した。


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