第24話 堅石さんとお友達に
薫さんが襲来した、二日後の月曜日。
あの人が来た時に、いろいろとあって濃厚な一日だったけど……。
忘れちゃいけないのが一つある。
それは、堅石さんは友達が欲しくて一人暮らしを始めたということだ。
なぜ友達が欲しいと思って一人暮らしを始めたのかはわからないけど、それは置いておこう。
大事なのは、堅石さんは友達が欲しいということだ。
僕と友達になったということで、あんなに喜んでいた堅石さん。
だから堅石さんには、友達を作ってもらいたい。
僕はもとから堅石さんの近くにいて、友達だと認識しただけだ。
それだけであんなに喜んでくれたから、他の友達が増えたらもっと喜んでくれるだろう。
ということで、学校行く前の朝ご飯に、堅石さんと話す。
「堅石さん、友達ってやっぱり欲しいよね?」
「……空野さんが友達になってくれたのではないのですか?」
「いや、そうだけど」
「も、もしかして、やっぱりお友達はやめるということですか? なぜでしょうか? り、理由をお聞かせ願いたいです」
「ち、違う違う! 僕と堅石さんは友達だよ!」
勘違いをした堅石さんは、いきなり声を震わせて少し涙目になってしまった。
僕がすぐに否定すると、彼女は安心するようにホッと息をついた。
「安心しました。昨日の夜は空野さんとお友達になれた嬉しさで、少し夜更かししてしまいましたから」
「そ、そうだったんだね。そんなに喜んでもらえたならよかったよ」
やっぱり堅石さんにとっては、家族みたいな「お兄さん」よりも、普通の「友達」が出来た方が嬉しいようだ。
まあ堅石さんはお姉さんが苦手なようだし、お兄さんとかはそこまで求めていなかったのかもしれないな。
「それで堅石さん、僕以外の友達も欲しいよね?」
「そうですね。もちろん欲しいですが、そう簡単にお友達というのは出来ないというのはわかっております」
「う、うーん、どうだろうね」
堅石さんは友達作りが特別なものと思ってしまっているから、普通の人が思うよりも難しく感じているのだろう。
今までずっと友達が出来なかったらしいから、そう思うのは仕方ないかもしれない。
「僕の他にも友達が欲しいなら、協力するからさ」
「いいのですか? 空野さんとお友達になったばかりなのに、他のお友達に浮気なんかしても」
「いや、それを浮気とは呼ばないと思うけどね」
確かに堅石さんが他の人達と仲良くなるのは、僕にとっては少し寂しいかもしれない。
だけど友達を作りたいと堅石さんが言うなら、それを手伝いという気持ちの方が断然大きい。
「……空野さん、とても嬉しいのですが、今はまだお断りしてもいいでしょうか」
「えっ、友達作るのを? どうして?」
「もう少し頑張って、自分の力でお友達を作りたいと思います。空野さんとお友達になれたのも、薫さんが一言助言してくれたお陰でしたので」
「……そっか。うん、僕は応援してるから。いつでも力になるから、困ったら言ってね」
「はい、よろしくお願いします」
堅石さんが自分の力で頑張るというなら、僕は見守るだけだ。
「空野さん、これは友達作りの頼みではなく、友達としてのお願いがあるのですが……」
「うん、なに?」
「学校のお昼休みに、ご一緒に食事をしませんか?」
「……えっ?」
堅石さんの言葉に、僕は一瞬だけ固まってしまった。
「小学校と中学校までは給食の時間で、近くの席の人達と固まったりして食べるということをしていましたが、高校からは自由に誰とでも一緒になって食べられるとのことで、友達と食べるということを羨ましく思っていました。なのでぜひ初めてのお友達である空野さんとご一緒に食べたいと思ったのですが、どうでしょうか?」
僕が固まったのを断られると勘違いしたのか、とても早口で理由を言った堅石さん。
よく聞けば「友達と食べたい」という、普通の理由だ。
そういえば堅石さんはいつも一人で食べている。
勝手に堅石さんは一人で食べる方が好きだと思っていた。
おそらくクラスの人達もそうだ、堅石さんは一人で食事をして、終えたら本を開いたり次の授業の予習をしてたりする。
周りの人が、僕が勝手に思ってただけだ。
「いいよ。一緒に昼ご飯を食べよっか」
「っ、いいんですか?」
「もちろん、友達だからね」
「……ありがとうございます」
口角が上がり目尻が下がった、嬉しそうな笑みを浮かべる堅石さん。
昼ごはんを一緒に食べるだけで、これだけ堅石さんが喜んでくれるなら、お安い御用だ。
それが……クラス中、下手したら学校中から注目を浴びることになったとしても。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます