第23話 堅石さんと変態?
堅石は、一から説明していった。
堅石もいろいろと恥ずかしかったり、申し訳ないと思いながら、淀みなく話していった。
「……というわけで、勝手に空野さんの下着を嗅いでしまったので、空野さんにも私の下着を嗅いでもらいたいということです」
「……うん、堅石さん、まず一個聞いてもいいかな?」
「どうぞ」
「堅石さんってそういう趣味がある、変態じゃないよね?」
「そういう趣味というのは? 変態と言われても、私は昆虫ではありませんので、変態はしません」
「そういう意味の変態じゃないんだけどね。まあ多分純粋に気になったからしたことだと思うんだけど……」
ため息をついて頭を抱える空野。
「まず勝手に下着を手に取って、嗅いじゃダメだよ。変態っぽいし」
「それに関しては、申し訳ありません。もう二度としません……それと、変態とはなんでしょう?」
「うーん、説明が難しいね。普通の人とはすごい変わってる人、みたいな感じ」
「それはやはり悪い意味なのですか?」
「うん、世間一般的には。そうだなぁ、堅石さんのお姉さんがいるでしょ? お風呂の時に堅石さんのその、身体を触ってきたとか」
「はい、鬱陶しくて面倒で苦手でした」
「失礼かもしれないけど、その人は世間一般的には変態に分類されるかも」
「なるほど、とてもわかりやすいです」
姉のような変態にはならないようにしようと思う堅石だった。
「では空野さん、ブラジャーとパンツ、どちらを嗅ぎたいですか?」
「どっちも嗅がないからね!?」
「だけど嗅ぎたいと言ってなかったですか?」
「いや、言ってない……と思うよ。うん、確かそれは薫さんが言ってたと思う」
「そうでしたか? ですが今、言ったかどうか迷ったということは、思ったことはあるということですか?」
「……いや、その」
「あるのでしょうか?」
「堅石さん、こういうのは、思っても言わない方がいいことなんだよ」
目線を逸らしながらそう言った空野。
やはり思ったことはあるようだ。
「思うこともそうなんだけど、言った方が変態に近づいちゃうんだよ」
「変態に近づくのはやはりダメですか?」
「うん、自分が変態に近づくのもダメだし、変態の人に近づくのもダメかな」
「わかりました」
堅石はこれから変態というもの、つまり姉の夏樹にはなるべく近づかないようにすることに決めた。
「だけど空野さんは嗅ぎたいと思ったことがあり、私はすでに嗅いでしまったので、等価交換として嗅いで欲しいのですが」
「いや、だからそれは、その……僕も変態になりたくないから、嗅ぎたくないかな」
「……な、ならすでに嗅いでしまった私は、変態ということでしょうか」
姉の夏樹と同類の変態など、少し、だいぶ嫌である。
空野は目を逸らして、言いづらそうにしながら。
「……まあその、変態っぽいことは確かだね」
堅石はその言葉に、頭を殴られたかのようなショックを受けた。
「そ、そうですか……夏樹姉さんと同じ、変態……」
「だ、大丈夫だよ、まだ堅石さんは、お姉さんほどの変態じゃないと思うから」
「つまり、すでにその域に一歩踏み出してしまっているということですね」
「こ、これ以上は踏み入らないように、気をつけよう!」
「……わかりました」
堅石はショックを受けながらも、これ以上姉のような変態にならないと決意する。
「……空野さん、下着を嗅ぎませんか?」
「えっ、この流れで嗅ぐと思う?」
「空野さんも、変態になりませんか?」
「そんな勧誘、初めて聞いたよ」
「小さい頃『みんなでやれば怖くない』と聞いたことがあります。つまり空野さんも変態になってくだされば、怖くないかなと」
「僕は嗅がないし、二人で変態になっても意味わからないから」
ということで、堅石は自分だけ空野のパンツを嗅いで変態へと近づいてしまった。
数時間後、空野が自分の部屋に戻り、堅石が一人で寝室で寝ようとしていた。
夜の十一時に布団に入って、数十分後。
いつもならとっくに夢の中へ入っているのだが、堅石はまだ目が覚めていた。
今日の出来事は、堅石にとっては特別なことだったからだ。
「……お友達。空野さんと、お友達」
生まれて初めての、友達が出来た。
その興奮が今もあって、すぐに眠りにはつけていなかった。
しかも生まれて初めての友達が、空野というのが堅石にとってさらに嬉しいことだった。
すごく優しくて、とてもいい人で、一緒にいて安心する。
家族のようだと思っていたけど、まさか友達になれるなんて。
(自分の中で空野さんに対して特別な思いがありましたが、それがおそらく友達になりたい、ということなのでしょう)
空野といるとメイドの薫や、父親や母親、姉の夏樹などとは違う感情、想いが芽生えていた。
それがおそらく、友達と一緒にいる時に生まれるものなのだろう。
(友達とは、やはりとてもいいものですね。もっともっと、空野さんと仲良くなりたいです)
堅石は、友達よりも上位の存在を知っている。
それは、親友。
字にすると「親しい友達」で親友だ。
もともと親しい仲のことを友達と呼ぶのに、さらに親しいとわざわざ漢字にしてまで書くのだから、すごい仲が良いのだろう。
(もっと仲良くなれば、親友というものになるのでしょうか)
いつか、空野と親友になりたい。
(……親友以上は、あるのでしょうか。空野さんとは、どこまでも、特別で……)
そんなことを考えていると、眠気が来てしまい……堅石は、とても穏やかな気持ちで眠った。
一方――堅石の実家では。
「ご主人……」
「ん? 薫か、どうした? そうだ、今日はゆきのところに行ったんだったな。どうだったか、元気だったか。慶次の息子とは上手くやってそうか?」
「天誅!!」
「ぐはっ!?」
メイドの薫が主人の堅石義明に暴力を振るって、騒ぎとなっていた。
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