第19話 堅石さんと三者面談
いろいろと混乱していたので、一度落ち着くために座って話す。
僕が堅石さんの隣で、僕達の前に薫さんが座っている。
「えー、ゆき様、空野さん。いろいろとお聞きしたいことがあります」
……なんだか三者面談みたいだ。
「まずは空野さん」
「は、はい」
「改めてお聞きしますが、あなたはゆき様の何なんでしょう?」
「……えー、隣室に住んでいる高校のクラスメイトですかね」
自分で言ったけど、少し無理があるなぁ、と思った。
ただのクラスメイトだったらこうしてほぼ一緒に暮らしたりはしないだろう。
「それだけだったらなぜあなたは、ゆき様の裸を見たり抱きついたりしてるんですか?」
「そ、それは、えっと……」
「薫さん、それは私がお答えします。裸を見たというのは正確に言いますと、私の大事な部分以外の裸体を見たということです。乳首や女性器については見られておりません」
「なるほど、それならよかった――とはなりませんよ!? それ以外は見られたということですか!?」
「そうですね」
「ダメです! というかなんで逆にち、乳首と、じょ、女性器だけ見られてないんですか!? そういうプレイでもしているんですか!?」
「プレイ、とは? 遊びのことですか?」
「あ、遊び!? ゆき様、そういう行為を遊びだと思われているのですか!?」
「薫さん、一旦落ち着きましょう! 僕、コーヒー淹れますんで!」
またいろいろと話が転がっていき、よくわからない話になってしまった。
なのでそこでストップをかけた。
「薫さん、コーヒーは飲めますか? ミルクやガムシロは入れますか?」
「……いつもは甘めで飲んでますが、今はブラックで飲みたい気分です」
「わかりました! 堅石さんは、いつものでいいですか?」
「はい、よろしくお願いします」
「くっ……なんだかさらにブラックが飲みたい気分になりましたよ」
なぜかはよくわからないが、ブラックコーヒーがそれほど飲みたいようだ。
インスタントなので粉を入れて適当にお湯を入れて、三人分のコーヒーを出す。
とりあえず話を区切ることが出来たからよかった。
「ふぅ……ゆき様、とりあえずこれからは、空野さんに肌を露出しないようにしてください。その、そういうプレイじゃない限り」
「薫さん、僕からもそれはお願いしてますし、あとそういうプレイじゃないですからね」
「はい、空野さんからも言われたので、これからはあまり見せないようにします」
絶対、と言い切らないのが少し不安だけど。
「まだ最初の質問の答えをしっかり聞いてませんが……では質問を変えましょう。お二人はどういう生活をしているのですか?」
「どういう生活って……」
「一日の流れを説明してください。ゆき様の生活をどういうふうにお手伝いしているのかを聞きたいのです」
「そうですね。まず、僕は起きたらすぐに堅石さんの部屋に行って、起こします。それで……」
「ちょっと待ってください。えっ、毎日起こしにいってるんですか?」
「はい、そうです」
「同じ部屋で寝てるのですか……?」
「いや、僕は隣の部屋で寝てますよ」
お風呂などはもう堅石さんの部屋で入ってしまっているが、堅石さんの部屋で寝たことは一度もない。
「た、確かにゆき様は自分で起きられないですが……ん? ちょっと待ってください。ゆき様は寝ている時に服を脱ぐ癖があります」
「……そう、ですね」
「そうですね!? つまりゆき様の裸を見ているということですか!?」
「い、いや! それはないです! いつもギリギリのところで止まってます!」
「本当ですか? ゆき様が朝に弱いのをいいことに、いろいろ触ったり脱がしたりして……?」
「してませんから!」
「それと、空野さんは隣の部屋に暮らしてるのに、なんで普通にゆき様を起こしに来れるのですか? まさかゆき様、部屋の鍵をずっと開けっぱなしにしているのですか?」
「いえ、そんなことはしてません。ただ空野さんに合鍵を渡しているだけです」
「……あ、合鍵をですか?」
「はい」
堅石さんが当然かのごとく頷いたが、薫さんは呆然とする。
普通は男性に自分の家の合鍵なんて渡さないよね、家族や恋人じゃない限り。
薫さんの反応が正解だと思う。
「えっと、説明を続けていいですか?」
「……あっ、はい、お願い、します」
薫さんはまだ少し立ち直ってなさそうだったが、僕はとりあえず話を続ける。
「堅石さんを朝起こしにきて、僕はそのまま堅石さんの部屋で朝ご飯を作って一緒に食べます。それで学校でのお弁当も作って堅石さんに渡して、学校へ行きます」
「いつも美味しい朝ご飯、お弁当を作っていただき感謝しています」
「ふふっ、堅石さんが美味しいって言ってくれて、僕も嬉しいよ」
「……見せつけられてます?」
ん? なんか薫さんがボソッと言った気がするけど、聞こえなかった。
「学校では特に堅石さんとは喋りません。僕と堅石さんが隣同士で暮らしているなんて学校の人達に知られたら、面倒なことになりますから」
「まあ、そうでしょうね」
これには薫さんも同意してくれるみたいだ。
堅石さんは「別にいいのでは?」と思っているのだが、一応内緒にしてくれている。
「それで学校が終わったら、僕がバイトがある日はバイトに行って、帰ってきたら堅石さんの部屋で夕飯を作って。その間に堅石さんはいつもお風呂掃除とかをしてくれます」
「一人で出来るようになってからは、私の仕事ですから」
そう自慢げに語る堅石さん、子供が親の手伝いが出来るようになって喜んでいる感じがあって、なんだか微笑ましい。
薫さんもそう思ったのか、優しい笑みを浮かべている。
「それで一緒に夕飯を食べて、終わったら学校の宿題とかを二人でやったり、リビングで並んで本を読んだり、テレビを見たりして……寝る時になったら僕は自分の部屋に戻る、という感じですね」
「……なるほど」
一日の流れを説明し終わり、薫さんが一度目を瞑って何か考える。
そして目を開けて……。
「ゆき様と空野さんは、お、お付き合いしているということですね……!」
「……えっ?」
薫さんが引き攣った笑みを浮かべながら言った言葉に、僕は驚いて声を上げる。
「い、いや、付き合ってませんよ!?」
「付き合って、ない? ほぼ半同棲に近いことをしておきながら、付き合ってないんですか?」
「いや、確かに半同棲に近いかもですが……! つ、付き合ってはないです!」
「じゃああなたは、付き合ってもないのにゆき様の裸を見たり抱きついたりしたってことですか!?」
「またその話をぶり返しますか!?」
確かに恋人じゃない限り抱きついたり、は、裸を見たりなどはしないかもしれないが、僕達は付き合ってないのは確かだ。
「ゆき様、本当に付き合ってないのですか!?」
「付き合うというのが男女の交際という意味であるなら、私と空野さんは付き合ってはおりません」
「ほ、本当ですか?」
「はい、本当です」
やはり薫さんは堅石さんの言うことなら信じてくれるようだ。
「じゃ、じゃあ、お二人の関係はどういうことですか!? 私も恋愛経験などはほとんどないですが、お二人の関係は世間一般でいえば、交際関係にある男女みたいな感じだと思いますよ!」
「そうなのですか? よくわかりませんが、交際していないのは確かです。しかし――私は、空野さんのことが好きです」
「……へっ?」
堅石さんの言葉に、薫さんは首を傾げて理解出来てないようなボーッとした顔をした。
僕もその言葉にドキッとしたけど、これは……。
「空野さんと一緒にいると安心して、とても心地がいいです。交際関係ではありませんが、私は空野さんのことを家族のようだ、と感じています」
そう、前にも堅石さんが僕のことを「お兄さんのようだ」と言っていたので、そういう意味での「好き」という話だろう。
だ、だけど僕も今、すごく勘違いをしてしまいそうになった……危なかった。
「空野さんも、そう思ってくれますか?」
「そ、そうだね。僕も堅石さんのことは、家族みたいに大事だと思ってるよ」
「……はい、とても嬉しいです。両想いですね」
「う、うん」
だから、そんな優しい笑みを浮かべて言わないでほしい、勘違いをしてしまいそうになるから。
「か、ぞく……もう恋人を超えて、家族……」
ほら、勘違いしている人がすでに出ている。
薫さんは虚空を眺めながら頭をふらつかせていた。
「大丈夫ですか、薫さん? あの、今のは別に恋人を超えてるわけじゃなくて……」
「ふ、ふふふ……もうゆき様は、私よりも大人になってしまわれたのですね……」
「いえ、まだまだ薫さんには及びません。頑張って経験を積みたいと思います」
「わ、私は別に、そんな経験豊富じゃないですからね!?」
「薫さん、堅石さんは多分だけど家事のことを言ってるだけですからね」
なんだかまたすれ違いが起こっているようなので、僕がそう訂正した。
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