第7話 同級生は売れっ子
東京都千代田区 神保町 某所
高級割烹料亭の個室でカドカワbooksの角田はエビスビールを飲みながら、こんな高そうな料亭で待ち合わせするとはさすが売れっ子だなあと思いながら、ある人物を待っていた。
グラスの半分がなくなるころ、待ち人が個室に入って来た。
「角田、久しぶり元気だった。ごめんな遅れて。」
「いや、全然。それより、奥矢もすっかり一流マンガ家だよなあ、こんな高そうな料亭知ってるなんて。」
「一流じゃないよ、言い過ぎだよ、まだまだですよ。まあ、ここは良く集英社の人と打合せで使ってるからだよ。でも、角田は商社に就職決まって勤めてただろ、いつの間に出版業界に転職したんだよ。」
「マンガ描くのが好きで漫研に入ったけど、いざ周りを見渡すと、俺より上手い人いっぱいたじゃん。それで、プロは無理だと思ってたんだよね。その中でも奥矢は飛びぬけてたよなあ。
だって、既に在学中にあの『GANSO』半分ぐらい描き終わってたもんな。絵も上手かったけど、設定とか世界観がすごかったもん。それで潔く、マンガを描くのは大学生までで、ちゃんと就職しようと思って商社に決めたんだけど、、、働いてるうちに何となくモヤモヤしてさあ、やっぱりマンガが好きでせめて作り手側で参加したいなあと思って転職したんだよ。」
「そうかあ、で、今はカドカワか。」
「一つだけ、奥矢に確認したいことがあるんだけど。お前の『ねこ屋敷』っていう作品さあ、俺が大学時代に書いた『ネコトラマン』をパクってない?」
「何、『ネコトラマン』って?」
「いや、お前の『ねこ屋敷』は、異星人が日本の公園に着陸した時に、たまたまそこにいた、お婆さんと高校生の男の子が着陸時の影響で二人とも死んでしまったから異星人が生体系維持の為に改造人間として生き返らせるけど、高校生の方が悪用して能力を大量虐殺使ってしまい日本を恐怖に陥れるのを、お婆さんはその能力を使って阻止する話だよなあ。」
「ま、まあな。」
「俺の『ネコトラマン』は、宇宙怪獣によって街が破壊されている最中に、お婆さんが子猫を助けようとして亡くなってしまったんだが、その子猫は実はネコトラ星から来た、宇宙ネコでお婆さんを生き返らせる為に、お婆さんと一体化し、ネコトラマンとして怪獣を倒す話なんだよ。そっくりだよなあ。」
「いやいやいや、そもそも『ネコトラマン』の時点でウルトラマンをパクってんじゃん。それとだいたいその作品知らんし。大学時分に発表してないだろ。」
「ハハハハハ、バレたか。一応大学時分に書いたんだけど恥ずかしくて発表しなかったんだよ。それはどうでもいいだけど、今度うちでも書いてくれよ。」
「いやー、お前んとこムッチャ安いし、出版界のテレビ東京って言われてるからなあ。」
「何言ってんだよ、テレビ東京今メチャクチャ若い子に人気なんだぞ。予算がないなりに知恵を絞ってるから色んなエッジの聞いた番組が出来んだよ。」
「まあ、そうだよなあ。実は俺もテレ東好きだけどな。ところで今カドカワで何やってんの。」
「実は、まだ極秘だけど『女スナイパーは派遣社員⁉』って知ってるよな。」
「もちろん、映画も見たよ。すごい面白かったなあ。ストーリーの展開がいいよね。えっ、その関連の仕事してるの?でも、確かソニーグループだったよね、制作は。」
「そう、実は原作者のコージ先生がソニーと複数年専属契約してんだよ。」
「へえー、そうなんだ。それなのに何で『女スナイパーは派遣社員⁉』の仕事を角田がしてんの?」
「いや、『女スナイパーは派遣社員⁉』じゃなくて原作者のコージ先生にうちでファンタジー作品を書いてもらおうとしたんだけど、契約があるじゃない、だから直接じゃなくて知り合いの石原さんて人がいて、その人に書いてもらってコージ先生が監修という形で参加していただいたんだ。契約上は問題ないらしい、うちの法務部に確認とったから。」
「すごいじゃん!コージ先生に書いてもらってるようなもんでしょ。」
「一つ問題があってね、うちは最初ファンタジー小説から入って、マルチメディア戦略の展開を考えてたんだけど、その石原さんの文章が中二レベルで小説無理ってなっちゃって。今マンガの原作としてスタートすることになったんだよ。この話他言無用だからな。」
「おう、もちろん、もちろん。所でどんなストーリーなの?」
「まあ、ファンタジーなんだけど、桃太郎のその後の話なんだよ。」
「桃太郎の続編?面白そうじゃん。」
「一般的な桃太郎はさ、犬・キジ・猿が登場するんだけど、実は桃太郎と一緒に行ったのは能力者でその存在をカモフラージュする為に、犬・猿・キジで表現している設定なんだよ。俺たちが知っている桃太郎だと、最後鬼ヶ島で鬼退治してお金や財宝を取り戻すってことになってるけど、この作品は、桃太郎は一緒に戦っている内に犬・キジ・猿で表現した3人の能力者の能力をコピーしてしまい、結果帰路の途中で桃太郎はお金と財宝を独り占めして東北に逃げて行ったところからスタートする話なんだよ。」
「ヤバイな、そのストーリー。それで。」
「3年後に鬼の子孫の鬼姫がやってきて、犬・キジ・猿の3人と一緒に桃太郎に復讐する旅に出かけるっていう、ファンタジーの流れかな。」
「いやあ、さすがコージ先生が監修しることはあるよな。メチャクチャ面白そう‼で、作画はだれが担当するの?」
「いや、まだ決まってなくてタッチが合いそう先生をピックアップしてるところだよ。」
「ストーリーは結局どうなるの?」
「最終的には、桃太郎から財宝を奪い返すんだけど、帰路の時にキジと鬼姫が財宝を持ち逃げするんだよ。キジは飛ぶ能力があるからな。」
「じゃあ、駆け落ちみたいだな、ハハハハハ」
「いや、最後、キジは鬼姫に殺されるんだよ。」
「えっ、マジか。これ単行本何巻想定なの。」
「今決まってるのは3巻で、後は反響をみてからだな。」
「わかった。その話、俺に描かせてくれ!」
「本当に?いいの、安いよウチ。」
「いいよ、その代わり単行本のイニシャル多めにしてな。」
翌日、角田は意気揚々カドカワ プロダクツマネージメント室に向かって歩いてた。到着するとマネージャーの西藤が、
「角田くん、よくあの奥矢先生の執筆OKもらったなあ。快挙だよ。今日来てもらったのは他でもない。実は、ウチで新しくマンガ週刊誌の『ヤングカドカワ』を創刊することになっててな、奥矢先生のこともあったから、そこのメインすることになったから。後タイトルなんだけど、『The fact of peach boys』は分かりにくいから『北の果て(ノーザンライト)』に変更すうように藤原に言われたからよろしくね。」
「週刊誌ですか、いいですね。わかりました。」
(『ヤングカドカワ』って古くない、おっさんしか読まないよ。それに勝手にタイトル変更して競馬かっ!!)
「あと、表紙はTシフトで頼むな。」
「あの、西藤さんすいません、Tシフトって何ですか。」
「ああ、そうか角田くんの世代じゃ、最近使わないよな。業界用語なんだけど、ドリフターズは知ってるだろ。」
「志村けんさんや加藤茶さんがいたグループですよね。それ位しか分からないですけど。」
「昔、ドリフターズが土曜の八時に『8時だよ全員集合!』という番組をやってて、当時は子供たちに大人気だったんだ。だが、やがて、漫才ブームがやってきて、その時にスターになったビートたけしやさんま、島田紳助が出演した『オレたちひょうきん族』同じ土曜日の八時に放送開始されると瞬く間に若者を中心に人気になってみるみるうちに『8時だよ全員集合!』の視聴率に迫って来たんだ。」
「それで、どうなったんですか。」
「そこで、『8時だよ全員集合!』が取った対策がTシフトだったんだ。簡単に言うとメンバーの高木ブーのセリフをほぼカットし、替わりに人気者の志村けんや加藤茶の登場シーンを増やす手法だ。実際これが功を奏して『オレたちひょうきん族』の追撃を一時期だけどかわしてな、それが出版業界にも使われるようになったんだ。」
「具体的にはどのようにすればいいですか。」
「表紙のレイアウトを監修 ウルトラコージ×作画 奥矢浩を極力大きくし、作 石原を見えない位に小さくすればいいんだ。じゃ頼んだよ。」
角田は携帯CMの字幕みたいなもんかと想像しながらプロダクツマネージメント室を後にした。
2か月後、ヤングカドカワは創刊号が発売された。表紙は予定通りにTシフトにレイアウトされ、また、奥矢先生とコージの対談記事も一緒に掲載したため、ほとんどの人が原作者をコージと勘違いした。そのかいもあって『北の果て(ノーザンライト)』はヤングカドカワのメイン作品として大ヒットした。当初は3巻で完結予定にしていたが反響の良さもあり、桃太郎との対決後、帰路の最中に金太郎や宮本武蔵など著名人?を強引に登場させ延命させることに成功した。当然、カドカワグループはアニメ・ゲーム・映画へと特にのマルチメディア戦略を展開し結果、カドカワホールディングスとして過去最高の経常利益を達成し、グループ内の社員は賞与に反映されたことにお祭り騒ぎで盛り上げってる最中、角田だけが石原の才能に気づいたのだった。
女スナイパーはファンタジスタ? 夕哉圭シロー @yuyakeshirou
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