夏祭りの夜に
瑞葉
夏祭りの夜に
蛍が、小さな細い川のほとりをつうーっと飛んでいった。人魂みたいなほのかな光だった。
幻かなと思ったけれど、君も見ていたね。
二人は、花火がもうすぐ打ち上がる夏祭り会場ではなく、こんな寂しい川のほとりにいる。
僕たちは確かに二歳違いの兄妹だ。だけど、最近お互いを意識してしまって、なんだかすごく困るんだ。
君が来いというから、こんな川辺に来たけれど、二人きりは困る。
「お祭り、行かなくて良かったのか。クラスの子に誘われてたろ」
無難な話をする。僕だってお祭りに行きたかった。今頃、綿飴やクレープを売っている出店をぶらつくつもりだったんだ。男同士は一緒にお祭りに行く約束なんかしないけれど、歩いていたら自然とクラスや部活の奴らと合流できたろうに。
川のほとりは風が冷たい。君が冷えないといいけれど。
「月が水に映って綺麗だね。お兄にわかるかなー。この景色のよさ」
君は不器用な笑い声をさせた。暗くて今は見えないけれど、笑うと出っ歯が口からのぞくんだ。
出っ歯も、女子にしては短い髪も、日焼けした肌も。抱きしめたいくらい愛しい。でも、君はただ笑ってるだけだ。だから、僕も笑ってた。
腕時計のアラームが鳴った。九時に設定していたのだ。
同時に、夏祭り会場で花火が打ち上がった。
夜空をまばゆい赤や黄色に染めていく。
「遠くにいた方が良く見えると思わない?」
君が言った通り、この川のほとりは、花火を見るのに絶好のところだったんだ。
花火が終わるまで、無言で見ていた。
「もうすぐ九時半だね。門限だから帰らないとね。お祭り、終わっちゃうね」
まだ名残惜しそうに空を見上げている。その横顔が見られただけで、僕は幸せなんだ。
夏祭りの夜に 瑞葉 @mizuha1208mizu_iro
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