北方地域・影武者女王【デス・ウィズ】〔外科医キリル・キルの狂愛〕②

 小一時間後──外科処置室の術式ベットの上に全裸に剥かれ、首から下に手術シーツを被せられて仰向けで横たわる暗殺者メイドの遺体があった。

 術式着に着替えた、六本腕のキリル・キルが、暗殺者メイドの遺体を見下ろしながら言った。

「術式開始……これより、新たなデス・ウィズさまをお作りする」


 キリル・キルの体には自己移植した、たくましい男性の腕と、繊細な女性の腕が生えていた。

 さらに、キリル・キルの両目の目尻から繋がる、二つの目も術式の効率を上げるために移植されている。

 たくましい男性の腕と、繊細な女性の腕と、本来の自分の腕の計六本の腕を持ち。

 四つの目を持つ闇の外科医キリル・キル。


 暗殺者のメイド遺体を、女王の影武者に作りかえ生き返らせるために行われる狂気の術式。

 最初は、治療方法が無かった奇病で余命少ない心優しい女王だったデス・ウィズが。

 国民を悲しませたくない一心から、涙ながらにキリル・キルに託した遺言からはじまった。


「わたくしが死んだら、そのコトは百年間隠し通してください……国葬も不要です、この貧しい国を担う未来の子供たちを増税負担で苦しませたくはありませんから──蘇生処置は行わないでください」

 そう言い残して、デス・ウィズ女王は息を引きとり。女王の遺言に従ってキリル・キルは、外科術式で女王の影武者を作った。

 最初はキリル・キルも。デス・ウィズ女王に対する純粋な忠誠心から、一体だけ整形術式で影武者を作って終わらせるはずだった……最初は。


 最初の影武者女王は、影武者希望の従女だった。デス・ウィズ女王のフリを続けていたが。やがて精神に変調をきたして……数ヶ月で自殺した。

(女王の死を百年間隠さなければ……どんな手を使っても)

 極秘に行われる狂気の影武者製作、女王と年齢と背格好が似通った近辺の女性を拐ってきて影武者を作り出すようになると。

 声でバレないように声帯を除去したり非人道的な処置も、キリルは平然と行うようになった。

(すべては、親愛なる女王さまのため)

 

 キリル・キルの外科技術は天才の領域で完璧だった。女王と近い背丈と年齢の女王に外科処置を行い、外見上は女王デス・ウィズと寸分も違わない影武者を作り出す。


 やがてそれは、自分自信の外科技術に酔狂する歪んだ狂愛へと変わり。

 完璧な女王の影武者を作り出すコトが、キリル・キルの目的となった。

 地下に廃棄される、精神に変調をきたして自殺した、 おびただしい数の影武者女王の遺体。


 しかし外見上はデス・ウィズ女王に似せても、心は別人……そのギャップに耐えきれなくなり自らの命を絶つ女性たち。

 キリル・キルの苦悩がはじまった。

「どうすればいい……どうすれば、肉体に心を移植できる」


 苦悩を続け、飲めない酒で荒れていたキリルに近づいてきた人物がいた。

 狂気の脳科学者で、他国で国外追放されて、この国に流れてきたキリルの友人だった。

 狂気の脳科学者がキリル・キルに言った。

「デス・ウィズ女王とそっくりの女が、夜の町をさ迷っているのを見た……あの目は尋常じゃなかった、心が壊れた目だった。

白状しろ、おまえだな、あの女を作ったのは……オレを信じて話してみろ、誰にも言わないから」

 キリル・キルは、互いを理解し合える唯一の存在に、天才ゆえの苦悩を明かした。


 キリルの話しを聞き終わった狂気の脳科学者が言った。

「人間の人格や思考を電気信号に変えて、外部データできると言ったら、おまえは信じるか?」

「電気信号? それが本当なら、スゴいコトだ」

「人間の思考パターンは分類できる、それを組み合わせて──女王の三歳までの疑似幼少期経験とや体験が与えて。形成すれば亡くなったデス・ウィズ女王の……」

「人格と思考パターンが完成する」

「そうだ、それをおまえが作る影武者に 複製コピーして移植すれば、完璧な女王になる……外見をおまえが作り、内面をオレが提供した技術で作るんだ」


 こうして、狂気の影武者女王が完成した。

 ただ、複製を重ねるたびに女王の人格と思考に。本来のデス・ウィズ女王とは少し異なる人格と思考が形成され、基本人格として固定された。


【北方地域全土の支配欲と強い結婚願望】

 元々、それがデス・ウィズ女王の潜在意識に隠されていたモノなのか、別人からの強い願望なのかは判別できなかったが。

 その二つを取り除くと、人格と思考は崩壊してしまうので、支柱のように外すコトはできなかった。


「混沌化させた北方地域を支配して、北方の若い男たちを……整形術式で同じ顔に変えて、全員わたくしの夫に」

 それが影武者女王、共通の思考となった。



 キリル・キルは整形術式で容姿をデス・ウィズ女王に変えて、ドレス姿で術式ベットに横たわる暗殺者メイドを眺める。


(胸部に埋め込んだ、人工補助心臓も問題なく起動して、生体心肺も蘇生した──コピー人格とコピー思考の移植も完了した──人工心臓の稼働で発生する電力を利用した、光学兵器も影武者の片目に埋め込んだ)

 北方地域は、他の地域に比べて科学技術が発達した特殊な地域だった。

 特にデス・ウィズ女王が統治する小国は、アチの世界から流用された科学技術が頻繁に利用されている。

 影武者女王に変えられた、元暗殺者のメイドが目覚め傍らに立つ術式着姿のキリル・キルに向かって微笑む。

「キリル・キル……おはよう」

 キリル・キルは、いつものように新しい影武者女王に、目を弧に歪ませて狂愛するデス・ウィズ女王に向かって言った。

「おはようございます……デス・ウィズ女王」


 氷河に半分埋もれた、アイス・イングリッシュ城は、いつもと変わらぬ朝日を浴びてキラキラと輝いた。



北方地域・影武者女王【デス・ウィズ】〔外科医キリル・キルの狂愛〕~おわり~

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凍てつく北の大地の魔女皇女〔男の娘〕【イザーヤ・ペンライト】は超科学を操る 楠本恵士 @67853-_-

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