北方地域・影武者女王【デス・ウィズ】序章・異界大陸国【レザリムス】〔SEED〕より別載

北方地域・影武者女王【デス・ウィズ】〔外科医キリル・キルの狂愛〕①

 アイスイングリッシュ城で編み物をしていた、デス・ウィズ女王が突如呟く。

「わたしは誰? あぁ、そうでした影武者の女王でした……元の名前と姿は誰? あぁぁ、子供と夫が待っている帰らないと……どこに? あはははっ、あたしは、どこに帰ればいいのかしら?」


 発狂した影武者の女王女は、発作的に鋭い編み棒の先端で自分の喉を貫き倒れた。

 直後に部屋に入ってきた闇外科医の『キリル・キル』が自害した女の遺体を眺めて首を横に振る。

「また、精神が肉体の変貌に耐えられなかったか……まぁ、いいです次は、もっと精神的に強い女を素体に手術オペをしましょう」

 部屋の明かりが消えて、すべてが闇に閉ざされた。


 雪が降り積もる永久凍土の小国、氷河に城の半分が埋もれた『アイス・イングリッシュ城』──暖炉の炎が揺らぐ部屋に、スノーブルー色のドレスを着た貴婦人がロッキングチェアに座り、編み棒で編み物をしていた。

 床を這う大蛇のように長く太い、いつ編み物終わるとも知れないマフラーを編み続けている。


 影武者女王『デス・ウィズ』は、顔を上げると壁に掛けられてる肖像画を眺める。

 一枚目の肖像画にはデス・ウィズが描かれていた……その次の肖像画にもデス・ウィズが……次の肖像画にも。

 すべての肖像画に描かれている、女王デス・ウィズの姿。

 異様な光景だった。

 編み物を中断したデス・ウィズは、暖炉の部屋を出て別の部屋に移動する。

 その部屋では、新しく入ったメイドがティータイムの用意をしていた。

 デス・ウィズが無言で椅子に座ると、メイドはティーポットの北方紅茶をカップに注いでデス・ウィズの前に置く。


 デス・ウィズがメイドに向かって言った。

「毒味をしなさい」

 新顔のメイドがカップに入った紅茶を口に含み、飲み込んだのを確認したデス・ウィズは、メイドが毒味をしたカッブを手に紅茶をすする。

「毒消しや解毒剤の類いを飲んでいたり、毒を無毒にする西方の魔術もかけられてはいないようですわね」

「そんなもの、飲んだりしていませんよ……毒に耐性がある体質でもありませんから」

「そのようで……うぐっ!? がはぁぁ!?」

 急に苦しみ出したデス・ウィズは胸元を掻きむしり、椅子から床に転げ落ちると床でもがき苦しみ、断末魔の表情で絶命した。

 死亡した女王を見下ろして不敵な笑みを浮かべる 暗殺者アサシンのメイドが言った。

「あらかじめ、解毒剤を飲んでおくなど……そんな小手先の細工は必要ない」

 毒が入っていたのは飲み物ではなく、カップの縁の外側の方に少量の毒物が塗られていた。

 最初に毒味をした時は、毒を塗っていない方のカップの縁からメイドは紅茶を飲んだ。

 メイドが言った。

「なにが影武者女王だ……我ら毒殺術を生業とする暗殺者家系、依頼されて狙った獲物は外さない」

 

 影武者女王デス・ウィズは、常に命を狙われ続けていた。

 暗器を使った殺傷や爆発物の物理暗殺、魔術暗殺も行われてきた。

 しかし、女王の命を狙った暗殺者は、誰も城からもどらず。


 翌日には女王に虐げられている国民の前に、女王デス・ウィズは平然と現れ国民を落胆させた。

 いつしか、女王には『複数の影武者がいるのでは?』そんな噂が広まり、デス・ウィズ女王は民衆から影武者女王と呼ばれていた。


 女王の毒殺に成功した、メイドの暗殺者は女王が飲んだカップの縁をハンカチで拭いながら冷笑する。

(あとは、この城から脱出すればいいだけ……これで、あたしの名も暗殺者界に轟いて) 

 暗殺者のメイドがそう思っていた時──部屋の中に、まばらな拍手が聞こえてきて。柱の陰から影武者女王デス・ウィズの声が聞こえてきた。

「お見事ですわ、でもまだ詰めが甘いですわね」

 柱の後ろから現れるデス・ウィズ。

 さらに、今度はカーテンの裏からもデス・ウィズの声が聞こえてきた。

「前に、わたくしに気づかれないように少量の毒物を服用させて、体内致死量に到達させて……あたくしの毒殺に成功した、メイドがいましたわね」

 ドアが開き、数人のデス・ウィズが部屋に入ってきた。

「あの時のメイドと顔立ちが似ていますわね、血縁者ですか?」

「どちらにしても、爆発物や刃物を使った暗殺でなかったコトは高く評価しますわ……爆発物暗殺は無関係な人間を巻き込む危険性があり。室内で刃物を使うと部屋に血痕が飛び散り染みになって大変ですから」

 

 暗殺者のメイドは、床で絶命している女王と次々と現れる、デス・ウィズ女王を青ざめた顔で交互に見る。

(そんなまさか!? 本当に影武者女王だったなんて?)

 女王の片目から一条の光りが発射されて、暗殺者メイドの額を貫通する。

 メイドが即死で床に倒れると、影武者女王たちの背後から側近で闇外科医の若い男『キリル・キル』と、黒衣姿で目だけ布から覗かせた数名の男たちがゾロゾロと入ってきて。手慣れた様子で毒殺された女王の遺体を片づける。


 キリル・キルは、頭部を光線で撃ち抜かれた死亡した暗殺者メイドに近づくと、瞳孔の状況を確認してから取り出したメジャーでメイドの身長を測定して言った。

「少し身長が足らないようですが、外科的処置で伸ばしましょう……胸部も豊胸すれば大丈夫」

 キリルが黒衣の男たちに言った。

「この遺体を、いつもの処置室へ」

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