第8話・食材は『転生者の魂?』 ラスト

「さぁ、この調子でドンドン食材を集めていこう♪ にゃは♪」

 浜から移動をはじめるカリュードたち、一瞬立ち止まった炎樹が振り返り、何か気になっているような素振りを見せた。

「炎樹、どうしたんだワン」

「なんでもない、気のせいだったか?」

 カリュードたちが浜から姿を消す──この時、離れた茂みの中から、様子をうかがっていた複数の複眼があった。

 茂みの中に潜んでいた赤、青、黄のトンパ・トンパが会話をする。


「ギギィギィギ〔見ました? 奥さま、人間の皮を被っていますけれどアレ同胞のトンパ・トンパですわ……フェロモンでわかりますわ〕」

「ギギィギィギーッ〔ええっ、それも変異体のオスですわね……なんて魅力的なオス〕」


「ギギィギィ……ギィ〔捕獲してクィーントンパ・トンパさまに、差し出せば女王さまは、お喜びですわ〕」

「ギィーッギィギィ〔機会を待って、オスを捕獲しましょうトンパ・トンパ〕」

「ギィギィ〔トンパ・トンパ〕」


 カリュードたちは、順調に食材を集めていった。

 暑さで少し溶けている、板チョコに線と球体の手足が生えている、動き回るマンガのような食材をゲットして、虫カゴに入れたカリュードが言った。

「そろそろ、バースデーケーキの食材を提供してくれる人に会いに行かないと……にゃは」


 カリュードたちがエルフオーナーから指定された場所に行ってみると、南国風の家の中から編みカゴを脇に抱え、腰にパレオを巻いた十七歳くらいの、後ろ髪を横で束ねた少女が出てきた。


 少女はすぐに巨大な戦斧を担いで、七色に輝く皮鎧を着たカリュードに気づく。

 軽く頭を下げて、少女が言った。

「野蛮料理人のカリュードさんですか? エルフさんから来るコトは聞いています」

「にゃは♪ 野蛮料理人じゃなくて、蛮族料理人あなたは?」

「呪術師です──この間、師匠から晴れて十三代目を名乗るコトを許されました。ケーキの材料でしたね、どうぞこちらへ」

 呪術師少女に案内されて、家に入るカリュードたち。

 壁に南方特有のお面が飾れた部屋で、呪術師少女は壺を持って来た。

「これが、バースデーケーキの材料です」

 壺の中に棒を突っ込んで、黒っぽい灰色をした水飴のようなモノをたぐり持ち上げる。

 持ち上げられた水飴状のモノには、泣き出しそうな簡単な顔が数個あった。『ヽ状の目』に『ヘ字型の口』がある顔たちが。

「がぁあああああ……」と、呻いていた。

 呪術師少女の説明。

「あたしは、アチの世界の戦時中に避難した防空壕ぼうくうごうの奥にあったコチの世界に繋がる通路を通って、やって来て定住しました……この壺の中に入っているのは〝強制転生者〟の魂の残骸です」

「強制転生者?」

「安易に『異世界に転生してぇ』と思っていた現実逃避のク●たちを、呪術の力で呪殺して転生させた者たちの末路まつろです」


 少女の話しだと、呪術の強制転生は、惨たらしく苦しむ死に方をして転生してくるらしい。

 そして、壺の中の転生仲間と融合していく。

「呪術で転生させたんだから、地獄行きにならなかっただけでも感謝してもらいたいですね……転生したのは、生物でなくて食材ですけれど」


 すべての食材が調達できたカリュードたちは、アチの世界の毒森創作レストランにもどった。

 後日──裏鳴学園長を招いたバースディーバーティーが行われた。


 挙動不審でオドオドしている裏鳴学園長の前に、料理が運ばれてくる。

「前菜の〝誕生日を忘れないで草〟のサラダです……花たちが歌って誕生日を祝ってくれます」

 マンガのニコニコ顔のような花のサラダが、ラップ口調で歌う。


「〝七種のデンジャラス食材スープ〟です、具財はスープの湖中に隠れていて見えませんが……時おり浮上して姿を現します」

 濃厚なクリームスープの中から、ミニチュアサイズの首長竜が頭を持ち上げたり、エビのハサミや、ミニチュアクラーケンの触手が浮かんでは沈む。


「メインデッシュの〝電撃エレキナマズのソテー〟です……調理されても、ピリピリと放電しています」


「東方地域からの渡り鳥〝イツマデン鳥の南国風姿煮込み〟です……死者の近くを飛び回って『イツマデン! イツマデン!』と鳴いています」


 デンジャラスな料理の数々に、吐きそうになりながらも裏鳴学園長は涙目で、料理を口の中に押し込み咀嚼そしゃくする。


 最後に、不気味なバースデーケーキがホールサイズごと出てきた。

 黒っぽい灰色をしているケーキの表面では、転生者の魂の残骸が呻いていた。

 裏鳴学園長が、これはムリという素振りを見せると、コック姿で戦斧を持ったカリュードが微笑みながら言った。

「にゃは♪ 苦労して集めた食材だ、ムリヤリにでも全部喰わせろ!」


 毒森学園長が、裏鳴の口をこじ開けて呻くケーキを押し込む。

「ぐぇぇぇっ」

「があぁぁ……殺してくれぇ……異世界転生なんてするんじゃなかった……苦しい……ぁぁぁぁ」


 裏鳴の口に、呪われたケーキを押し込みながら毒森学園長が言った。

「君が異世界転生を夢見て、笑いながら電車に飛び込んでから……君の母親は、君の遺影を拝むたびに涙していたぞ……この親泣かせが」


 裏鳴がホールごとケーキを食べきって、誕生日パーティーが終了するとカリュードが裏鳴に訊ねる。

「にゃは、いかがでしたか? 南方地域の料理は」


 その時──店の物陰に潜んでいた、赤、青、黄の三匹のトンパ・トンパが急に現れて、ウェイトレス姿の牙美を、あっという間に壁に飾られている、エルフオーナーの絵に連れ去った。


 あまりの早業に、茫然とするカリュードたち。

 最初に口を開いたのは風紋だった。

「大変だ! 牙美がトンパ・トンパに連れ去られた!」

「みんな、トンパ・トンパを追って牙美を取りもどすよ!」

 それぞれの本来の姿にもどったカリュードたちは、エルフオーナーの絵に飛び込み消えた。


 百目族の姿にもどった毒森学園長が、怯えている裏鳴学園長に百目を怪しく光らせながら言った。

「誕生日ケーキを楽しく食べ終わった後の出来事は、忘れなさい……君は何も見なかった。美味しい料理を食べて祝ってもらっただけだ……いいね」



 数日後──現世界の【毒森メニューがない無愛想な創作料理店】店内で雑談をしているカリュードたちの姿があった。

 カリュードこと、雁竜子が言った。

「クィーントンパ・トンパも、中央地域のゴルゴンゾーラ城であれだけのダメージを受けたら、しばらくは大人しくしているね」


 ウェイトレス姿の霧崎牙美が、テーブルを拭きながら言った。

「まさか、異世界であんな目に合うなんて……もう、こりごりだ危うくクィーントンパ・トンパの体内に取り込まれるところだった……考えただけでゾッとする」


 手の中の炎で遊びながら炎樹が言った。

「あたしらのチーフは、南方地域の守護者だからね……食材だけ集めていれば、いいってもんでもないからね」


 水芸をしながら、人間形態の水犬が言った。

「南方地域の食を、南の厄災から守るのもボクたちの仕事の一つ」 


 手の中で小さな竜巻を作り出して、風紋が言った。

「食魔獣トンパ・トンパとの戦いは、この先も続きそうですね」



最終章・表学園長の誕生日料理はとってもデンジャラス~おわり~

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南の蛮族料理人少女【カリュード】が戦斧を振り下ろして調理する 楠本恵士 @67853-_-

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