第7話・異世界・南方地域へ……
エルフオーナーが裏鳴学園長について、説明する。
「裏鳴学園長は、元々は異界大陸レザリムスに転生してきたパカな高校生でね……トラックや電車に跳ねられて死ねば、異世界転生できると安易な考えで走ってきた電車の前に飛び出して死んだの。
望み通りに転生はできたけれど、人間じゃなくて、ウ●コ臭い生物に転生してね」
高校生の裏鳴がレザリムスで、生まれ変わったのは犬のような生物の下半身が、タコのような軟体生物の触手になっている生き物だった。
害獣として駆逐される運命の生き物で、肉は固くてマズく、皮は臭くてパリパリで。
乾燥させて砕いて肥料にするくらいにしか利用価値がない、最低の生き物だった。
「まっ、そんな短絡的な理由で死んで、地獄に堕ちなかっただけでも運が良かったわね。
でね、あたしが食材を狩っている時に、間違って彼を撃っちゃったのよ……背中に白い翼を生やして、昇天していく彼の魂は『あぁ、これでもう一度異世界に転生して、今度こそはチートな能力で無双で、ざまぁでハーレムを』なんて甘い考えで昇天しようとしたんだけれど」
そこに、木製のハンマーを持った天使たちが現れて。現実逃避の高校生のク●魂をアチの現世界に叩き落として──社畜の冴えない中年男の体に、魂を叩き込んだらしい。
「貧乏神みたいな風体の中年オヤジになって、朝から晩まで社畜で働かされていた高校生を哀れに思った毒森学園長が、【しょーもない転生願望の理由だけで、自分の命を粗末にしないで、とにかく生きてみるコトを条件に】表に立つ学園長として彼に新たな人生の仕事を任せたわけ」
長い説明を終えたエルフオーナーは、テーブルの上に置いてあったステンレスのウォーターポットから、コップに注いだ冷水で喉を潤してからカリュードに向かって言った。
「当然、表学園長の誕生日料理の食材調達やるわよね」
「もちろん!」
カリュードが、戦斧を掲げると虹色に輝く球体が飛んできて、七色に反射変化するアルマジロの皮鎧が装着される。
「にゃは、チーフ料理人『カリュード』登場!」
風紋の全身が電撃をまとった旋風に包まれ、風と電撃が掻き消えると。
太く捻れくねった上へ伸びるコルクの栓抜き状に巻いた
「ファースト料理人『風紋』参上」
炎樹の全身を包む炎が体に吸収されると、後ろ腰に二本の剣を交差させた、燃えるような紅い髪の女剣士の形に変わる。
「セカンド料理人『炎樹』推参」
水柱に包まれた水犬の姿が、二足歩行ヌイグルミ形態の等身カラクリ犬、器物獣に変わる。
「サード料理人『
エルフオーナーが、蛮族料理人カリュードに紙片を手渡して言った。
「誕生日パーティー料理のメニューは任せる……ケーキの主材料は、その紙に書いてある人の所に行けば手に入るから……行ってらっしゃい♪」
カリュード、風紋、炎樹、水犬……そして、なぜか霧崎牙美の五人は。迷彩服エルフの等身肖像画から、異界大陸国レザリムスの南方地域へ向かった。
料理人たちがいなくなると、壁に掛けられていた深海生物のようなナゾの乾物を、椅子に座ってヒルのような口でしゃぶっていた、コアゲハが言った。
「なんか喰わせろ、腹へった」
毒森学園長とエルフオーナーが言った。
「ナマアゲハ王には、日頃からお世話になっているから……わたしが、厨房を借りて簡単な料理を作ろう……これでも、若い時に東方地域の城の迷路食堂で、バイトのコック見習いをしていた時期もあったからな」
「あたしも、何か作ってあげる……肉の塊を火で炙って塩コショウで味つけをした料理だけど……ちなみに、味つけに使う岩塩は西方地域アルプ・ラークル産の良質岩塩で、肉は北方地域の常温で凍結して保存か効く雪トドの肉で」
異世界大陸国・南方地域──『人面ヤシ』の葉が潮風に揺れる海岸に立った、霧崎牙美は感慨深そうに。噴煙がたなびく活火山【オッ火山】の島を眺め呟いた。
「ここが、異世界か初めて来た……なんか懐かしい感じがする」
浜を縦に並んで行進していた『軍隊カニ』を捕まえて、植物の繊維で作った縄で結わえながらカリュードが言った。
「にゃは♪ 牙美の実のお母さんは、この世界のトンパ・トンパだからね」
霧崎牙美は、乳幼児の頃に現世界に飛んできた、トンパ・トンパのメスから体内に卵を産みつけられた。
体内に産みつけられた卵から孵化して幼虫になったトンパ・トンパは、乳幼児だった牙美の内部を食いつくして皮だけ残し、霧崎牙美として自分がトンパ・トンパだと知らないまま成長した。
牙美が言った。
「オレ、この世界に来ても大丈夫なのか? アチの世界〔現世界〕の人間がコチの世界〔異世界〕に来て、もどる途中にウ●コに変わるって聞いているけれど?」
「牙美は元々、南方地域のトンパ・トンパのお母さんから生まれたから大丈夫だよ……ウ●コにはならないよ」
砂浜の葉っぱに積もっている、赤い火山灰を見ながら風紋が言った。
「アチの世界から来た宇宙人も、もどれなくて西方地域の洞窟で、ウ●コに変わってしまったと噂で聞いたことはありますがね……最近、オッ火山から赤い火山灰が降りましたね、南方地域にはこんな伝承があります『オッ火山が怒り赤い火山灰が降る時……クィーン・トンパ・トンパが現れる』」
石で一匹の軍隊カニのヘルメットのような甲羅を叩き割って、中の具を手づかみで食べながらカリュードが風紋に訊ねる。
「『クィーン・トンパ・トンパ』って、あの怪獣みたいに大きいヤツ? 気に入ったオスを体内に取り込んで、繁殖するっていう?」
「ええっ、体内に取り込まれたオスは器官と癒着して、メスの器官の一部となって生涯を終えます」
「にゃは、どちらにしても、オレたちは誕生日料理の食材を集めなきゃならないから、クィーントンパ・トンパに関わっているヒマはないね……風紋、軍隊カニは傷むのが早いからサブ料理人のラブラド3号と、ラブラド6号を呼び出して」
風紋が取り出した羅針盤のグッズの文字盤を回して合わせると、白地にスノーブルー色のグラディーションがある和装姿の
黒髪のラブラド3号が言った。
「お呼びですか?」
「にゃは、軍隊カニが暑さで、傷む前に冷凍保存して」
雪女のような格好をしているラブラド3号が、白い息を軍隊カニに吹きかけると軍隊カニは氷塊に包まれた。
次に風紋が羅針盤を操作すると、今度は宅配員のような格好をした『ラブラド6号』が現れる。
「お届け品ですか?」
「この冷凍カニを【毒森メニューがない無愛想な創作料理店】に」
冷凍軍隊カニが、保冷容器に入れられ、冷凍軍隊カニの容器を持った。
食材運搬担当のラブラド6号の姿は、揺らぐ空間の中に消えた。
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