4-4 女神とバトル

 イクスが、半神としての力を用いて神殺しの槍を振るえば、天使相手にはオーバーキルもいいところだ。


 イクスの方は放置でいいので、俺は改めて女神に対処することにした。


「私は女神、この地にありて、光り輝く道標」


 痛みのせいでトリップし、おかしなことを口走っていた。


「グハッ!」


 まあ、ただのボヤキでなく、ちゃんとした女神の攻撃で、俺の神性領域にダメージを入れてきた。


 人間で言うと、腹を1発殴られた感じで、体がふらついてしまう。

 膝が少し笑ったが、なかなかにいい攻撃だ。


「いいねえ、これでこそ戦いだ。

 痛みダメージを受けるからこそ、戦っている実感がある」


 おもちゃ相手だとダメージを受けることがないので、戦っている気分を味わえないが、神相手だと俺にもダメージが入るので嬉しい。


「神聖なる輝き、示される世界は豊穣たる……」


 俺は嬉しくなるが、女神の奴はこっちのことなどお構いなしで、次の攻撃。


 あんな文言を口にしている間も、俺の神性領域をガリガリと攻撃してきている。

 すべての文言を唱え終わって発動する魔法と違い、神の攻撃は言霊を口にしている最中も、常時攻撃状態になっている。



 しゃべる前に攻撃しているので、女神も多少は頭が良くなったようだ。


 ひび割れた顔の奥に浮かび上がっていた、黒い染みのような点が消えていて、逆に俺の神性領域の中に、女神の白く輝く神性領域が流れ込んできている。


 今度は攻守一転で、俺の方が食われている。



「うおっ、体が痺れる」


 女神の攻撃に、俺もテンション上がるな。



 と言っても、地球でバトった、オーディンとか、アレスとか、スサノオとか、戦女神のヴルキリーなんかの方が、もっと強くて楽しかった。

 あいつらは戦い慣れしている神なので、一撃一撃がとにかく重い。

 技量においても、俺の弱点を的確に突いてきた。


 それに対して、女神の攻撃はジワジワと相手を蝕む感じ。


 ヘラとか、ハデスなんかがこんな感じだ。

 あとイザナミもいるか。


 なんというか、暗く湿ってキノコが生えてそうな場所に住んでる神が、こういう攻撃を好んで使ってくる。

 陰湿なんだよなー。


「そりゃ」


「ギャアッ」


 ブツブツ呟きながら俺を食おうとするので、拳で女神をぶっ飛ばした。


 物理最強。

 脳筋こそ志向。


 物理最強と言いつつも、神性領域を纏った攻撃なので、女神にはクリティカルダメージだ。


 殴った拍子に女神が吹っ飛んで、神殿の壁を何枚も破壊しながら、遠くに吹っ飛んでいく。


「殴りすぎたか?……グフッ」


 吹っ飛びすぎた女神が、ギャグマンガのように遥か彼方へ消えってしまったので心配になったが、反撃を受けてしまった。



 女神の体が遠く離れても、神の戦いでは距離という概念は、大した意味をなさない。


 女神の目には見えない反撃を受け、俺も派手にぶっ飛ばされてしまう。

 そのせいで神殿の壁を、何枚もぶち破ってしまう。


「いつつー、頭にくるなー」


 目の前を星が回って、クルクルする。

 頭に血が上った方の、頭にくるではない。



「っと」


 神の戦いに距離はあまり意味がないが、神性領域を狙われた攻撃は回避。


 繰り出される拳を、手のひらで叩き落とすみたいな感じか?



「グハッ、ゴホッ」


 そして遠くに吹き飛ばしたはずの女神だが、いつの間にか女神は姿形を失っていた。

 実体が消え去って、女神は目では見えない存在に変化していた。


 まるで空気のような存在だ。

 ただしその空気は毒となって、俺の周囲に巻き付いてくる。


 透明な水に絵の具を垂らすと、ひとつの色に染まっていくように、俺の神性領域が一度に侵されていく。



 おっ、これは結構被害甚大だ。

 笑って受けるには、命の危機をちょっと感じる。


 人間だと、鼻や口から血を垂らしてる状態だ。


 でも親父とバトっていれば、こんなのは日常茶飯事なので、焦ったりしない。


 こういう場合の対処法は、俺の全身を火あぶりにすること。

 そんなイメージで、自分の神性領域全部に、火をつける感じで派手に自傷行為をする。



「グヘェッ」


 全身を炎で焼くのだから、当然物凄く辛い。

 人間が火で焼かれるのとは感覚的に違うけど、これはあくまでも例えだから、そう説明してるだけだ。


「アガアアー、私の力がー」


 全身自傷行為は、俺の神性領域に取りついて、一気に侵そうとしてきた女神にも大ダメージとなる。


 ゴロゴロと転がって、女神が俺の傍の床に現れ、もがき苦しむ。

 女神も俺と同じように、全身火あぶり状態で焼かれるダメージを負っている。



 ただ、痛みに慣れていない女神と違って、俺はこれくらいの痛みは慣れているので、ギャーギャー叫ぶことはない。



「さてと、まあまあ楽しかったけど、そろそろ終わりにするか」


 この女神、攻撃方法が陰湿でえげつないけど、それだけだ。


 親父みたいに正面から殴り合う感じではないので、これ以上戦ってもたいして面白くない。

 一応、神としての命を懸けた戦いをしてるけど、どうにも弱すぎて緊張感が長続きしない。


 大体、神なら拳で戦えよ。

 もしくは、神剣での切り合いも可!


 でも、この女神にはそんな要素が皆無だ。


 俺は手にした神殺しの神剣を振るった。



 女神の両腕と両足を、付け根から切り落とす。

 神性領域を直接切断する攻撃なので、女神はしばらく自分では身動きできない、重傷を負う。


 あと、口を動かされると面倒な攻撃が飛んでくるので、口の中にも神剣を突っ込んで、女神の神性領域を破壊しておく。


「!!!」


 口の中を壊されると、女神は何もしゃべれなくなった。

 今は肢体も切り落とされているから、メッチャ痛いと思うけど、泣いて叫ぶことができなくなる。


 こうなれば、戦闘不能だな。



「女神の達磨が完成っと」


 肢体をぶった切られ、さらに口の中に剣を突っ込まれれば人間なら死んでるが、神相手だと、これでも死なないから大丈夫。

 神殺しの神剣で突かれても、神性領域は時間を掛ければ、ゆっくりとだが回復していく。



 まあ、これだけあちこち神剣で切られたら、この女神の場合、回復までに数百年どころか、何千年かかるかもしれないが。



「兄さん、終わった?」


「おう」


 女神の自由を完全に奪ったところで、イクスが俺の傍にやってきた。

 イクスの方はとっくに天使たちを掃討していて、俺の戦いが終わるのを待っていたようだ。


 天使相手に戦っている時は、黒く染まっていたイクスの髪も、いつもの白銀に戻っていた。


 神と天使だと強さの次元が違うので、俺の戦いの方が時間がかかるのは仕方ない。




「それで、この女神はどうするの?」


「一度うちの国に持って帰る」


「ふーん」


「それから、ふざけた召喚魔法を使って、俺たち兄弟を別世界に誘拐した悪党だから、こいつがいる世界を征服しようぜって事にして、うちの国の軍隊を動員する理由に使う」


「そうなんだ」


 ちゃんとした世界征服をするために、この女神にはちょっとした政治の舞台道具になってもらおう。

 その後は捨てるのがもったいないので、俺が全部食べてしまう予定だ。


 せっかく手に入れた神なので、神性領域全てを食べてしまわないともったいない。



 後日、なぜかイクスに

「兄さん、悪食すぎ」

 と、言われたが。

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異世界に召喚されたので、世界を征服する エディ @edyedy

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