4-3 女神とバトル

 しかし、その攻撃を体に受けて、俺は思う。


「温すぎる」


 まったくもって大したことがない。

 夏の太陽の下で日焼けする方が、まだヒリヒリする。


「私の攻撃が効かない?

 その剣のせいですか」


 女神の視線が、俺が手に持つ神殺しの神剣へ向かう。


 この剣は、名前の通り神を切れる神剣で、神の有する神性領域を直接攻撃することができる。

 そして神性領域から放たれる攻撃を、叩き切ることだって可能だ。


 だが、俺は神剣を使っていない。



「なに寝言を言ってるんだ?

 俺は半神と言っただろう。

 だから当然、神性領域を持っている」


 神性領域から放たれる攻撃は、物理的に防ぐことはできない。

 ただし、神性領域を有する神であれば、防御することができる。


 防御した際に、攻撃に使われたのと同等の神性領域が削られてしまうが、相手の攻撃がショボければ、表面を爪で引っ掻かれた程度の痛みすら感じない。


「半神風情が、調子に乗るな。

 私が、ただ軽く触れただけの攻撃に耐えた程度で……」


「調子に乗ってるのは、お前だろうが」


「ウガアッ!」


 LEDっぽく光り輝いていた神殿に、闇が出現し広がっていく。

 メキメキ、ミシミシと音を立て、神殿の壁や天井にヒビが入り、生まれた隙間から闇が蠢き、光の領域へ雪崩れ込んで侵食していく。


 拡大を続ける闇が光を呑み込み、瞬く間に神殿が黒く蝕まれていった。


 そこには女神の放つ、神々しさなんてものは欠片もない。

 深い深淵が、神殿を喰らって侵していく。



 この神殿は、女神の神性領域の一部。

 深淵に染まっていっているのは、俺の神性領域に喰われていってるからだ。



「ギャアアア、やめなさい。神である私を喰らうとは、なんという大罪を!」


「はいはい、無駄口叩く暇があったらバトろうか」


「グアッ!」


 口を動かす暇があったら攻撃する。

 これ、魔界では常識中の常識なのに、この女神はそんなことも知らないのか?


 俺が女神を蹴り飛ばしてやれば、無様に神の御座から吹き飛ばされて、地面の上をゴロゴロと転がっていった。


「ガアッ、アアアッ」


 痛みに苦しみ、それでも何とか立ち上がる。

 だが女神の右顔面が、ガラスのように砕けていた。

 砕けた顔面の奥から光が放たれているが、あれは女神の神性領域を具現化したもの。


 ただ、白い光の中に深い深淵が混ざり込み、黒い斑点がプツプツと浮かび上がっていく。


「おいおい、もしかして神性領域を侵されたことが、ただの一度もないのか?

 お前って、どれだけ温い環境で生きてきたんだ」


 女神は立ち上がってからも、おぼつかない足取りでガクガク震えている。

 その間にも顔面にできる黒い点が広がっていき、深淵に侵され続ける。



「ヒィ、ハアッ」


「主よ!」


 無様にあえぐ女神に危険を感じたのか、女神の傍に控えていた、くもべの大天使が動いた。


 手に聖槍を持ち、俺を攻撃してこようとする。


 女神と一緒に相手をしてもいいが、あの槍で刺されても痛くないので、無視でいい。

 天使では、俺の神性領域にダメージを与えることができない。



 そんな天使だが、投擲された槍に頭を貫かれ死んだ。


 俺は何もしていない。

 やったのは、いつもは大人しくしているイクスだ。



「兄さん、天使の相手は僕がするよ」


「そうか、じゃあ任せた」


「うん」


 もともと俺1人でここに来るつもりだったので、女神と一緒に天使も叩き潰すつもりだった。


 でも、イクスがやる気だと言うなら、任せてしまおう。

 たまには運動戦闘させないと、体がなまるだろうし。



「主の危機である。皆、異端なる存在を排除せよ!」


 大天使はイクスの放った槍で即死したが、神殿にいた天使たちがぞろぞろと現れて、イクスへ群がってくる。


 天使たちは聖力を用いた攻撃を放ち、七色の光が雨あられとイクスの体を貫こうと、光り輝いた。



 ミラーボールかな?

 ジュリアナ東京って言うんだっけ?

 昭和から平成にかけての、バブル時代のダンス会場を連想させる派手な輝きが、そこら中を乱反射する。


 直視していると目が悪くなりそうだが、あんなのでも一応攻撃だ。


 ヘボそうな見た目でも、12魔将の防御魔法を破壊できるくらいの威力がある。


 魔王クラスの防御を突破できるから、それなりの攻撃力だ。



 といっても、イクスが聖力を放てば、それだけで七色ミラーボール光線がかき消された。


「君たち、僕を侮らない方がいいよ」


 イクスは母上似で、普段は天使の属性を前面に出している。

 体中に膨大な聖力を持っていて、大天使より巨大な力を放つことができる。


 天使たちのミラーボール攻撃を無力化したのは、イクスの聖力の力だ。



「それに君たちは、ただの道具に過ぎないから」


 イクスは静かにそう言うと、白銀色をしている髪が、真っ黒に染まった。

 俺と同じ、黒色の髪だ。


 それと同時に、イクスに群がろうとしていた天使たちが、床に叩きつけられたガラス細工のように、次々にコナゴナになって砕け散っていく。



 母上に似ているが、やはり俺と同じで、イクスも親父の息子。

 半神としての属性を前面に出すと、ああして黒い髪になって、神性領域を用いた攻撃を繰り出すことができる。

 今のイクスは、神としての攻撃を放って、天使を粉々にした。


「それっ」


 そして手にした槍を軽く振るえば、直接触れたわけでもないのに、数十の天使の体が両断されて消滅していく。


「アギャアアアアーッ!」


 そして轟くのは、天使でなく女神の大絶叫。



「おいイクス、なんで女神まで攻撃してるんだよ。俺の獲物を横取りするな」


「あ、ごめん。つい当たっちゃった」


「ついじゃないだろ。しっかりしろ」


 まったく困った弟だ。


 イクスが持っている槍だが、あれは地球の神殺しで使われた槍だ。


 なんでも300年前に親父が地球を征服していた際、地球の神々相手にもヒャッハーしていたが、その時に拾ったものらしい。

 どんな神を殺して、誰が持っていたのかは全く覚えてないそうだが、かなり高位の神を殺した代物らしく、神々の世界でも貴重な逸品だ。


 当然、ここにいる女神にも攻撃が通ってしまう。



 魔王城うち宝物庫倉庫で、タンスの肥しならぬ倉庫の肥やしになっていたのを俺が拾ってくすねて、イクスの誕生日にプレゼントしたものだ。



「兄さん、これって盗品じゃないよね?」


 プレゼントした時のイクスは、何故かそんな事を聞いてきたが、俺は視線を合わせてニッコリと笑った。


「安心しろ、バレなきゃ大丈夫だ」


「ええーっ」


 とはいえ、出所にうすうす気づいておきながら、しっかり持っているので、気に入っているのだろう。


 しめしめ、奴はすっかり俺の共犯だ。

 親父たちにバレて叱られることがあっても、全部イクスのせいにしてしまえばいい。

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